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叡智の探求所



 今日も今日とて新しい女を連れた夫が帰って来る。

 どうして家に連れてくるのかは不明だが、マリーが問い詰めることは無い。


 夫に興味が無いとはいったが、彼のことが嫌いなわけではない。

 友人としては大切な相手だと思っているし、何より部屋に手を出してこないのがいい。

 ちゃんとした自分の部屋が確保されているのならマリーは女を連れ込もうが、女と夜を過ごそうが気にしない。


 それに、マリーは夫に対して少しだけ後ろめたい気持ちがあるのだ。

 昔から両親以外には可笑しいと言われ続けていた彼女の好きなタイプの男性は…初老の男性だった。

 しかも棺桶に足を突っ込みかけている老人から、背筋の通った紳士然とした老人まで幅広かった。

 気になっている男性もいて、マリーはそういった意味でも夫に申し訳ない気持ちを持っている。


 静かな館内は夫が連れて来た新しい女のせいで騒がしい。

 賑やかな声が中庭で涼んでいるマリーの耳にも届く。

 今回の女は元気な方のようだが、貴族ではないのだろうか。

 貴族である者の家に来たのだからそれなりの礼儀作法を見せてもらいたいものだが…。



 「…少し、出掛けて来ます。後は任せてもいいかしら?」


 「何時頃御戻りでしょうか?」


 「夕食前には帰ります。いつものように夜食もお願いね」



 洗練された動作で礼をする侍女に後を任せ、マリーはその場を後にする。

 特に用は無いが、街を散策するのもいいかもしれない。

 気分転換は大切だ、と自身を納得させて。



 街に下りたマリー。

 彼女が一番先に赴いたのは『叡智の探求所』。

 古めかしい外見と豊富な種類の書物が置かれている古書店だ。

 此処に彼女が一方的に想いを寄せている老人がいる。



 「こんにちわ。お加減はどうかしら?」


 「おや? マリー様。おかげさまで大分良くなりましたよ」



 会話の相手は古書店の主で今年で50になろうかと言う男性だ。

 名前は『クロノ・アルハザード』。

 短い白髪交じりの銀髪と薄水色の瞳が涼しげな男だ。

 年齢よりも幾分若く見えるのは、すっと通った背筋や無駄な肉のついていない身体のおかげだろう。



 「先日から体調を崩されているとお聞きしましたので…心配したんですよ?」


 「ははは。申し訳ありませんな。どうにも最近は身体を壊しがちでしてな。年なんでしょうかねぇ」


 「…もうっ。体調管理はしっかりして下さいね」


 「ご忠告承りました、と。それで、今日はどういったご用件でしょうか」



 和やかな空気を壊さないように柔らかく問いかけられ、マリーは思い出したように頷いた。

 持ってきたバックの中から一冊の本を取り出すと老人に見せる。



 「この本の原本が欲しいのですが…」



 クロノは首にかけていた眼鏡をかけると、手にとって本を確かめ始めた。

 古めかしいページとは異なり、表紙や裏表紙、背表紙は出来立ての新品のよう。

 手触りは妙に生々しく、ぞくりとした悪寒が背筋を這い上がってくる。

 単なる本相手に悪寒も何も無いはずなのだが、どうしてもこの本だけは今すぐにでも手放したくなって来る。



 「マリー様。その、この本を今まで読んで…?」


 「ええ、そうですわ。幻想的な神々のお話でしたけど…それがどうかしましたか?」


 「……いえ」



 マリーは不思議そうな顔をしてクロノの顔を覗き込んだが、さり気無く反らされてしまった。

 小さく溜息を零すマリーには気付いていない様子であり、クロノは手元の本から視線を離さない。



 「クロノさん? 大丈夫ですか?」


 「……っえ、ええ。大丈夫です。すみませんが店には置いてない本ですね。お力になれず申し訳ありませ…ッ?!」


 「え?! 何?!」




 ※ご静読有難う御座いました。

 ※クトゥルフ神話が好きなのですが果たして話しに混ぜてよい物か…。(どう足掻いても絶望しか見えないかな…)



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