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暗い夜に踊る  作者: ビシン
住人たち
25/70

第25話 猫の人物3

一瞬沈黙が辺りを支配する。


────こいつ、あくまでじぶんがネコ科の一種と……


「ほう、ネコだな?」


「おい、こいつ絶対詐欺だぞ」


ハクは猫の人物を指差して冷たく言い放った。


それを聞いてまた青筋を立てる自称ネコ科の男。今にも殴りかかりそうだ。


「まあ落ち着け、名など何でもいい。それよりネコよ、お前一人暮らしか?」


ミナが両者の間に立ち、質問する。


「……賃貸アパートだけど?」


少しして、口を尖らせて答えるネコ。何をそんなに答えるのを嫌がることがあるのか。


「やはりな。どうだお前、ここに住んでみないか?」


ミナが提案すると、彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見せた。


そのまま金縛りにあったかのように動かない。


円形のアパートの家賃は大して高くはない。そこらへんのアパートよりはずっと安いのだ。


その金額の提案に管理人を任されるハクとしても抗議の声を上げたほどだ。


ミナは近くに机にある電卓を取り出し、指で叩き始めた。


打ち終わるとそれを固まっているネコに見せた。


「このくらいでどうだ?」


ネコの顔が電卓を見た途端に恐ろしいものでも見るかのように豹変し、手が電卓を掴んだ。


「俺、ここに住む!」


顔を輝かせてネコは言ったが


「ただし」


とミナが条件をつけようとするのを聞き、身構えた。


彼女はハクの袖を引っ張り、目の前に立たせた。


「こいつを倒せ」


「おーい、これは何の罰ゲームだ?」


ハクが、馬鹿らしいと続けたが、ふとネコに目をやる。


ネコの毛が逆立ち、猫のような威嚇の声を出し始めた。


「殺るき満々だな」


「よそ見してんじゃねーぞこらぁ!」


やれやれと頭をかいていると獣が飛びかかって来た。


ハクは相手の手が触れる瞬間に身をかがめて手のひらで顎を────正確には顎があるだろう辺りを────打ち上げた。


ネコはその場でひっくり返り、ソファに激突して床に転がる。


「な、何だ今の!?」


一拍置いてネコが体を起こした。頭を振ってずれたマスクを元の位置に戻す。


「ネコよ、どうしたその程度か?」


ミナがハクの代わりに煽り、ネコは肩を震わせながら立ち上がった。


「て、てめぇ、ただの坊ちゃんやろうかと思ったが……お、おもしれぇ、俺の力を見せてやるよ!」


ネコはそう言うとその場で身体を震わせた。


ミナたちは何が始まるのかと眺めていたが、ふいに彼の身体が光だす。


ハクはミナに下がるように言い、隠しナイフをブーツから手の内に潜ませて身構えた。


「トランスフォーム!」


目の前の光から声がしたかと思うと、その瞬間、光が弾けネコの姿が消えた。


────!?消えた


姿が消える能力か何かだと判断し、慌てて辺りを見回すが、下から何かの気配がした。


「見さらせ!これが────」


そこに顔を向けると、本物の猫がいて、ミナとハクは凍りついた。


「イリオモテヤマネコだ!」


盛大に声を張り上げてアピールするが、その容姿は奇怪の極みだった。


姿は額から背面にかけて数本の縞模様入った淡褐色の普通の猫のサイズのイリオモテヤマネコなのだが、顔は大きなマスクをかぶったままなので────しかも顔が人型状態────、とどのつまりは人面猫である。


────変身能力者か!


超能力────念じただけで物を動かす念動力、物を透かして見る透視、離れたところから頭の中だけで会話のできるテレパシーetc……この世界には様々な超能力者がいる。


猫の人物は身体を別の物体へ変化させる超能力者のようだ。しかしこれなら捉えた時の妙な出来事の説明がつく。


「気色悪!」


頭の中では能力を冷静に分析していたが、その人面猫の風貌にたまらずハクが口に手を当てて思っていたことを吐き出した。


「な、なんだとてめぇ!イリオモテヤマネコだぞ!?絶滅危惧種だぜ?殴ったらぶち込まれるんだぞ!?」


ネコが叫んで飛びかかっていく。ハクは反射的に手の甲で顔をはたき飛ばした。


「痛っ!絶滅危惧種だっていってんだろうが!」


ネコは体勢を整えて再び飛びかかっていき爪を振り回した。そのまま顔に引っ付き両者床に倒れこんで取っ組み合った。


ミナはしばらくその光景を眺めながら、ネコの能力を分析していた。


「トランスフォーム、変身か……ネコよ、お前の能力は面白いな。入居を認めてもよいぞ?」


「は?まじか!ストーカーだぞ?!」


叫んだのはハクの方で、ネコは嬉しさにか、満面の笑みを浮かべている。


「いやこいつ絶対────」


言いかけたところでネコは元の姿に戻り────伸びてきたという表現の方が正しいだろうか────咳払いをした。


「改めて……初めまして!ネコです、よろしくお願いします!」


姿勢も行儀良く、管理人であるハクは眉間にシワを寄せた。


と、ノックの音が聞こえ、桜が茶葉を持って帰って来たようで入って来た。


「お嬢様、紅茶の葉を持って来ましたよ……って、何かあったんですか?」


桜は散らかった部屋と傷だらけの男2人を見ながらミナの方へ歩いていく。


主人はにやりと含み笑いを浮かべた。


「何も」


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