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さようなら



 『王族またはそれに連なる人間が問題を起こした場合。親族(もしくは妻)はその者の了承無しに離婚を成立させる権利を有する』


 公爵家は遠縁ながらも王家の血が流れている格式高い貴族の家だ。

 この決まり事は妻であるマリーとロウト達公爵家に適用される。

 だが、今回ばかりはマリーの予想は外れだ。

 マリーとローレンスを離縁させるように言って来たのは王家なのだ。

 あまりにも馬鹿息子の女遊びや賭け事がひどい為に王家直々に離縁と絶縁命令が出たのだ。


 その事を噛み砕いて言うとマリーは驚いたような顔をした後、何やら納得したように頷いた。

 不思議に思ってロウトが尋ねると彼女は首を傾げながら言った。



 「庶民の手本となるべき貴族が騒ぎを立てれば、貴族の上に立っている王族の方々にも迷惑が掛かりますもの。庶民にとっての貴族や王族と言った地位を持つ人間は一緒なのです。上に居る者、と言う区別しか彼等にはつきませんもの」


 「だが、王族と一貴族の違いくらいは分かるのではないか?」


 「いいえ。彼等は貴族を取りまとめているのが王である事しか分かりませんわ。その貴族が王の命令に反した行動を取っていると知れば、彼等は王に人望が無いのだと誤解するだけです」



 マリーは良く街に下りているから分かる。

 貴族であれば学んでいて当然、知っていて当然の事実も庶民は知らないのだ。

 税を納めている相手が貴族。

 それらを取りまとめている一番偉い貴族が王族。

 どう考えても可笑しいとしか言いようの無い理解の仕方だが、学の無い者から見た貴族とはそんな物なのかもしれない。


 少しでも知識の有る者ならば王族は特別な存在なのだと理解できるだろうが、普通の庶民はそんな事考えもしない。

 必死に働いて毎日を生きていくだけで精一杯だから。



 「はい、終わりました。何だかご迷惑ばかりおかけして本当にすみません」


 「ははは。だから気にする事はないさ。どっちかって言うと私達の方が迷惑をかけていたからね。お互い様って言う事にしておこうか」


 「分かりました。それで、今日は何処に向かっているんでしょうか?」



 揺れる場社内で書いたとは思えない綺麗なサイン。

 それを満足そうに見てからロウトはニヤリと口元を上げて見せる。

 可愛らしく小首を傾げているマリーに彼は笑みと共に言葉を返した。



 「言ってなかったかな? 君の実家だよ」


 「え?」



 呆然としているマリーの耳に空気を読まない御者の声が響く。



 「到着いたしました!」


 「すまないね。君がローレントに出会う事はもう無いだろう。きっと、その方が両方の為だ。分かってくれ」



 厳しいロウトの言葉にマリーは目を見開く事しかできなかった。

 助ける事のできなかった友。

 最後の最後まで迷惑を掛けてきたとは言え、大切な友人だ。

 せめて一言だけでも言葉を交わしたかった。

 そんな表情を読んだのだろう。

 ロウトは静かに言った。



 「会えば甘やかす事になる。それだけはアイツの父親として許すことは出来ないのだよ」




 ※ご静読有難う御座いました。


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