月夜に賭け事
初めて出会ったのは月の見えない十五夜。
十五夜だとはしゃいで京都の有名神社に
来たものの月は見えず、
代わりにそこにいたのが彼だった。
私を見つけるなり彼はこう告げた
「ねぇコイントスしよ?」
「え?」
私は戸惑ってそう発した。
コイントスって初対面なのに
突然何を言い出すのか?
もし、するとしたら何を賭けるの?
疑問に思っていると、
チャリーン パシッ
「表?裏?」
まだこちらが返事をしないうちに
彼はコイントスを始めた。
……。
突然の問いかけに黙っていると、
「ねえ、どっち?」
再び答えを問われた。
「え、じゃあ…裏..で」
適当に答えてみた。
「残念、答えは表でした。君の負けだね!」
外してしまった。
1/2だったから少し悔しい。
待てよ、彼は何と言った…
君の負けだね?
コイントス所謂賭け事だし
負けたということは
何らかのバツがあるのか?
いろいろ考えていると彼が口を開いた。
「月が綺麗ですね。」
「月?雲で見えないじゃない。」
そう、さっきまでは見えなかった。
彼は空を指さした。
するとそこには雲の切れ間から
綺麗な月が覗いていた。
「月、見に来たんでしょ?」
「実は俺もそうなんだ。お互い一人ならさ、
付き合ってよ、お月見?」
「え、あっうん…いいけど」
コイントスも負けたことだし
そう返事をした
「じゃあ、行こっか」
彼に手を引かれ、
しばらく境内を散歩した。
神社の入口まで戻ってきた。
「今夜は、ありがとう
またいつか会えるかなっ」
チャリーン パシッ
再び彼はコイントスをした。
「表?裏?」
再び問われた。
「表!」
「はい。」
「じゃ、気をつけて帰るんだよ」
私にコインを手渡し、彼は夜道に
消えていった。
私の手に残されたコインは表。
彼が同じ学校に通う先輩だと知ったのは
これから、しばらくしてからの
ことであった。




