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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
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96 「村長と神殿長の対面」



 練兵場を見学した後、俺たちは一度別館に戻って出かける準備を済ませた。




 一足先に街を案内してくれる人と護衛をしてくれる兵士の人達がやってきた。


「ルデリック団長のご命令により護衛を務めることとなった兵長のニダロです。本日はよろしくお願いします」


 護衛をしてくれるニダロ兵長は、【隻眼の血紅狼】のボバドルさんと同じ銀色の毛並みの狼の獣人だった。その後ろには、まだ若い兵士が2人いた。


「新兵のザッツリーです。本日はよろしくお願いします」


「し、新兵のヘイムです。ほ、ほんじちゅはよろしくお願いします」


 若い兵士とは言ってたけど、思っていたよりも若かった。ミカエルやセレナに見惚れて、上司の狼の獣人の人に怒られていた。気持ちは分かるので、苦笑が浮かんだ。



「トール様より、本日の案内を仰せつかりましたオートンと申します。どうぞよろしくお願いします」


 トール様が用意してくれた案内人は、オートンという男の人だった。ちょび髭を生やしていたけど、中年というには、まだ若そうだった。背筋がピンとしていて、仕事が出来そうなお役人さんといった感じだった。リンダとローナが、タマに促されたみたいで「今日はよろしくお願いします!」と元気よく挨拶をすると、優しく微笑んでいた。


 悪い人ではなさそうだ。


「えっと、みんな。案内人や兵士の人達の言うことはちゃんと聞くように。初めての街だからってあんまり羽目を外さないようにね」


 観光組の仲間と子供たちには、案内人や兵士の指示に従うように言い聞かせた。見知らぬ人の後をついていかないようにも言った。あと、暫定的なリーダーとなった操紫には、みんなのお小遣いとしてトール様から報奨金としていただいた金貨を20枚ほど、革袋に入れて渡しておいた。

 まだこの世界でお金を使ったことがないので、どれくらいが適当なのかは今一わからないけど、これくらいあれば足りると思う。


 欲しいものがあったら、一人金貨一枚分くらいは好きに買ってきたらいいよと操紫に伝えておいた。村で待っている仲間や村人にお土産を買って帰りたいだろうしね。





 自家用の幌馬車に乗って街に出て行った子供たちを見送った後、玄関で待っているとルデリックさんとルミネアさんたちがやってきた。


 運動着から着替えたルミネアさんがやってきた。青を基調とした麒麟の刺繍が右胸にされた服を着ていた。その一歩後ろを歩いてくるモルドさんも似た服を着ていた。


 しかし、隣を歩くルデリックさんは、黒を基調とした異なった意匠の似た服を着ていた。


 それぞれの騎士団の制服なのかな?

 

 流していた金髪を縛ってポニーテールに纏めたルミネアさんは、凛々しかった。


「待たせたな。外に馬車を止めている。それに乗って行こうか」


「はい、わかりました」


 ルデリックさんに促されて、俺たちはルデリックさん達が用意してくれた馬車に乗り込んだ。ボックス型の馬車で、その内装は模様の入った豪華だった。


「わぁ、すごいですね」


「貴族様も使う来賓用の馬車だからな」


「こんな馬車に乗って行くんですか? 」


「どうした、気後れでもしたのか? 」


「ええ、まぁ。あっちの馬車じゃダメですかね? 」


 馬車は二台用意されていて、もう一台の方はこっちよりも幾分グレードの落ちたものだった。


「あっちは従者用だからな。カケルはこっちだ。うち(ライストール家)は、真竜の子を丁重に扱ってますよ。っていうアピールも兼ねているからな。我慢してくれ」


 あまり気乗りはしないけど、貴重な体験だと割り切って馬車に乗ることにした。馬車には、ルミネアさんとルデリックさんの他にラビリンスと天狐が同乗することになった。幼竜は、いつものように俺の頭に乗っている。

 

 乗る際にルミネアさんが、何気なく隣に座ろうとしてきたのをラビリンスがブロックしていた。むぅ。と眉根を寄せたルミネアさんにラビリンスが、ふふんと得意げにしていた。何をしているんだお前は……



「そういや、カケルは主に何の神を信仰してんだ。やっぱり、旅の神ヘルエシス様か? それとも闘争の神アルス様とか魔法と叡智の神オーテム様か? いや、もしかして農耕の神ローニア様か? 」


 パラミア神殿に向う最中、馬車の中でルデリックさんと談笑していると、ふとそんなことを聞いてきた。


「いや、えっと……特にこれといった神様を信仰してませんね……。何かの行事があった時にその神様に祈ることがあるくらいです」


「意外だな。じゃあ、神から神託があったことはないのか? 」


「ないですよ。そんなことは一度も。ルデリックさんには経験が? 」


 地球で暮らしていて、神託が下りるなんて体験していることなんてまずない。

 ただ、この世界には神様が実在していて、話によると割と気軽に人の世に関わっているようだった。


 神話で語られる神代の時代だなぁ……。


「俺か? 3回くらいヘルエシス様やアルス様からあったな。基本的に怪物退治だったけど」


「妾もあるぞ。ヘルエシス様から街道に巣食った盗賊の退治を頼まれたことがある」


 問い返したら、ルデリックさんとルミネアさんは、何のこともないようにあると答えた。


 え、待って。神託ってそんなほいほいとあるものなの? それともルデリックさんやルミネアさんがそれだけ傑物なの?


