第2話 ボディガード2
真美子たちは今外にいる。
今にも雨が降りそうな中、彼女は住宅街を歩かされていた。
────警察にもやってもらったんだけどなぁ
単純な囮策戦だった。真美子はミナに、尾行されていると感じた箇所から相手の行動範囲を割り出したと聞かされ、その範囲をいつも通りに歩けとのこと。
────でも怖いな、ちゃんと着いてきてるかな?
ミナとハクは彼女にも気づかれないように尾行をしていた。
「実際どうなんだ?犯人の目星は」
ハクが小声で聞いた。彼は今は作業服ではなく、任務用の黒いコートを着ている。
「ふむ、どういう人物かは予想できるが‥‥誰かは知らん」
それ以上は両方口を開かず、真美子を気配を殺して追うことに集中した。
────怖いなぁ、なんで桜さんおいてきたんだろ
彼らは上級クラスのメイドをアパートに残して来ていた。
「あー、桜さんがいればすごく安心なんだけどなぁ‥‥あのハクって人じゃ頼りなさそうだし、探偵?の人は胡散臭い」
口に出して愚痴を吐いた。
彼女はよく行くコンビニの前を通り過ぎ、信号の角を目指した。
いくらか顔見知りの人を見かけたが、声をかけてはいられない。
信号の角に来たが彼女は立ち止まり、このまま街中を進むか、住宅街へ行くか迷った。
────んー、友達のとことか行っていいのかな?
真美子はちらりと後ろを振り返るが、道行く人以外の姿はない。
ため息をつき、彼女は住宅街を目指すことに決めた。
────ずいぶん歩いた気がする
真美子は既に住宅街の中頃に来ていた。
曇った空は今にも雨が降り出しそうだ。それを察してか、誰も通りを歩いていない。
────怖い
暗い空に誰もいない住宅街、雨。それらは彼女を恐怖に陥れようとしていた。
真美子はとある家の前で足を止めた。
────優子に会いたい
そう思い、家を見上げるが、窓には明かりはなく人影もない。
────出かけてるのかな
「あれ、真美じゃん」
諦めてまたフラフラ歩き出そうとした時、不意に後ろから声がした。
振り返るとそこには友人の優子が買い物袋を抱えて立っていた。
短いデニムのスカートに、柄入りのシャツの上には同じくデニムの上着を着ている。
若く見える風貌だが、真美子と同じく三十路前である。
「どした?浮かない顔をして」
何も言わないで立っていると優子が心配そうに顔を覗き込んだ。
「い、いや何でも。近くを通りかかったから優子はなにしてるかなぁって」
「あ、そうなの?電話でもすればいろいろ準備したのに。ま、いいや中入る?」
「え、いやちょっと今日は用事があって‥‥その‥‥」
真美子は慌てて辺りを見渡した。
────そうだ、これ以上巻き込むわけには
彼女は優子に自分が尾行されていることで相談し、いろいろ助言をもらっていた。
今のところ優子に被害はないが、何があるかわからない。
「‥‥また尾行されてるの?」
そんな真美子の様子を見て、優子は小声で言った。
「いや、そういうわけじゃないけど」
「む、誰だこの女は?」
不意に背後から声が聞こえた。驚いて飛び退くと優子にぶつかりそうになった。
「そんなに驚くことあるまい」
「た、探偵さん!」
いつ近づいたのか、ミナという探偵が立っていた。
「びっ、ビックリしたぁ、驚かさないでくださいよ」
「え、何この人、どっかのお嬢様?」
息をつく真美子の隣をすり抜け、優子がじろじろとミナを舐めるように見る。
探偵も同じように眺めていたが、やがて真美子に目線を移した。
「あ、その人は‥‥」
察して彼女はこれまでの経緯を説明した。
「え、なんで中級?せっかくだから上級にすればいいじゃん」
「いや、お金ないし‥‥」
説明した後、優子は口を尖らせた。
「いいじゃんケチケチしてもう、知らないよ?」
「まあ、なんとかなれば‥‥‥」
「あんたそういう妥協なところほんと直した方がいいわ‥‥だいたい」
「取り込み中すまんが‥‥」
話が長引きそうだと思ったのか、ミナが話をさえぎった。二人は口をつぐみ、優子は一歩退いた。
「急いでるわけではないが、聞きたいことがあってな」
ミナは優子の方を向いた。
「なに?」
見つめられて片眉を上げる優子。
「どうやら真美子の事を知ってるようだが‥‥」
「あ、すみません彼女は私の友人で‥‥」
肝心の優子の紹介を忘れていた真美子は慌てて説明しようとしたが、ミナに手で遮られた。
「まあ、それなら話は早いな。お前に聞くが、真美子のストーカーに心当たりは?」
「ないけど。あったらとっくに捕まえて──」
「そうか‥‥、なら全くの赤の他人もありうるか。どこか怪しいとことかは?」
「はあ?」
言葉を遮られ、不機嫌なのが見てとれる。そんな優子を心配そうに見守る真美子。探偵は全くのお構いなしに回答を待っている。
「そういや、最近近くの廃屋で誰かが住み着いてるって聞いたけど」
少しして躊躇うように優子が答えた。
「ほう、それは‥‥?」
ミナが聞こうとしたとき雨がぽつぽつと降ってきた。
「あ、雨が降って来ましたね。優子?」
「ちょっと待ってて、地図持って来るから」
てっきり中に入れてもらえると思った真美子はため息をついた。
「あれはないですよ、いくらなんでも。家に入れてもらえなかったじゃないですか」
「む?それはすまなかったな」
まるで気持ちのこもってない謝罪にまたため息をついた。
「そういえばハクさんは?全然姿が見えませんが」
サポートの探偵が出てきたのに、ボディーガードが近くにいないのでは話にならない。
「やつには別の指示を‥‥いや後で落ち合うことになっている」
「え、じゃあ近くにいないんですか!?」
────本当にいないの!?
「私とて護身術くらい使えるぞ」
察してか、ミナがファイティングポーズをとる。
────いや、ボディーガードじゃないなら無理!どうなってんの?
「お待たせ」
しばらくして優子が傘を差して出てきた。もちろんもう二本ある。
「む、地図は?」
傘を受け取りながらミナが聞いた。
「いや、私が案内するから置いてきた」
「‥‥え?」
真美子は彼女の言葉に目を丸くした。
「い、いやいや、これ以上迷惑は‥‥」
「ついでだし、最後までお守りさせてよ」
いやでもと食い下がる真美子をミナはまた手で遮った。
「地図がないなら案内してもらうほかあるまい」
だが、真美子は唸り、納得していないようだ。
「じゃあ真美子が私を護ってよ」
────ああ、ダメだこいつ
優子の性格はわかっていたが、真美子は諦めの悪さを再認識した。
「わかってたよ、もう」
彼女は折れ、ため息をついてミナの方を見た。
「雨が強くなってきたな。服がびしょ濡れになる前に先を急ぐか‥‥」
彼女らは優子を先頭に小走りで住宅街を抜けて行った。




