松山君(仮名)
これまたカテゴリー分けが出来なかったので短編として投稿しました。
16才の時に、松山くんという友達がいた。
中学生の途中から知り合って、2年ほど。
ある日、彼に呼び出された。
「俺ね。在日朝鮮人だったんだ。今まで言わなくてごめん」
その頃の私は、在日朝鮮人の事などなにも知らなくて、ただ、
「あ、そうだったんだ」と、その程度の言葉しか出てこなかった。
彼は続けて、
「今月いっぱいで国に帰ることになったよ」
と告げた。
私は無邪気に喜んだのだった。
「さびしくなるけど、自分の国に帰れるのならよかったね。
また会えるといいね」と。
それから彼は、サザンオールスターズの「クラウディア」と
「いとしのエリー」の入ったカセットテープを渡してくれた。
「忘れないでね」と。
今でもなんとなく印象に残っているのが、
彼があまり嬉しそうではなかったこと。
「また会おう」と言った私に、曖昧に笑っただけだったこと。
彼の中にあった心境を、どうしてもう少しでも分かることができなかったのだろう。
今なら少しだけ分かる気がする。
在日であることの大変さ。国へ帰ることの意味。
悔やまれてしようがない。
今、あの国の中で、彼はどうしているのだろうか。
ニュースを見ると、彼を思い出す。