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通された家は狭く、部屋数も二部屋だけとかなり寂しい。
それでも村長家族が暮らしていくには十分な広さであり、冬風も遮ってくれるので温かい。
土が剥き出しになった床には大量の藁が敷かれ、その上にマリー達が贈った布が敷物代わりとして使われている。
生地のしっかりとした厚手の布はちょうど良い敷物となっていて、靴を脱いで上がったマリーの足を柔らかく包み込む。
暮らしは大変そうではあるが、笑顔が絶えない家族だ。
「まぁまぁ! お久しぶりでございます、マリー様」
「お久しぶりね。お元気でしたか? リューちゃんもこんにちわ」
「……こんちわ」
まだ5歳にもならない村長夫婦の一人娘だ。
前は元気に挨拶をしてくれていたのだが、そろそろ人見知りが始まったようだ。
恥かしそうに頬を染めて母親の陰に隠れてしまった。
「お蔭様で何とか暮らしていけていますよ。リューも冬を越せる程度には肉もついてきましたからね」
「ふふ。ふっくらしていて可愛いですね」
「奥さんや。商人さん達は向こうかね」
「ええ…そうですけど? マリー様。商人の方に御用事ですか?」
「挨拶も兼ねて見せて貰いに来たんですよ。屋敷内での話し相手が欲しくって」
小さく笑みを零すマリーに村長の妻は首を傾げてから頷いた。
傅かれてばかりでは気苦労もあるのだろう、と考えたからだ。
農民と一緒になって畑作業に精を出すマリーを知っているからこその理解だった。
マリーは再び靴を履きなおし、村長と共に奥部屋に向かう。
玄関に近い一室目を村長夫婦が使い、奥の部屋を商人に貸しているようだ。
家賃として少なくはない金を貰っているので夫婦の食事は勿論の事、彼等の食事等も安定して出せていると言う。
今年は去年にも増して収穫できたので夫婦にも余裕があるのだ。
商人達に衣食住を提供しても蓄えに影響は出ない、と聞いてマリーは胸を撫で下ろす。
気の良い村人ばかりなので無理をしているかもしれない。
頼まれたら断りきれなかったのかもしれない。
そんな事ばかりを考えていたので、ここに来てようやく安堵する事ができる。
カラリ。
乾いた音と共に横開きの扉を開く。
村長の言えというだけあって奥の部屋も結構広い。
その一番奥に奴隷達が、商人達は前の方に身体を寄せ合っていた。
派手ではないが綺麗な服を身に着けたマリーを見て商人の一人が近付いてきた。
「こんにちわ。貴方が商人さんかしら?」
「初めまして、ですかな? 私はコラルドと申します。もしや貴方がマリー様ですかな?」
猫のように目を細め、商人は口元に笑みを浮かべて言う。
大方村長達から聞いているのだろう。
マリーはそう憶測をつけて頷いた。
「その通りよ。コラルドさんはどちらからいらしたの?」
「王都を出発してからは色々な村を転々と、ですなぁ。次は子爵領に向かおうかと考えております」
「こんなに寒い時期なのに…。商業とは大変なのですね…」
「それで、此方へはどういった御用件で?」
「商品を見せて頂けるかしら。出来れば年配の方がいいわ」
前半で目を輝かせ、後半で首を傾げる。
マリーの趣味を知らない相手なのだから当然の反応だろう。
普通のご令嬢であれば若くて、顔立ちの整った男を所望するからだ。
だが、マリーは変わっている。
同年代や数歳上の人間には興味の欠片も持っていないのだ。
不思議そうな表情をしていた商人も奴隷を買ってくれると言う言葉に頬を緩ませる。
厳しい雪道を何人も率いて行くのは辛いものがあるのだろう。
買ってくれる人間がいれば素早く売らなくては奴隷の質も落ちてしまうのだ。
健康状態にも悪影響が出てくるだろうし、何より凍傷が恐ろしい。
売り物に傷があっては意味が無い。
綺麗なうちに高値で売りたいと言うのが本音だろう。
「そうですなぁ。マリー様のご要望にお応え出来るのは此方の者達ですかねぇ」
他の商人達とも協力して何人かの男性を選り分けてくれた。
全員疲れたような表情をしているが、マリー好みの年配の男性ばかりだ。
※ご静読有難うございました。