 ……後者な気がする。


「カケルのような奴、神様が放っておくはずがないだろうに意外だな」


「大したことないですよ」


 俺は英雄と呼ばれるような人間ではない。これからも神託が下りてくるなんてことはないと思う。





 そうこうしていると、馬車はパラミア神殿についた。


 パラミア神殿は、大理石のような乳白色の石材で建てられたでっかい神殿だった。シンボルとして天秤が描かれていて、荘厳な雰囲気を醸し出していた。


 連絡をしていたのか、馬車が止まると神官と思わしき若い女性の人がやってきた。


「ルデリック様。ルミネア様。御子様とその主様。ようこそパラミア神殿へ。中で神父様がお待ちしております」


 女性神官さんの視線からして、御子様と主様は、どうやら幼竜と俺のことを指しているみたいだ。

 この子は、神殿ではそれだけ大事にされていたみたいだ。


 馬車から降りて、促されるままに中へと入る。

 荘厳だけど、華美ではない。洋風とはまた違った風にも見える異国情緒溢れる内装に、ここが異世界なんだと改めて感じさせられる。同行しているメンバーは、みんなその神殿に感嘆の声をあげていた。

 幼竜が身を乗り出して頭の上から落ちそうになったので腕の中に抱え直した。元々いた場所に何か感じることがあるのか、腕の中できょろきょろとしきりに首を動かしていた。


 個室には全員はは入れないということなので話し合った結果、天狐とモグがついてくることになった。他の仲間は、モルドさんと一緒に別室で待機することになった。


 それから仲間と別れて一室に案内されると、初老の男性が待っていた。


「おお、ルミネア様、ルデリック様。お二方が直々に来て下さるとは、ありがとうございます」


 初老の男性は、俺に一度視線を向けた後、胸元の幼竜に目を向けて、また俺を見返し、笑いかけてきた。


「お待ちしておりましたカケル殿。どうぞ座ってください」


「ありがとうございます」


 自己紹介もしていないのに名前を呼ばれて少々驚いたけど、多分事前に連絡があったのだと思う。真竜の卵が孵ったことは伝えているのだから、その原因となった俺の名前も聞いているのだろう。


 初老の男性は、リントンと名乗った。この神殿の神父様だそうだ。


「この度は攫われた御子様をお救い下さり、真にありがとうございます」


 リントン神父さんは、深々と頭を下げて感謝の念を伝えてきた。傍に控えていた女性神官の方もそれに合わせて深々と頭を下げてきた。


「どうか頭をあげてください神父様。事情は知りませんでしたが、この子を助けることができて私もよかったと思っております」


 あの墜落で卵が割れることがなくて、本当に良かったと思っている。ミカエルや俺の使う蘇生魔法が、まだ生まれていなかった卵にも適用されるのかは未知数だったしな。


「しかし、まだ卵の中にいたこの子を私の不手際で孵らせてしまったことは、申し訳ありません」


 ルミネアさんは大丈夫だとは言っていたけど、神殿からすれば、自分たちの預かり知らないところで大事にしていた卵が孵ったというのは問題にならないはずがない。


「……頭をお上げください、カケル殿」


 深々と頭を下げていると、リントン神父さんの困ったような声がかけられた。


「御子様がいつお生まれになるかは、私どもで管理できるものではありません。カケル様の元で生まれたというのなら、それがレヤン様(運命の神)のお導きなのでしょう。また、私どもは守護竜アプラスとの約定に従い、御子様がお生まれになられるまでこの地で保護しておりましたが、御子様がお生まれになった今、今後どうなされるかは御子様の意思が優先されます」


「この子の意思? 」


「はい。神殿に戻られ、私どもの元で暮らすのか。このままカケル殿の元で暮らすのか。はたまた、この地を離れ、自由に暮らすのかは御子様の意思に委ねられております」


「……それは、一度決めたら変えられないものなのですか? 」


「いいえ、そんなことはありません。御子様の意思が尊重されます。ある程度成長したら神殿を立つ場合もあれば、神殿に戻ってくる場合もあります。一生そこで暮らすのも、暮らさないのも御子様の意思次第です」


