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みぞおちの虫  作者: 松田
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吐き気と怒り

ずっと好きだった女の子に思い切って告白し、振られてしまったので前の彼女である美咲に慰めてもらおうとその女の子の話をしたのだが、僕の思い通りにはいかないもので何故か美咲に嫉妬されてしまった。

未練があるというのなら嫉妬をするのもわかるしそもそも女の子の事を話さないでいるのだが美咲には以前から嫌いだとはっきり言われているので笑い飛ばしてくれると思った。

けれど嫉妬をされるのもそれはそれで僕には気持ちよかった。

これを好きだと思っちゃいけないと彼女は何度も呟いているのが僕には嬉しかった。

「なんでそんなんなるんだよ、僕のこと嫌いなんじゃなかったの?」

「嫌いだけどさ。うーん」

電話越しにもぞもぞと動く美咲の音がなんとなくおかしくて、僕はもう振られた傷を忘れていた。

ちょっとの間それを楽しんでいると美咲は突然声を震わせて僕の名前を呼んだ。

「あの…坂井君…」

「ん?どうした?」

「私さ…その…飯塚君と…キスした…」

最後の方は声がすぼまって言ったけれどギリギリ聞き取れた。その恥ずかしさに震えた声に乗せられた言葉に、僕は驚きとやるせなさを同時に覚えると、だんだんとみぞおちの辺りで何かの虫が蠢き出したのを感じた。

僕は美咲と付き合っていた頃、彼女にキスをねだったことがあるが、彼女がキスだけは生理的に無理というので少し残念に思いながら大人しく引き下がっていた。

それが今になって何で付き合ってもいない男なんかとキスをしたんだろうかと、そのことがひっかかってしまった。

僕は飯塚が嫌いだ。

一年生の頃、美咲の名字は上田なのでクラス移動の家庭科の時間ではいつも飯塚が隣の席だった。

それをいいことに飯塚は美咲の太ももを家庭科の時間はいつもさすってきて、その度に美咲はそれを払っていたという。

その話を美咲から聞いてから僕は飯塚を本気で嫌悪している。僕の中で飯塚は本当に気持ちが悪かった。

美咲の話しによるとその男と美咲はだいぶ前、僕たちが喧嘩をして話していない間の期間でキスをしたのだという。

「どうしてそうなったの?」

「私が山野君に振られた時に飯塚君が話聞くよって言ってくれていろいろ話聞いてもらってたの。それで今度ゆっくり話そうってなって二人でご飯食べに行こうってなったんだけど私と飯塚君帰る時間がなかなか合わなくてご飯行けなかったの」

僕は黙ってその話をきいた。

「そしたらね、たまたま帰る時間が合う時があって、でも時間遅かったから学校の周りうろうろ歩いてたんだけどそのうち行くところがなくなっちゃってね、スーパーあるじゃない?あの近くの公園に行って二人でベンチに座って話してたの。そしたら飯塚君が抱きしめていい?って聞いてきたからまあいいかと思っていいって答えて抱きしめられたの」

僕はそれを聞いてだんだんと気持ち悪くなってきた。

「その後飯塚君が俺がマスクしててよかったねって言ってきたから何で?って聞いたらマスクしてなきゃキスすると頃だったからって言われたの」

「ん?それされてないんでしょ?」

「そのあとに喉乾いたねって飯塚君が言い出してでも蛇口壊れてるって話ししたあとぐらいかな?帰ろうかってなって二人で公園でたら飯塚君が急に立ち止まったからどうしたのかな?と思ってたら急に振り向いてキスされたの」

「え、気持ち悪っ。大丈夫なの?」

「うん、なんかあんまりって感じだったけどされてみたら案外なんともなかった。それでその後手繋いで二人で帰ったんだけど」

そこまで聞いて僕はどうすればいいのか分からなくなった。

美咲が盛大に嫌がってくれれば飯塚が気持ち悪いと盛り上がれただろうに美咲が受け入れてしまっているものだから余計に収まりが悪く、僕のみぞおちに潜む虫がさらに激しく暴れだしてしまい吐きそうになった。

