微妙な味
街はどこもかしこも明かりがついていて、夜だというのに暗いとは感じなかった。
これじゃあ星も見えないわけだ。
隣で歩く二人の男女の声を少し疎ましく思いながらそんなことを考えて歩いている。
「坂井君は?」
突然話を振られても全然聞いていなかった。なにが?と聞き返すと小林さんがだから夕飯だよという。それに田中が続いて食べに行かないかって話してたんだよと言った。
「ああ、いいよ。どこ行くの?」
「無難にファミレスでいいんじゃない?」
「うん、俺もそれでいいと思う。坂井は?」
「いいんじゃない」と僕。
近くにファミレスを見つけてそこに三人で入って席をとった。
三人ともドリンクバーを注文し田中は唐揚げを、小林さんはエスカルゴを他に頼んだ。
「坂井君は何も食べないの?」
「僕はもともと少食なんだよ。それより小林さんこそ変なもの頼むんだね」
「なんか珍しいから頼んでみたくなっちゃって」
「不味かったらどうすんの」
「その時は坂井君に全部あげる」
「僕は処理係なの!?」
「もちろん」
「美味しかったら俺にも頂戴」そう言って田中が会話に入ってくると、今日一日中僕の中をウロウロしている虫が反応した。
少しして料理が運ばれて来ると小林さんはどう料理してやろうかと言ってナイフとフォークを構えた。
「もう料理されてるよ」と「ナイフいらないんじゃない?」というツッコミが僕と田中から飛ぶのはほとんど同時で、小林さんはあ、そうかと言ってナイフを戻し、誤魔化すように笑った。
「味はどうなの?」
僕は聞いてみると、小林さんは答える。
「なんか微妙。坂井君も食べてみる?」
そう言われて一口食べてみると確かに美味しいともまずいとも言えない、普段口にしないような味で微妙という表現が妥当な気がした。
「やっぱり庶民にはこんなの合わないのかな」
「庶民に合わなかったらファミレスのメニューにも乗らないとおもうよ」
「でもやっぱりこれ微妙だよ。坂井君もそう思うでしょ?」
「まあ確かにそう思うけど」
「口直しにジュース飲も」
「口直しにジュースって」田中が言う。
「いいんだよ。いこ、坂井君」
「うん」
そう言って僕と小林さんは席を離れてドリンクバーの所に行った。
丁度その時、都合よく二人になれたのを思うと僕は我慢できなくなって今夜電話していい?と聞いていた。
小林さんはいいよとは言ってくれたもののさっきまでとは明らかに声が沈んでいて、それから駅で別れるまで僕と目を合わせてはくれなかった。




