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みぞおちの虫  作者: 松田
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緊張の前編

電車で駅を七つまたいだ駅の改札で、僕は小林さんを待っていた。

朝になって時間を決めていないことに気が付き、急いで小林さんと時間を決めた。

昨日の夜に舞い上がって時間を決めなかった自分を殴りたい。

いいところを見せようと思っていたのに出だしから躓いてしまい朝からため息ばかりが漏れた。

十二時二十二分。彼女はまだ来ない。

それも当然という他なかった。なにせ待ち合わせしたのは午後の一時だったのに、何を血迷ったのか僕は五十分も前に待ち合わせ場所についてしまっていた。そのくせもう三十分くらいたったんじゃないかとさっきから五分おきにケータイをいじっている始末である。

そして途方も無い時間の長さは僕の気持ちを揺さぶるには十分だった。

まだ待ち合わせ時間にもなっていないというのに小林さんはもしかしたら来ないんじゃないかと不安になってくる。小林さんからの返信が来ないのもまた僕のそれに確信を持たせようとした。

けれどそれも馬鹿な考えだったと小林さんの姿を見ることで思った。

ケータイを開いて時計を見ると、小林さんも約束の時間より三十分も早く来てくれていた。

「それじゃあどうする?早いけどもう行く?」

「そうだね。行こうか」

そう言って水族館の方へ踏み出した足は異様に軽かった。

人の流れもいつもよりはっきり見えた気がして、人の隙間を縫って歩くと小林さんが来ていないことに気が付き、水族館の前に来た頃にはいつの間にか手を繋いでいた。

「ごめん」

「うん。いいけど」

少し沈黙が生まれた。それを打ち消すように行こうかと言って彼女の手を握った。

勇気を振り絞ったつもりだけど、半ばやけっぱちになってしまう。

世の中の恋人達はどういう気持ちで手を繋いでいるんだろうと自分にもそういう時期があったことを忘れて本気で思った。

そして手を繋いだまま受付でチケットを買おうとしてまた失敗した。

僕は手を繋いだことで訳が分からなくなり、チケットを買うときになぜ自分の財布があされないのかに気がつかなかった。

右手がなんで使えないのかわからなくて無理にお金をつかもうと彼女の手ごと財布の中に突っ込んでしまい、小林さんには笑われ受付のお姉さんも必死に笑いを堪えていたけれど、口のはしから少しだけ漏れていた。

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