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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
97/114

95 「村長たちの朝」


 あれからトール様に弁明してなんとか理解してもらえた。

 ルミネアさんがモルドさんとルデリックさんに求婚した(前科)を知っていたようで理解は早かった。相手がいるなら早く身を固めた方がいいとルデリックさんと同じアドバイスをもらった。



 理解した時にトール様が一瞬見せた哀れみにも似た目が忘れられない。





 自室に戻ってきた俺はソファに身を投げ出した。


「疲れた……」


 おかしいな。俺はリフレッシュするために朝風呂に入ったはずなのに……



 柔らかい高級ソファに身体を沈めながら自問していると、ベッドの方から天狐の視線を感じた。そちらを見なくても天狐が心配しているのを感じた。


 気にしなくていいと、俺は手をあげてひらひらと振った。





◆◇◆◇◆◇◆




 すぐに動く気にはなれなくて、ソファの上でだらだらとしていると、メイドさんが入ってきて朝食の支度が出来たことを知らせてくれた。


 ラビリンスを起こして、別室で過ごしていた仲間の様子を見に行った。幼竜は、まだ寝足りないみたいで俺の頭の上に移った後、頭の上で寝直していた。


 仲間たちは当に起きて、くつろいでいた。しかし、子供たちはアッシュ以外は起きたばかりだった。パジャマ姿で、まだ眠たそうにしていた。


 寝起きのレナはこちらを見ると、にへらと蕩けた笑顔を向けてきた。その寝ぼけた姿はとても可愛かった。


 

 


 みんなの着替えが済んでから食堂に向かうとルデリックさんが先に着ていた。その隣には、初めて見る顔の女性が座っていた。ルデリックさんは、俺に気づくと手を挙げて口を開いた。


「よぉ、よく寝れたか? 」


「おはようございます。ルデリック様。はい、トール様が快適な部屋を用意してくれたおかげで旅の疲れを取ることができました」


 他人の目があるので畏まった挨拶をしたら、ルデリックさんが嫌そうに顔を顰めた。


「あーよせよせ。公の場じゃないんだ。旅の時みたいに接してくれりゃいいよ」



 でも他人の目がありますよね? 


 と思って、ルデリックさんの隣の女性にチラッと視線を向けた。その視線に気づいたルデリックさんが、「ああ……」と口を開いた。


「そういや、まだ紹介してなかったな。俺の妻だ」


「ミネザ=ビルヴァートンと申します」


 ルデリックさんの紹介に合わせて、ミネザさんが席に座ったままこちらに会釈してきた。こちらも会釈を返す。


「藤沢カケルといいます。旅では、ルデリックさんに大変お世話になりました」


「おいおい、何言ってんだよ。世話になったのはこっちの方だよ。おかげで遠征中とは思えない優雅な旅が出来たんだからな」


「そんなことないですよ」


「いやいや、そんなことはないって。ミネザ、カケルはこう言っているが、今回の遠征はすごかったんだぞ」


「まぁ」


 ルデリックさんがミネザさんにおどけたように旅のことを話し始めると横のミネザさんが口元に手を当ててコロコロと笑った。



 その間に俺たちは、メイドさんに案内されて席につく。

 すやすやと寝ている幼竜をメイドさんが用意した籠に寝かせながら、ルデリックさんの話を聞いているミネザさんを見た。


 淡く赤みがかった金髪を華やかにセットした小柄で可憐そうな人だった。水色を帯びた緑色の瞳を細めて柔らかく微笑む姿は、貴族の婦人から抱くイメージとは違った。


 それに体格のいいルデリックさんと並んでいると父親と娘のようにも見える。


 しかし、ゆったりとした服に視線を向けると、お腹が膨らみに目がいった。

 そう言えば、春に娘さんが生まれるんだっけ? と、以前に風呂場でルデリックさんが話していたことを思い出す。


 俺たちなんてそっちのけで盛り上がっているルデリックさんとミネザさんの周囲は甘い空間が形成されていた。仲睦まじい様子だった。


 ルデリックさんは、旅の間はそんな素振りを少しも見せなかったので少々意外だった。



 そうしていると、メイドさんがやってきて朝食を用意してくれた。

 

 昨夜の夕食では一緒だったトール様とルミネアさんの姿は朝食の席にはない。

 トール様がいないのは、昨夜が特別だったというのもあるだろうけど徹夜明けだからだろうと容易に想像できた。しかし、ルミネアさんの姿がないのは意外だった。

 もしかして朝が弱かったりするのかな?



 今日の朝食は、白パンに乳の冷製スープ、オオトカゲのサイコロステーキだった。朝から結構ガッツリとしたメニューだった。オオトカゲのステーキは、牛肉の赤身のような見た目で鳥のササミのような食感のするおいしいステーキだった。乳のスープは、牛ではない全く別の魔物の乳だそうで、牛よりもさっぱりとしていて甘みのようなコクがあった。サイコロステーキは仲間に、スープは子供に好評だった。



「あ、そうだカケル。今日はこの後、パラミア神殿に向かうことになってる。案内役はルミネアだけの予定だったんだが、俺も同行することになった。よろしくな」


 食事の途中で、ルデリックさんが俺の顔を見て思い出したように今日の予定を教えてくれた。


「わかりました。よろしくお願いします」


 デザートには、赤く縁どられた白い果物が出された。ラニナという果物らしい。ラニナは独特の風味があり、しっとりとした食感で甘くておいしかった。




 食後、朝食の席に現れなかったルミネアさんとトール様についてルデリックさんに尋ねた。

 話によると、トール様はお休み中でルミネアさんは先に朝食を摂って練兵場という訓練施設で体を動かしているそうだ。


 遠征に出た騎士たちは数日の休みをもらっているという話なのに帰ってきた次の日から体を動かしているのは、とてもルミネアさんらしい。


 

