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みぞおちの虫  作者: 松田
8/21

美咲

一年生の春、僕と美咲は同じクラスになった。

そして秋の文化祭準備の時に一言交わして、その時点で僕は仲良くなったと思った。

今から考えればこんな珍しいこともなかったように思う。

そして三回目の席替えで前後になり、僕は何度も後ろを向いては美咲と話した。

けれど一年生の頃は本当にそれまでで、ほかには何もなかった。それに僕には好きな女の子がいたから未先のことは全く気にしていなかった。

春が来て、二年生になる頃に彼女は携帯を買い替えた。

一年生のクラスのラインのグループに彼女が入ってきたことがきっかけだった。

僕と美咲のあいだに接点ができたことで気がつけば何日も美咲と個人トークをしていた。

思えばこの頃から何度も美咲には振り回されていた。

エッチなことに興味津々な美咲にあまりそういうことを知らない時期はいつも辱められた。

クラス替えで友達がいなくて寂しいと泣いている時はゆっくりと寄り添った。

その頃は何より美咲と話すのが楽しくて、毎日話してても全く飽きることはなく、いつの間にか僕たちはお互いに恋をしていた。

美咲に好かれていたこと。そして自分が美咲を好きだということに気づかずに、好きな人は誰?と聞かれて例の一年生の時に好きだった女の子の名前を挙げると美咲は突然過呼吸になって泣き出してしまった。

そのことがきっかけでなんだかんだ僕たちは付き合うことになるが、美咲にはまだ引っかかる部分があったらしく何度も何度も例の女の子の名前を出しては僕に好きなんじゃないのか?と詰め寄ってきたことは今では懐かしかった。

ある日、いつもより少し大きいくらいの地震がきたことがあった。

地震が苦手な美咲は電話をかけてくると、その向こうでいつまでも震えていたことがある。

それからは地震が来ると頭がとっさに美咲のことを考えるようになり、いつも大丈夫か?とラインを送るようになった。

美咲には幽霊が苦手な癖に心霊番組は好んで見るところがある。

夏には心霊番組がたくさんやっていて、見る度に電話をかけていいかと甘えてくるものだから心霊番組がやる日には朝からウキウキしていたこともある。

秋になると運動会が行われた。

僕と美咲のクラスは団が同じになったので観覧席が近かった。だから僕は美咲の目に映りたくてわざと変なことをしていたのだが、その夜には恥ずかしいことをするなと怒られてしまった。

冬に僕らは喧嘩した。

理由は覚えてないけど初めての大喧嘩で、一時は別れの危機を感じたこともある。

けれどいつの間にか僕らは仲直りしていて、未だにあれは一体なんだったのかと思う。

要するになんとなく喧嘩してなんとなく仲直りしていた。

けれどそこからなぜか喧嘩を何度もするようになり、日を重ねるごとにその頻度は増えていった。

喧嘩して仲直りして喧嘩する。

それを繰り返すうちに僕たちはだんだんとお互いに冷めていき、三年生の五月に別れた。

けれどその時に美咲が別れたからと言って話せなくなるのが嫌だと泣きじゃくり、僕たちはその後も毎日話し続けていたけれど、僕はそれにももはや限界を感じている。何ヶ月も前から感じていたことだったが僕の未練が彼女を突き放すことを拒んで結局今までズルズルと引きずって来たけれど、今回の飯塚のことで僕はそれもやめようと思った。

こんなことはなんでもない。生きていればこういうこともある。何度もそう思ったけれどやっぱり僕には美咲との関係を続けられそうな自信がわかなかった。

一年生の春に同じクラスになり、二年生で恋人になった女の子は、三年生の今日、卒業式のこの日を最後に他人になる。

友達と遊んで家に帰ると午後の九時を回っていた。

まだ起きているだろうと思って美咲に最後のラインを送る。「卒業おめでとう」

「うん」

「あのさ、はなしがある」

「なに?」

「僕たち、もう話すのやめようか」

しばらく既読がつかなかった。

「どうして?」

「いつまでもこうしててもダメだと思うから」

「そう」

それじゃあ最後の電話しよと美咲が誘ってきたので僕と美咲は何時間も話続け、気がつけば朝の五時になっていた。

「そろそろ寝なきゃね」

「そうだね」

何も言うことがなくなってしまったのでどうしたらいいかわからず黙ると、美咲は坂井君と僕の名前を呼んだ。「なに?」僕は聞いてみた。「なんでもない」

「そっか」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみ」

お互いそれからは何も話さず、電話を繋げたまま眠り、朝起きてから僕は自然に切れてしまった電話の履歴を見て泣いた。

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