お別れしたくない
「なあ、美咲って飯塚と付き合ってんの?」
そう聞くと美咲はあっさり付き合っていると認め、僕はなんだか惨めな気持ちになってしまった。
「気づいてたんだね」
「まあ、僕もそこまで鈍くないよ」
「どうする?」
「え?どうするって?」
「だから、お別れする?って」
なんでだよと思ったけれどそれを口に出す前には僕の考えは変わっていた。
「わかった、そうしよう」
「うん」
何が僕にそうさせたのか、寂しくなったり悲しくなったりはせず、仕方ないかと言う気持ちしかないでいる。
すると突然美咲から電話がかかってきた。それに出ると美咲は第一声にこれが最後の電話だねと言う。
「そうだね。寂しいよ」
「私も。本当はお別れしたくない」
そう言った美咲の声は震えていて、やっと吐き出したという感じに苦しそうに呻きながら、一音一音がしっかり僕に届くようにうっうっっとなんとかひねり出していた。
それを聞くと僕もなんだか苦しくなってきたから美咲のことを心の底からすごいと思ってしまう。
最後の最後でやっと、僕は美咲のどんなところを好きになったのか思い出した。けれどもう遅い。今更心が通ったところで、僕たちはもう引き返せなくて。だからこそ美咲のことを本当に惜しいとおもった。
美咲がやっと泣き止んで電話の向こうで寝落ちしたのを確認してから、僕は目一杯気持ちを吐き出した。