第15話 空白
ボディーガードと化け物の人知を超えた戦闘をただただ見守っていた真美子。
雇った男が攻撃される度に冷や冷やし、化け物、優子が攻撃される度に目をつむった。
対照的に探偵は落ち着き、常に安全を確保するために真美子を誘導していた。
そして戦いが終わった時、真美子は両方が生きていることに安堵の息をついた。
真美子は目の前で倒れている化け物をまじまじと見た。
優子の面影は無い。毛むくじゃらで腕の大きな化け物。
「優子?」
『……ぐっ』
呼ぶとわずかに首が動いた。真美子がわかるのだろうか。
真美子はまた口を開こうとしたが、言葉が出てこなかった。
────なんて声をかけたらいい?
彼女は他の二人に目を向けた。雇った男は胸のところを抑え、苦しそうに顔を歪めているが、何やら探偵と小声で話し、優子の肩の装飾品を調べている。
真美子は足元に転がる破片に気づき、辺りを見回した。
雨はいつの間にか止み、月が雲の隙間から出ていたのでよく見えた。
天井には風穴がいくつも空き、地面はえぐれている。数m先は壁と天井が崩れ瓦礫と化していた。
次に怪物に目をやる。ところどころ細い傷があるが、右肩が肩の付け根から二つに分かれ、今もなお血が流れていた。
思わず目を逸らす真美子。
「仕方のないことだった」
探偵の声が正面から聞こえた。
「わかってます」
自分でも驚くくらいはっきりと言葉に出てくる。
「優子は私を、他にも命を奪ってました」
真美子は顔を上げた。
────なんだろうすごく冷静……
「そうか……」
探偵はそれだけ言うと化け物の側に言った。なにか話しかけているようだが、優子の口からは唸り声しか出ない。
「優子は……始末するんですか?」
殺すという言葉を避け、おそるおそる聞いた。
「ふむ、このまま放置したら死ぬが……手当てすれば死にはしない」
真美子はそれを聞いて安心した。
「左腕は無くなるがな」
探偵が付け加える。
「え、なんで…」
「こいつの暴走はこの右肩のこれが原因だ」
探偵は優子の右肩の装飾品を指でつついた。
「これさえ外せば優子はおそらく元に戻る。だが斬り落とさなければ外せん」
「くっつくんですよね?」
探偵はそれにはかぶりを振った。
「それは斬った腕がまだ新鮮なうちだ。私たちは新鮮を保つ道具などもってない。もちろん、こいつをこのまま病院へ運ぶ力も無いし、例え運べても命はもたない」
そもそも運べば大問題になる、と探偵は言った。
真美子は黙りこくった。
「私たちでは決められん。こちらとしては無関心を装いたいが……」
そこで探偵は真美子に、何かを待つように見つめた。
彼女は意味がわからず、首を傾げていたが、ふとボディーガードを見る。
彼は目が合うと何故か目を逸らし、化け物の方に顔を向けた。
そこで真美子は理解した。
この2人は<答えを>待っているのだ。
優子が生きるか死ぬかの。
「すまんな、私たちはあくまで雇われた身だ。すでに目的は達しているのだ、これ以上はお前次──」
と、急に化け物が暴れ出した。しかしハクがもう一つの剣を突き刺し抑える。
『真美、子ごろざないで!わだしだちともだちでじょヴ!』
優子の意思が戻ったかのように言葉が聞こえた。
真美子は彼女に近づいた。
ボディーガードが警告の声を上げるが、自分で確かめなければ気が済まなかった。
真美子は手を伸ばし化け物に触れようとした。案の定化け物の口がガパリと開いて噛みつこうとする。
しかし口の中に手を入れても閉じようとしなかった。小刻みに震え、何かを我慢しているようだ。
『ごめん、真美子、ごめん……ごめん……』
ふいに親友のすすり泣く声がした。
化け物の顔を見ると涙を流している。
反射的に撫でようと手が触れた瞬間、頭が、目の前が鮮明に映った。
────あ、これ、わたし
今までの時の痛みはなく、記憶が戻ってくる。
暖かい記憶が────
優子の笑顔が見える
優子が歯を見せて笑ってる
子供の頃公園でブランコしたり、グルグル回すやつで怪我したりしたっけ?すごく痛かったけど優子は笑ってた。
小学校卒業は離れると聞いて泣いたけど、転入した先で中学で一緒になって泣いて笑ったなぁ
高校も──大学も──いつもいつも目の前に優子の笑顔があった
わたしはいつも元気がでたんだ、優子の笑顔でなんでも出来る気がした
優子の笑顔で……
優子、優子、優子……いつもいつもありがとう────
わたしなんかと一緒にいてくれて




