始まりのカツカレー
午前中の講義を終えたので次の講義に備えて食堂で昼食を食べていた。
うちの大学の食堂の一番人気のメニューはカツカレーで、周りを見ると五人のうち三人はカツカレーを食べているけれど、僕にはカツカレーの良さがわからなかった。
それを好きな人はいるだろうとは思うがどこに行っても人気を博すメニューにはどうしても思えない。僕にとってカレーに乗るカツは食べにくい上に口の中を傷つけてくる、いわゆる邪魔者でしかなかった。そもそも僕はカツカレーを食べると決まってお腹を壊してしまうので食べるのを避けてきた。
今日も周りがカツカレーを食べる中、僕は天そばを啜っていると、僕の正面の席にカツカレーが現れた。
「ここ、座ってもいい?」
聞き覚えのある声はやはり小林さんのもので、顔を上げると目が合った。
「どうぞ」
「ありがとう」
小林さんは席についていただきますと言ってカツカレーにスプーンを差し込む。
「今日はいつまで講義なの?」
「最終までだよ」
「心理学部だっけ?」
「そう。そっちもだよね」
「うん。何専攻?」
「教育心理学。そっちは」
「あたしは臨床心理学。これがなかなか難しくて」
「まだレクリエーションの段階でしょ?どんなことするの?」
「精神疾患とかそういう心の病気をもった患者さんの回復の手助けって感じなのかな。とにかくそんなところ」
「そっか。聞いてるだけで大変そうだね。やる気なくしそう」
「そっちはもうなにかやった?」
「いや、まだだよ。レクリエーションは明日なんだ」
「じゃあその時に坂井君も洗礼を受けるといいよ」
「嫌な言い方するな」
あははと小林さんは笑ってスプーンをカツのなくなったカツカレーに差し込んだ。その時にカチンっという皿とスプーンがぶつかった音はかすかにしか聞こえず、彼女の食べ方が旨いんだろうか、とちらっと考えた。
それからしばらくして、僕は天そばを食べ終わりそれじゃあと言って席を立つと小林さんがちょっと待ってと言っていそいでカレーを放り込み始めた。
「そんなに急がなくていいよ」僕はもう一度席に座り彼女が食べ終わるのを待つことにして、彼女が食べ終わったのを確認すると食器を厨房に戻して講義のある三回の教室に向かい、同じ講義を受けるという彼女と隣同士で座って講義が始まるまで話続けた。
カツカレーの話しをすると彼女は笑ってお腹弱いねと言いながら僕の腹をポンポン叩いてきた。
「でも残念だよね。あたしもカツカレーより普通のカレーが好きなのにカツカレーしかおいてないんだもん」
「カレーが好きなの?」
「うん。好物」
そう言って笑う彼女はとても可愛らしく、最初の印象はどんどん薄れていった。




