第23話 猫の人物
「……お前名前は?」
応接室────
本来護衛依頼者との交渉の場として使っているが、一番近い部屋はここしかなかった。
真ん中に長方形の長いテーブルがあり、両側面に2人掛けのソファがある。中央正面には高級そうな大きな1人用の机が置いてある。他にもホワイトボードやティーセットなどの食器、簡単な調理器具もある。
ミナたちは猫の人物を後ろ手に縛り上げ、ソファに座らせ、自分たちは向かいのソファに座った。
どうやらこの猫の人物が幽霊の正体で、夜な夜な何かしていたようだ。
「名は?」
答えない被り物の男に今度はミナが聞いた。
「……」
チラリと男はハクの方を見たが眉間にシワを寄せ、質問に答えず再び俯いた。
「ふむ……仕方ない私は召使いを桜の様子を見に行って来る」
気絶してしまった召使いは部屋に運んで安静にさせていた。事が発展する様子が無いようなので、ミナは桜の元へ向かおうとした。
もしかしたら桜に何か身に覚えがある可能性がある。
「お前は奴の情報を少しでも探れ」
立ち上がる時に横に座る男にこっそり耳打ちする。
「えっ、ちょっ……」
立って引き留めようとするハクの言葉に後ろ手にドアを閉めて廊下に出た。
────さて、どうなるかな
彼女は欠伸をし召使いの部屋に向かった。
猫の人物と二人になるハク。
────やつの情報を引き出せって……言われてもな
残されたハクはチラッと振り返って猫の人物を見た。ソファに座ったまま下を向いて何やらブツブツ呟いている。
────情報か……
ハクはソファに座り、目の前の人物の顔を見つめた。
「……」
「……」
「お前、それマスク────」
「マスクじゃねぇ、殺すぞ?」
────ん?
ハクは辛辣な言葉に自分の耳を疑った。
「いや、それマスクだ────』
「マスクじゃねぇってんだろが、殺すぞ?」
猫の人物は先程の雰囲気とは程遠い、悪い言葉で返して来た。
続けてポケットからタバコを取り出し火を付け出す。いつの間に手の縄を解いたのか。
「オタクなに?人の身体についての悪口言うのか?それ暴力だよ言葉の暴力」
吐くタバコの煙がハクに直撃し彼はむせこんだ。
さっきまでは内向的な男だとハクも思っていたが、どうやら猫だけに猫を被っていたようだ。
「身体って、マスクは身体の一部でもないだろ」
ぼそりと突っ込み、猫の人物に睨まれる。
「てめー、まだ言うか。俺のメイドさんにあんなことまでしておいて」
「は?あんなこと?」
わなわなと肩を震わせ、今にも殴りかかってきそうだ。
────ていうか、いつお前のものになったんだよ
「見てたんだぞ!てめーがメイドさんとまるで恋人のように話してるのを!」
テーブルに手をついて、彼は叫んだ。顔の──正確にはマスク──の形が猫のそれではなく、怒りをあらわにした人型に近い。
「は?何言ってんだお前────」
「許さ、ねぇー!」
煙を盛大にふかして、ハクはまた咳き込んだ。
────だめだこいつ話をきかないな
一体こいつの頭はどんな展開が広がってるのか、と頭をかく。
と、ふと猫の人物のベストが妙に膨れているのに気付いた。チラチラと黒い物が見え隠れする。
怪しく思ったハクは手を素早く伸ばし猫の人物の頭部を軽く横に叩いた。被り物の頭部が回転し、視界を奪う。
「うわ、何しやがる!」
慌てて戻そうと気をやっている間にするりとポケットを探り、黒い物体を取り出した。
ハクはよく見るため、もう一度直りかかった被り物を回転させて背後のソファに隠れるように座り込んだ。
「くそが!」
黒い物体はビデオカメラだった。端のプラスチックが欠けている。
────あのプラスチックの破片はこれのか
桜が気絶していたところに落ちていたと思われるプラスチックの破片を思い出して合点が合う。
何を撮っていたのかと電源をつける。甲高い機械音とともに起動するビデオカメラ。
────ん?ついたのか?
電源をつけたはずが、モニターは真っ暗だった。壊れているのかと思ったがモニターの端にメニュー表示が出ている。触るとメニューが開いた。ハクは記録をさらに開き、動画の一つを再生した。