 想像していた以上に神殿は、この子の意思を尊重する姿勢をとっているようだった。


「……話によるとカケル殿は、真竜の子を卵から育て上げたことがあるそうですが、それは本当で? 」


 その話もリントン神父さんに伝わっていたのか。

 育てたと言ってもゲームの中での話なので、知らないことは多い。


「えぇ、私一人で、というわけではなかったですが、その時の仲間と一緒に。文献を当たったり、知っている者に聞いたりしながら育てました。彼らとは契約を結び、今も一緒にいます。私が街に行っている間の村を任せています」


 俺がそう答えたら、リントン神父さんは目を見開いて驚いた声をあげた


「なんと真竜と契約をなされているのですか! ……そう言えば、こちらのお二人もカケル殿の従者だと聞いておりますが」


「ええ、カケルの従者であってるわ。九天狐(キュウテンコ)、狐の魔物(妖怪)よ」


「モグもだよ。ファフニール(土精の精霊竜)っていう土の精霊で村長のじゅーしゃ? だよ! 」


 モグがそう答えると、出されたお茶を飲んでいたルデリックさんが「ぶっ!? 」と咳き込んで咽た。


「ごほっ、ごほっ! ファフニールっていえば、大精霊よりも上じゃねぇか!? モグちゃん、そんなにすごかったのか!? 」


 あ、そう言えば、ルデリックさんにはモグ達の種族名までは伝えていなかった。


「う? そうだよ」


「そうだよって……いや、そうか。カケルだもんなぁ」


 ルデリックさんは、俺に顔を向けて疲れたようにため息をついた。


 その納得の仕方は少し腑に落ちない。


 そう思っていると、腕の中で大人しくしていた幼竜が身動ぎして、人差し指を甘噛みしてきた。


「クルルゥ」


 どうやらお腹が空いたようだ。


「すいません。ちょっとこの子のお腹が空いたようなので、いいですか? 」


「え、えぇ、構いませんよ」


「ありがとうございます。」


 リントン神父さんに一言断りを入れてから、幼竜を抱え直して指を吸いやすいようにして、指に魔力を集中させた。


「キュルルゥ」


 幼竜はおいしそうに指から溢れてくる魔力を嚥下していく。成長期だからか、一度に魔力を吸う量は日増しに増えている。とは言っても、まだ賄える量だ。


 しばらく吸って満足したようで、幼竜が指から口を離した。お腹が膨らんだら頭を胸に擦りつけて甘えてきたので頭を撫でてあげる。

 

「……カケル殿は、真に優れたモンスターテイマーなのですな」


 そのやり取りを見ていたリントン神父さんは、驚いていた顔を和らげてしみじみと呟いた。


旅の神ヘルエシス

災害に合わずや野盗、魔獣に襲われず安全で快適な旅を提供する青年の神様。

一歩で千里を進む靴とあらゆる環境から身を守るマントを持っている。


商人や旅人の通行を妨げる野党や魔獣の被害が大きいと近くの適した者によく神託を下す。フットワークが軽い。


真実と秩序を司る神パラミア

真実と秩序を司る神。法や罪を裁く神や契約の神として商人から貴族や王族まで幅広い信仰を得ている女性の神様。

真実を見抜く水の鏡と罪の重さや正統性を量る天秤を持っている。


農耕の神ローニア

肥沃な大地と豊穣をもたらす巨乳美女の神様。

無限に水の湧く甕と豊作を約束する黄金の穂を持っている。


闘争の神アルス

闘争と栄光を司る筋肉むきむきの男神。魔物や盗賊といった危険の絶えないこの世界では、戦いの神様として広く信仰されている神。戦いを生業とする騎士や兵士、冒険者や傭兵から特に信仰されている。

戦士を好み、色も好む。近年では、サキュバス100人を相手に十日十晩ハッスルし続けたことが話題になっている。

勝利を約束する黄金の剣と栄光の鎧を持っている。


魔法と叡智の神オーテム

魔法と叡智の神。人前には、白い髭を生やした老人の姿で現れることが多い男神。学者や魔法使いなど知識層から厚い信仰を受けている。

人の心理を見抜く魔眼と森羅万象を操る世界樹の杖を持っている。(黄金の剣と同様に神器補正がかかっている)


運命の神レヤン

運命と縁結びの女神。運や縁結びを司っているので、幅広い信仰を持っている。特に賭博師や未婚の女性の信仰が厚い。

運命の糸を紡ぐ紡ぎ車と糸を切る糸切りを持っている。



精霊の位階

下級精霊→中級精霊→上級精霊→大精霊→精霊竜=精霊女王≦精霊王



※2018/08/29

ゴブ筋を観光組から神殿組に変更しました。

よって、それに関わる文章を修正しました。

観光組の暫定的なリーダーは、操紫へと変更されました。


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