第13話 雨
化け物とそれと戦う人間が現れるまでそう時間は掛からなかった。
だが、驚いたのは人間と化け物の現れる時間にかなり差があったことだ。
最初黒ずくめの男が角から走りながら出てきたとき、彼は光に目を瞬いているようだった。
「ハク、どうだ?やつは」
声のする方に顔を向けて焦点を合わせるハク。
一度目を裾でこすると口を開いた。
「どうしたもこうしたも‥‥暗闇じゃ厳しいな、ていうかなんでこっちに?」
「なりゆきだ」
「なりゆきって‥‥まじか。予定が狂う」
「仕方あるまい。なるようになるさ」
「お前な‥‥」
二人が話すのを1歩後ろから眺める真美子は、敵が来るのによく落ち着いていられるなと思った。
普通はあたふたとするものではないだろうか。
────恐怖なんてないのかな
彼女まで今まで抱いていた恐怖が一瞬やわらいだ。
向き合わなくてはならない、目をそらしてはいけない、そんな思いが湧き上がってくる。
だが化け物が姿を現したとき、その場にいた全員が凍りついた。
洞窟の角から巨大な毛むくじゃらな手が現れたかと思えば、次の瞬間轟音とともに砂ぼこりが舞い、止んだところにいたのはギリギリ洞窟に収まる化け物だった。
「ここまで来ると狂気を感じるな」
探偵が独り言のように呟いた。
化け物は腕が腫れているのではないかと疑うほどに膨れ上がり、脈打っているのがわかる。目は瞳が赤く、白い部分は真っ黒になっていた。
『ご‥‥が、』
何か言うように口を開けるが、もう言葉にならないようだ。
が、真美子の姿を捉えたのか、彼女に向かってきた──正確には身体が大きいため、「彼らに」が正解だろう────。
一瞬の閃光とともにハクが刀を抜き迎えうちに行く。
「光をあいつに当てててくれ!」
探偵はすでにペンライトを当てており、身体の触れられない真美子の前に手をかざして少しずつ下がるように指示した。
化け物は歩くたびに地鳴りがする。そのテンポが早くなり、突進してきた。
次の瞬間だ。
真美子の目には何のやりとりがあったかは速すぎてわからず、ただボディーガードの姿が消え、轟音とともに洞窟の天井に風穴が空いた。
岩の破片などが降り注ぎ、地面に伏せたが、やがて何か冷たいものが降り注いできた。
────雨?
顔を上げて水滴を手に受ける。しばらく空いた穴を眺めていたが、眩しい光の閃きで我に返った。
「あ、外!外ですよ!探偵さん!」
探偵のいる方を見たが、彼女はただ目で何かを捉えたのかのように空の一点を見上げていた。
つられて視線を追う。そこには時計塔が立っているのがみえ、囲うような建物があることからこの場所は中庭の下だったとわかる。
そして時計塔のてっぺんに影がみえた、赤い点が2つ光っている。
その化け物は空に向かって吠えた。




