決闘事件
何時だって彼は面倒事しか持って来ない。
マリーがどんな思いで家に居るかも知らずに…。
以前も似たような事があったが、相手方に手切れ金を渡して何とか何を逃れた。
この間だって、某貴族の娘に手を出したのが相手方に知れて多額の金を支払ったのだ。
これ以上は、もう、庇いきれない。
「…離婚、しようかしら…」
「奥様…」
呆然と呟いたマリーに侍女は思い留まるように言う事は出来なかった。
実際のところを言えば、マリーは良く我慢してくれていたと誰もが思っている。
夫の不祥事を使用人と協力して、時には方々(ほうぼう)の貴族にも声をかけて揉み消してきた。
けれど限界は誰にだって来るものだ。
それでも夫であるローレントがもう少し気を利かせて、ばれない様に上手に女遊びをしてくれていれば良かった。
隠れてしているのならば侍女達にも隠し通せる事もあった。
しかし、正妻としてマリーが嫁いできてからは表立って遊びに出かけるようになってしまったのだ。
悪びれもせずに遊んでいるローレントに何度注意を促したか分からない。
妻として最初のうちはマリーも口を酸っぱくして彼を止めていたが…。
反省している振りはしても行動には現れない事をしってからはマリーは止めなくなった。
直す気も無い人間に何を言っても無駄だと言う事が分かったのだろう。
それでも侍女達は必死にローレントを諌め続けている。
毎日のように繰り返される女遊びに賭け事。
お金は無限に湧いてくるわけではないのだ。
節約しろとまではいえないが、せめてかける金額を減らして欲しかった。
「もう、駄目…ごめんなさいね…」
疲れた表情で寂しそうに呟くマリー。
侍女はローレントに対する怒りで胸が一杯になっていたが、どうにか平静を装って頷く事ができた。
ローレントの浪費癖が増すたびに妻であるマリーは贅沢をしないようになっていった。
今では街に出る事は滅多に無くなり、自室で一日を過ごす事が多くなっている。
それもこれも全ては主であるローレントのせいだ。
政略結婚であるが故に今まで離婚などしようとも思わなかったマリーも今度ばかりは無理だ。
どう頑張っても…いや、頑張ればどうにか出来るかもしれない。
けれど、それはしてはいけない事だ。
今までマリーや実家の権力で物事を解決してきたが、そろそろ潮時だろう。
ローレントは三男だ。
本来であればとっくに縁を切られていても可笑しくはない生活を繰り返してきたが、それももう終わりだ。
マリーや使用人達には事前に公爵家から連絡が届いている。
『次に問題を起こした場合は絶縁する』と。
夫が公爵家の者で無くなればマリーが妻で居る必要性は皆無。
マリーの両親は新しい夫候補を何人か見つけているようで、出来るだけ早く離縁するように言われていたのだ。
それでも、とマリーは思う。
夫としては最低最悪の人間ではあるが、友人としては傍に居たいと思うのだ。
放っておけない気がして離れないのが彼にとっての悪影響だと薄々勘付いてはいた。
誰かが後始末をしているから彼が自立出来ないのだ、と気付いてはいた。
それでも何か失敗をするたびに「妻だから」とか「友人だから」と言って世話をしていたのがいけなかったのだろう。
彼はどんどん愚かになっていってしまった。
…勿論全てがマリーのせいだとは思わないが。
※ご静読有難う御座いました。