おまけに手を繋いで帰った。と抱きつかせた。という追加情報まで入って来てしまったことでさらに気持ち悪さがこみ上げてくる。その後でお互い好きにならないってわかってるからなんでもできるねと言い合ったことを聞くと、気持ち悪さが苛立ちに姿を変えて僕を襲ってきた。

その後も電話で話し続けた。楽になるかもと思い気持ち悪いなと吐き出してみると美咲に坂井君にもうそんなこという権限ないからだとか彼氏面ですか?などと煽られてすっかり気持ちの捌け口を失ってしまいその日は収まりつかずに虫をみぞおちに飼ったままで、美咲と話し続けたのだがその後で美咲は僕が女の子に告白したことを引きずりさよならしようかと言ってきて、僕は正常な判断ができないままにすがり付くのがやっとだった。正常な判断ができないままにすがり付いたもんだから彼女を説得することもできず、結局次の日になると虫は二匹に増えていた。

正直動きたくないくらいに気持ちが悪かったけどこの日はバイトが入っていたので四時半に家を出た。

日によって運があり、だいたい五時頃に混むか混まないかで運の良し悪しが分かれるのだが、今日は運が悪い方の日だった。

まだ慣れないレジを頑張ってなるべく手早くうっているというのにとなりのレジの先輩の方が客の減りが速かった。

いつもなら動きっぱなしで大変だと思うところだが今日はそれがむしろよかった。忙しく動くことでその間は美咲と飯塚のことを忘れていられて、ラッシュの間はみぞおちの虫が騒ぐことがなかったのですっかり忘れていた。

けれど一度ラッシュが終わって店内の客がチラホラとしか見えなくなったのでタバコの補充をするというときになってくるとまた虫が動き出した。

少なくなっているタバコの銘柄を見つけ、それを一カートン持ってきて補充する。あまり忙しくないこの作業の間にも虫はちょろちょろと動き続け、それが酷くならないうちに僕は溜め息をついて虫を大人しくさせていた。

するとそれを先輩に見られて何かあった?と聞かれたので昨日の話を一通り先輩に聞かせた。

「嫉妬してくれるなんていい彼女じゃん」と、着目して欲しかった点を見てもらえずそんなことを言われ僕はなんだかおかしな気持ちになった。正直に言うと先輩が馬鹿なんじゃないかと思えてしまった。

「いーなーおれもそんな面倒くさい彼女欲しいなー」

「いや、だって面倒くさすぎでしょ。僕には嫉妬しないように言ってくる癖に自分は嫉妬してんですよ」

「いいじゃん。おれそういう面倒くさい子彼女にしたいよ」

「面倒くさすぎですよ」

「セフレにしちゃえば?」

「ああ、そういう話したことありました。ダメだろって思ってたんですけど昨日の話聞くともうそれでもいいかなって思っちゃいましたよ」

「いい彼女じゃん」

この人には何を話してもいい彼女じゃんと言われそうなのでこれ以上話すのが面倒になってきた頃にレジにお客さんが来て話が遮られたので助かった。

バイトを終えて家に帰ると、まるで家そのものが寝静まったかのように中はしんとしていた。

彼女がラインを返してこないと話にならないので、バイト先でもらったポン柑を食べて、お茶をすすりながら漫画を読んで通知を待った。

既に三冊読んでしまったがちっとも返信が来ないので僕はだんだんと面倒になり、気がつけば美咲のことを考えていた。

漫画を読んでても紙面で目が滑るので読むのをやめて、大人しく美咲のことを考えることに頭を傾けた。

だんだんと美咲に対する怒りが積もっていき、昨日のことで思い出すことがなくなると過去のことまで引っ張って怒りの種にする。そして今日はびしっと言ってやろうと思うのだがやっぱり強く言い過ぎるとかわいそうかと思ってしまい結局通知が来るまでに踏ん切りがつけられず、電話をかけた時に中途半端な怒り方をしてしまった。

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