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みぞおちの虫  作者: 松田
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虫と僕との共同生活

二十から三十本くらいの水の線が僕の頭に当たり、髪を吊たって滑り落ちていくシャワーが、ちょうど僕の現状を表しているように思えた。

外側水のように柔らかく当たっても、真ん中の水のように強く当たっても、美咲は僕の手を払いのけてほかの誰かのところに行く。

たまらなく嫌だと思った。

そしてその気持ちが、僕の中の虫をどんどん大きく成長させる。

シャワーの前で椅子に座り、顔を伏せている時ですら、忌々しい虫は僕の体を突き破りどうにかして外に出ようと暴れ続けた。

僕は必死に虫を沈めようとしたがどうすればいいのかわからず、とにかく必死に呪いの言葉を叩きつけたが、皮肉なことに虫を殺すための言葉を虫は自分の栄養として僕の中でさらに大きくなっていくばかりだった。

風呂を出て部屋着を着て部屋に向かうと、僕は迷わずベッドに飛び込み濡れた髪が起きた時に変な癖をいつも作ることを気にせずにそのまま布団をかぶって寝ようとしたがなかなかねむれなかった。

最近は布団をかぶるといつもそう。虫がみぞおちをくい破ろうと必死に頑張るのだ。

僕の中に住んでる虫は僕が休もうとするとそれを察して暴れだすという嫌な性格をしていた。そのため僕が寝ようとするとそれを察して働き出し、そのせいでいつまでも眠れずに結局三時や四時までケータイを弄ってしまい、その明るさにうんざりして電話をかけるのだ。

この時も結局布団の中で二時間眠れずに夕飯の時間になってしまい、最悪の気分で食べ始めたものだからご飯がもあまり喉を通らず、無理に通しても胃にまでは届かなかった。箸を動かしている間もずっと飯塚と美咲が手を繋いでいる後ろ姿がちらつくもんだから、なんだか僕の食べてるご飯すら虫に横取りされて栄養にされてるようなきがした。

つまらないご飯をいつの間にか食べ終えて、食器を片付け部屋に向かった。

ケータイを見た。

美咲からのラインの返信を見つけると散々暴れまわった虫は急に静かになった。

返すとすぐに返信があったので美咲が居なくなるまでしばらくやり取りを続けて、気がつけば次の朝の三時になっていた。

結局この日も電話に切り替えてもらいしばらく話すことになった。

僕は人と電話をするのが好きだった。そこには文字だけじゃわからない相手の姿が見えていて、なおかつそれでも近くにはいない感じがどうしてももどかしく感じたが、そのもどかしさがむしろ僕は好きだった。エムなんじゃないかと言われたこともあるし自分でも迷ったことがある。けれど違う。僕はエムじゃない。なんていうか電話は相手がいる怖さを感じなくてすむし、なによりただ楽しかった。

けれど今日の電話はちっとも楽しくなかった。

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