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暗い夜に踊る  作者: ビシン
住人たち
20/70

第20話 キッチン


アパートの業務用のキッチン────


────特に変わった所はないような


ただ見すぼらしく段ボールで修繕されている壁を除いて。一体何があったのか。


ハクは立ち上がって周りを見渡した。


入り口から真っ直ぐに行くと中庭へ続くドアがあり、その途中よりカウンターの角が来ている。手前のカウンターにはワゴンが2台あり内の1台はよく使うものだ。もう1台は予備だろう。


カウンターの内側は料理場になっていてその背後に業務用冷蔵庫と乾燥機が並んでいる。


桜はいつもここで調理し、広間へ持って行ってミナと食事を摂っている。


ハクは取り敢えず隅まで覗いてみることにした。


予備のワゴン車の下、その周辺。カウンターの上下の棚には食器や調理器具があり、その奥。冷蔵庫の下や流しの排水口etc……。


しかし変わったものはない。それどころか埃1つない。


────どれだけ掃除してるんだ?


「む?こんな所で何してる?」


振り向くとお嬢様ことミナが腕を組んで立っていた。金髪に黒ドレスといつもの格好をしている。


彼女が朝早くから出てくるのは珍しい。時間にしてまだ6時で、大抵は目覚めていても部屋から出ない。桜が朝食の用意をして呼んで初めて広間へ来るのだ。


「あ、あー……小腹が空いてな」


桜の言葉を思い出しはぐらかす。


「ふむ、何か作ってやろうか?朝食はまだだろう?」


「いや、そのくらい自分で……」


「ほう私の手料理が食えない、と?」


ハクが断ろうとすると顔を近づけて凄む。輪郭を撫でようとした細いミナの指を彼は避けた。


────めんどくさいやつだな……


「何が作れるんだ……?」


ふふんと彼女は笑うとカウンターの調理場で湯を沸かし始めた。


ハクはため息をつき促されるままカウンター前に行った。


ミナは待つ間、下の棚から何か取り出して準備し、湯が沸くとその中に注いだ。


待つこと3分。


「完成だ」


「完成だ……ってこれインスタントラーメン」


出て来たのはインスタントラーメン。もはや料理ではない。


「庶民の食べ物にハマっていてな、食え」


────これ主人が食べてる所みたら桜、発狂ものだな


桜は主人に対する忠誠が熱く、不衛生なものは嫌っている。しかも毎食桜が食事を作る為、陰で高塩分なものを摂っていると知れば尚更だろう。


────まあ、何だかんだで言いくるめられそうだが


ハクはそう思いながら麺を啜った。味は"シーフード"塩辛さが口に広がる。


「美味いか?」


横から声がした。いつの間にかミナが隣に来て頬杖をついてニヤニヤと眺めている。


「……まあ」


続けて食べていると視線がヒシヒシと刺さる。


「食べたいならもう一つ作ればいいだろう」


半分ほど食べた所でハクは眉間にしわを寄せて横にいる庶民派お嬢様に顔を向けた。


「桜の料理が食べられなくなるからな、味が知りたいだけなのだよ」


そう言い、ハクからカップを受け取るとツルツルと啜り始めた。


それを眺めるハク。黙っていれば気品溢れるお嬢様という感じであるが、話し始めるとサドスティックなのが残念と思いため息をついた。


────黙って食べているのはインスタントラーメンだがな


「ふむ、仄かに海のイメージの沸く味であったな」


綺麗にスープまで飲み干し、ミナは食べ終わった後ポケットからハンカチを取り出して口元を拭いた。


「そう言えばこの箸……」


「ん?」


ミナが不意にそう言い、箸を手に再び持った。


「ふふ、何でもない」


「……?」


「ところで本当は何の用なのだ?」


ハクはピクリと片眉を上げた。


「桜はこの時間は料理中のはずだ、そして管理人は大抵管理室で整理しているはずだが……」


「……」


────隠すのは難しいか


彼女は勘がよく、また何かと推理力がズバ抜けている。相手の話し方、挙動を読み取り会話で揺さぶって炙り出す。きっとハクとの会話の中でも思考を読んでいたのだろう。


「桜が朝そこの壁に手を突っ込んで気絶していたがそれと何か関係があるのか?」


────……気絶?


幽霊相手に素手で挑んで頭を強く打ったのだろうか。それとも何かをされて気絶してしまったのか。どちらにせよ初めて聞く情報だった。


ハクは頭をやれやれと頭をかいた。どうやらミナに協力するほうが早く解決しそうである。


「実はな────」


彼は口止めされていたが、先程の桜とのやりとりをミナに話した。話すことで金銭の報酬はなくなるかもしれないが、数時間分の仕事はサボることが出来るだろう。


桜の幽霊捜索依頼の話をしたが、特にミナは驚いた様子はなかった。


そしてミナの方の話は、まず大きな音が聞こえ、何事かと行って見るとキッチンにて、桜が寝間着姿のまま壁に手を突っ込んで気絶していたらしい。顔を叩くとすぐに意識は戻ったそうだが。


「なるほどな……幽霊、か」


「心当たりあるか?」


聞いてはみるがすぐに彼女は首を振った。


「知らぬ。ただ桜が気絶するほどだ。何かが、あるいは何者かがいたのだとは思う」


そう言いミナは立ち上がった。桜が壊した壁の所へ行き、段ボールの修繕を剥がし始める。


すると破壊された壁を出来るだけ修復しようと思って詰めていたのか、ボロボロと破片がこぼれ落ちてきた。


そして段ボールを取り去ると綺麗に拳の形に穴が空いていた。深さは手首ぐらいだろうか。


「特に何もないか……」


やれやれとミナが壁を撫でる。


と、ハクの目に破片の小山に黒い破片が僅かに混ざっているのが目に入った。それを拾い眺める。


────プラスチックか?


「プラスチックだな。この壁から出て来たのか?……いや壁の素材とは違うし、混ざっていたとも……」


見ていたミナが顎に手を当てて考え出す。


ハクは他にも無いか探し、出来るだけ小山からかき集めた。それは大きい欠片で5mm、小さい物で1mmの十数個の破片だった。


ミナの話と桜の様子からみて、破損物は壁のみで他には同じプラスチック類で似たような破片が出そうなものは無い。加えて地面にもそんなものはない。


────これは


「誰かいた……か」


ハクより早く答えに行き着いたミナが呟いた。


「あるはずのない破片がある。破片元も見当たらないとなると誰かが居たとしか考えられないな」


続けて言う彼女に頷くハク。


だとしたら誰か、何の目的で?


「みんなに探りを入れてみるか?」


ここのアパートにはミナ、桜、ハクの他に住人が何人かいる。


「いいや、前の依頼と同じ方法でいいだろうな」


「……ああ、その方がいいか」


そうだなとハクは同意する。せっかくの住人を疑うと信頼関係に溝が出来かねない。故に犯人のみを捕まえなくてはならない。


「誘き出すぞ」

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