第11話 真美子の正体
「よく歩けますね」
真美子は前を歩く探偵が迷いなく進んで行くのに不思議に思った。
「ふふん、私は天才だからな」
探偵はさも当たり前のように答える。
────この人自分で天才って言ってる‥‥
彼女らはペンライトで照らされた洞窟を進んでいた。逃げる時に明かりがない時は焦ったが、幸運にも探偵がスペアを持っていたらしい。
「そういえば思ったんですが‥‥」
逃げ始めて少し経った時に出てきた疑問だ。
「どこに向かってるんです?」
てっきり戻るのかと思ったものの、目の前には分かれ道3つある。
ここまで来るのに分かれ道は2つだけだったはず。
「‥‥ふっ、知らん」
「え?‥‥‥‥いや、外に出るんじゃ‥‥?」
「‥‥」
────これは‥‥
真美子は探偵が道に迷っているとわかり、呆気に取られた。
────さっきの天才とかって何!?
咄嗟のことで間違えて、戻るのではなく、進んでしまったらしい。
後ろを振り返るが、その方向からは地響きと何かの唸り声が時折聞こえてくる。
ボディーガードと化け物が戦っているのだ。
────あれが優子なはずがない
チラリとだけ見えた化け物の姿、醜く汚らしかった。
「優子を‥‥探さないと‥‥」
彼女はぽつりと呟いた。
あの化け物は優子ではない、きっと優子もまた囚われているか、どこかで迷子になっているに違いない。真美子は自分に言い聞かせた。
と、視線を感じ、真美子は顔を上げた。
探偵が目を細くしてこちらをじっと見つめている。
「そうか‥‥」
見透かすような視線を少し受けた後、目の前の女性が口を開いた。
「ハクでは難しかったか‥‥」
その言葉にドキリとする真美子。
探偵は一歩彼女に近づいた。真美子はそれ以上何も言わずただただ近づいてくる女性に恐怖を感じ、合わせて一歩下がった。
殺される、そんな気さえした。
「お前はあの化け物が優子であることも‥‥」
さらに探偵が近づく。
「近くで起きた不可解な事件も不思議な力も」
真美子もジリジリと下がるが、まっすぐに見据えてくる瞳から目が離せない。
「何も信じてないんだな」
「し、信じるも何もあ、あんな、どうやって────」
「ならば、貴様も知るがいい。己が一体何なのか!」
探偵が手を伸ばして来た。いつの間にか手の届く距離にいたことに真美子は驚き、思わず払いのけようとした。
が、どういうことか彼女の手は探偵の手をすり抜け空を振った。
目を丸くし、ただただ恐怖が真美子を支配するなか、探偵の手が真美子の胸の中心に触れる。
そして手がそのまま埋まって行った。
────死んだ、死んだ、私は死んだ!
手が胸の中を掘り進み、肺を、心臓を抉ってくる────そんなイメージが頭を駆け巡る。
手が真美子を内側から破り、心臓を握りつぶす、と。
「落ち着け」
その一言で半狂乱だった真美子は我に返った。
────痛くない‥‥?
彼女は息を整え、身体を見下ろした。
「うっ‥‥」
いまだに探偵の手が胸に手首まで埋まっている。しかし痛みもなければ何も感じない。
「これは、あなたたちは‥‥一体‥‥」
「それは本来こちらのセリフなのだよ、真美子。下を見ろ何かあるか?」
言われて下を見るが、ペンライトで照らされた地面しかない。
────あとは小石と‥‥影‥‥?
真美子は目を丸くした。せわしなく目を動かす。
────ない‥‥ない、ない!
「私の影が‥‥」
そこには真美子の影がなかった。
そして追い打ちをかけるように探偵が言い放つ。
「真美子、お前はもう死んでるのだ」




