後悔
カラカラと笑う男の名はロウト・クロウド。
公爵家の現当主であり、ローレントの父に当たる男だ。
彼もマリーと同じく政略結婚をしたのだが、夫婦仲は良好で、子供も4人設けている。
マリーの両親とは親しい仲で、息子の縁談を持ちかけたのも彼からだ。
ロウトは期待していたのだ。
馬鹿で駄目な男でも可愛い息子。
その息子も嫁を貰えば少しは身を落ち着けるだろうと期待をし過ぎていたのかもしれない。
馬鹿息子は可愛いい親友の娘に迷惑をかけるばかりで家庭を顧みず、面倒事を押し付ける嫌な男でしかなかった。
いくら公爵家を継がなくていいとは言え、公爵家の品位を落として言い訳ではないのだ。
可愛い息子を切り捨てるのは心苦しい所ではあるが、最近の行動は目に余る。
「…だから離婚してくれて構わないよ。君には迷惑の掛からない方法で離縁をさせてあげよう。息子が…いや、元息子が迷惑ばかりをかけていたからね」
「私も彼を止められなかったのがいけなかったんです。ロウト様が気に病むことなんて有りませんわ」
「ふふ。じゃあ、そう言う事にしておこう。ただ、離縁は此方から申し込ませて貰うからね」
「それでは公爵家の皆様にご迷惑が…」
「構わないよ」
心苦しい表情を崩せないマリーに義理の父は首を横に振る。
彼も辛そうな顔をしているが、此処で温い真似をしていてはローレントは益々駄目な男に成れ果ててしまうだろう。
両者共にその未来が簡単に予想が出来るが故の苦悩だ。
「ローレントはそれだけの事をしでかした。そして我等は公爵家だ。法を乱す者を放置しては置けないのだよ。…息子だったローレントに最後通告を突きつけるのは父親である私の責任だ」
「ロウト様…」
「兄弟全員を平等に扱ってきたつもりなのだがな…」
疲れた表情で俯くロウトにマリーは何と声をかければいいのか分からず、ぎゅっと口を噤んだ。
家族間の問題に妻とは言え、他者が口を出していいはずが無い。
ロウトには実の家族のように接してもらったが、どうしても彼のとの間にある壁のような物は取り払う事はできなかった。
ローレントも同様に。
昔のように無邪気に遊べる時期は遠ざかってしまったのだ。
自分も昔とは違う事にマリーは気付いている。
温かい陽だまりのような関係には戻れないのだろう。
優しい彼は何処に行ってしまったというのだろうか。
何が彼を悪い方向へと変える切っ掛けとなったのだろう。
少なくともマリーには心当たりが無い。
いや、無いというだけで原因は自分なのかもしれない。
※ご静読有難う御座いました。
※今回は特に短くてすみません。