田中
受験勉強の時の知識でいけるかと思って気楽にテストを受けたら危うく落第しそうになったが、同じ学部の田中 賢治に勉強を見てもらってなんとか一命を取り留めた。
田中はレクリエーションの班がたまたま一緒になっただけの男だった。しかしそこで一度話してみると妙に彼と気があい、一度二人で飲みに行くとたちまち意気投合して僕たちはその後も、時には小林さんも交えて飲みに行くようになった。
一緒に飲みに行く度に面白い話を聞かせてくれる田中のことを僕も小林さんもかなり気に入っていたが、そんな田中に元気をもらえる反面で彼と会った後一人になると自分が彼に勝てる部分が無いことをひどく嘆いた。今だってそもそも田中がいなければ夏休み返上で補習を受けさせれるはめになっていた。
追試に受かったこと報告し、腹が減ったのでとりあえず食堂で天そばをすすっているとケータイがポッケの中で震えた。みると田中からで、おめでとう!!と書いてある。
「ありがとう」僕はケータイをテーブルの上に置いて、そばの続きをすすった。
今日はこういう追試の生徒しか用事がないせいか、昼時だというのに食堂のイスはほとんど余っていてなんだか不思議な感じがした。
思えばこんなに風の通る食堂は初めてかもしれない。なんだか途端に落ち着かなくなり、今日丁度このあと用事のある小林さんにメールを打った。
「この後一時に小林さんの最寄りの駅だよね」
追試無し組の小林さんからの返信はすぐに来た。
「そうだよ、遅れないでね」
「わかってる。食堂のそば食べたら丁度いい時間になるはず」
「ついでに田中くんも来ることになったよ」
「ん?なんで田中?」
「いたら楽しいかと思って」
「そっか。わかった」
もともとは二人で遊ぶことになっていたがそこに田中も加わった。そのことに文句は無い。事実あいつがいたら面白くなるとも思う。嫌なわけじゃないけれど、それでもなにかもの悲しいものがあった。
そばをすすり終え、小林さんの最寄りの駅に時間に間に合うように行くとすでに田中と小林さんがいて、二人で楽しそうに話しているのを見るとなにか収まりのつかないものが僕の腹を内側からくすぐり始めた。




