セックスの提案
結局なんだかんだで僕たちは喧嘩を穏便に収めた。けれど僕の体からびしょ濡れになった衣服のような気持ちの悪い重さが抜けることはなく、とりあえず収めたと言う感じがしてならなかった。しかし、話し合った次の朝には美咲から僕を嫌悪する感じはなくて、夜にはそれもただの杞憂だったかと思えるようになった。
お互いに返信が続いてしまい、いまいち終わりが見えないラインを続けるうちに時刻は午前の二時を指していた。
僕はそろそろ電気を消そうと思い、真っ暗な部屋でケータイをいじるのが嫌だったので途中で電話に切り替えてもらった。
「寝ないの?」
美咲の第一声を受けた。
「大丈夫だよ」
「そう」
「そっちは何時ごろ寝るの?」
くだらない話を繰り返してるうちにいつの間にかコロコロ話は変わっていっていつの間にか時間が過ぎていく。それが僕たちの習慣になっていると、少なくとも僕は感じていた。
午前四時になったぐらいの頃。「坂井君」と美咲が僕の名前を急に呼んだ。
「ん?」
「好きだよ」
美咲がこんなことを言い出すので僕は少し恥ずかしくなって慌ててしまったのを美咲に笑われてしまった。
「なんだよ急に」
「言ってみたらどうなるかなと思って」
「弄ぶなよ」
「だって坂井君からかいがいがあるから」
ふざけてると思ったけれど僕自身嘘でも好きだと言われたことに少しいい気分になったから許した。
それですっかり気分をよくしてしまった僕は彼女に思い切った事をしようと企んでいた。
「美咲さ…」
「ん?」
「明日暇?」
「特に予定はないけど」
「それじゃあやらない?」
「セックスするってこと?」
「そう」
自分で言っといてかなり恥ずかしくて、そのせいで僕のチンコは勃起していた。そして、そのことが彼女にしれたらと思うとまた恥ずかしくなり、今度はそれが僕を大胆にさせるだけの性欲へと変わった。
「セックスさせてくれないか?」
「どこでやるの?」
「うーん、そっちの地元にそういうところある?」
「ない」
「じゃあちょっと都会に出よう。そこなら場所を知ってるから」
「え、ホテルいくの?」
「そうだけど」
「ホテルはやだ」
「どうして?」
「落ち着くところがいいじゃん」
僕はもっともだと思いそれなら美咲の家はどうかと提案してみた。
「どうして坂井君、自分の家は挙げないの?」
「親がいるからさ、今週はずっと家で寝てるんだよ」
「うちもおばあちゃんがいるからなー」
「おばあちゃんなら大丈夫じゃない?美咲の部屋二階だし」
「いや、おばあちゃんうろうろするからだめだよ」
「それならやっぱりホテル行こうよ」
「えー、めんどくさい」
そして美咲はだいたいなんでそんなにしたいの?と投げかけてきたのに対して僕は飯塚の事で少し焦っていたことをなるべく正確に伝えようとしたけれど語彙力がなくて悲しいことに僕がただやりたいだけに思われてしまった。
けれどそれも仕方ないことなのかと思えてしまう。僕自身が奴のことで焦っていることを自覚していても、その自覚をうまく整理できていなかった。説明もあまり筋が通らず途中から自分でも好くわからなくなっていた。
結局無しということになってすごくがっかりした。
おまけに私がいいって思ったからいいんだと無理やり飯塚とのことで何か言うのを遮られてしまい、僕のみぞおちはまた疼いた。