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騒ぎ



 幸せそうに頬を緩ませるマリーに店主であるクロノも嬉しくなる。

 本を大切にしてくれる人は本当に少ないのだから。



 「マリー様ならきっとそう言って下さると思いました。此方の絵本は本来は子供向けなのですが、内容が宗教ですので。どちらかと言うと大人向けかもしれませんね」


 「そうなの…。気に入りましたわ。今日はこの本を頂いても?」


 「お買い上げありがとうございます」



 細やかな細工の施された絵本を大切に抱えながら言えば、クロノも心得たように頷いた。

 それ以外に目ぼしい本は見つからず、マリーは手に入れた絵本を丁寧にバックに押し込めると店を後にした。

 名残惜しい気もしたが、あまり長居をしていては店の迷惑となってしまう。

 彼のことは気になるが迷惑だけはかけたくないのだ。



  ◆  ◆  ◆  ◆



 屋敷に戻ったマリーは早速とばかりに自室に篭ってバックから本を取り出す。

 手の中に納まりきらないほど大きく、そのくせに厚さはほとんどない絵本。

 表紙を飾るのは太古の昔の偉大なる神々。

 互いに剣を持ち、対極にある神同士が戦い合い、最後には手を取り合って世界を創造するという宗教絵本だ。


 彼女が美しい挿絵に目を輝かせていると、何やら廊下が騒がしい。

 整った眉をぎゅっと寄せると、マリーは大きく溜息を吐いて近くに置いておいたベルを鳴らした。


 ちりん…ちりん…


 涼やかなベルの音を聞いて来てくれた侍女に騒ぎの内容を聞くべく先を促した。

 侍女は少し躊躇うように瞳を伏せてから唇を動かした。



 「随分と騒がしいようだけど、何があったの?」


 「その…。お恥かしい事なのですが…」


 「また彼が何かしたの?」


 「いいえ、その、はい…」



 恥かしそうに下を向いてしまった侍女には悪いと思ったが、マリーは溜息を抑える事が出来なかった。

 侍女もマリーとの付き合いから彼女の溜息の原因が自分ではない事が分かっているので、ますます身を小さくしてしまう。

 現在の屋敷の主であるローレントが幼い頃から仕えている侍女であるからこそ、羞恥心で今にも消えてしまいたい気持ちでいっぱいなのだ。



 「はあ…それで? 今回は何をやらかしてくれたのかしら」


 「…決闘を申し込まれたそうです」


 「は?」



 マリーが唖然として聞き返したのも当然の事だろう。

 彼女の頭は真っ白になってしまった。

 もしマリーの知っている「決闘」であれば大問題だ。



 「それって三角関係に陥りそうになった場合か、身分違いの恋人を結びつけるための物よね?」


 「その通りで御座います」


 「…ローレントは公の場で人妻と不倫をしていたのかしら?」


 「その通りで、御座います…申し訳ありません。完全に私共の管理不足が招いた惨事で御座いますッ!!」



 平伏ふれふさんばかりに頭を下げている侍女の話など入っても来なかった。

 マリーの脳内を占めているのは「あのお馬鹿ッ!!」と言う思いだけだった。



 ※ご静読有難う御座いました。


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