「なんなら練兵場に今から見学に行くか? 」


 ルデリックさんの何気ない提案に仲間の多くとアッシュが強い反応を示した。

 反応を示した者の内、小鴉とゴブ筋は兵士の練度に関心があって、頑冶はおおかた兵士の装備に関心があるのだろう。残りの反応を示した子やアッシュは、純粋に兵士たちの強さに関心がありそうだ。


「そうですね。行きましょう」


 みんなが乗り気ということもあって、パラミア神殿に行く前に練兵場を見学することが決まった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ここが練兵場だ。おっ、ちょうどいいところに来たみたいだな」


 練兵場は城の裏手にあった。ルデリックさんは、練兵場の一角を見てそう言った。ルデリックさんが見ている方を見ると、ルミネアさんの姿があった。


 騎士の人達よりも軽装の人達、恐らく訓練中の兵士たちがルミネアさんを囲って相対していた。

 

 意外にも髪や体に青白い電気を帯電させている様子はなかった。木剣と盾を構えて、打ち込んでくる兵士たちを相手に指導をしているようだった。


「意外か? 」


 顔に出ていたようで、ルデリックさんがおかしそうに笑いながら問いかけてきた。


「えぇ、はい。正直なところ」


 ルミネアさんが体を動かしていると聞いた時、兵士の強い人相手に連戦している姿をイメージしていた。


「あいつは強い奴と戦うのが好きだが、別に弱い奴が嫌いってわけじゃない。むしろ、面倒見がいい方だな。まぁ、前に理由を聞いたら、将来強くなったら戦えるからって、なんともあいつらしい回答が返ってきたけどな」


「それはルミネアさんらしいですね」



 邪魔しては悪いのでしばらく目立たない場所で見ていると、指導が終わったようで兵士たちが整列してルミネアさんに敬礼した。


「終わったみたいだな。どうする? 興味があるなら新米兵士の訓練の様子をもう少し見ていくか? 」


「そうですね……」


 横で見学している仲間たちの様子を見る。ゴブ筋や小鴉やアルフたちは、兵士たちが訓練する様子を興味深そうに見ているけど、ポチやムイのように飽きている子もいた。子供たちのうち、リンダとローナも飽きたようでタマに遊んでもらっていた。


「また今度、じっくりと見学させてください」


「そうか。まぁ、そうだな。じゃあ、ルミネアを呼んで神殿に行くか」



「むっ、もうそんな時間か」


 その声は、俺の耳元のすぐ横でした。驚いて、耳元を抑えて振り返ると、いつの間にやらルミネアさんがそこにいた。


「少し待て、井戸で汗を流して支度をしてくる」


 兵士の指導をしていたルミネアさんは、普段の鎧は着ておらず、動きやすそうなマサギ製の服を着ていた。下は何故か革のショートパンツで、ルミネアさんの白い素肌が露わになっていた。


「お、おはようございますルミネアさん」


「ん? おお、おはようカケル。ここには見学に来たのか? それとも私に会いに来てくれたのか? 」


 突然現れたルミネアさんにちょっとドキドキしながら挨拶をすると、ルミネアさんは悪戯めいた笑顔で問いかけてきた。


「両方ですね。どういった訓練をしているのか興味があったので」


「訓練に興味があるか。そうかそうか。もし、参加がしたいなら私は歓迎するぞ。もちろん、カケルの従者の者たちもな。ぜひ、一度手合わせしたいものだ」


 最後は、私情入ってますよね?


 とは言え、その申し出は有難い。ゴブ筋との手合わせはとても実践的だけど、それだけじゃ足りない。訓練の方法を学ぶのにはいい機会だ。


「ありがとうございます。前向きに考えてみます」


「うむ。楽しみにしているぞ。では、私も神殿に行く支度をしてくる」


 ルミネアさんは、そう言ってあっという間にその場から姿を消した。ルミネアさんがいなくなった場所では、残留した電気が、パリパリと音を立てて空中を走っていた。


 リンダとローナが、ほわわーと口を半開きにしてそこに手を伸ばそうとするのを、タマが抱き上げて未然に防いでくれた。ビリビリするから危ないよ。



「あ、そうだ。神殿には、結局何人同行するんだ? カケルと真竜だけか? 」


 えーと。


「神殿に行ってみたい人、挙手」


 そう言うと、天狐、小鴉、ゴブ筋、ラビリンス、ミカエル、モグ、ジャンヌの7人が手を挙げた。俺の影に潜んでいる影郎もこのまま、俺についてくるようなので、8人か。レナは、手を挙げる素振りを見せたけど、他の子供が手を挙げていないのに気づくと下ろしていた。

 


「俺を含めて9人でお願いします」


「9人? ああ、真竜のチビもか。わかった。じゃあ、他の奴らはその間、街を観光するってことでいいか? 」


「はい。それでよろしくお願いします」


「となると、19人か。ガキも多いし、護衛もいた方がいいか……そうだな。暇そうな若い奴と兵長を一人つけさせるか」


 ルデリックさんは、「ちょっと待ってろ」と言って兵士の指導をしている最中の教官に声をかけに行った。


「何だか申し訳ないな」


「でも、私たちには土地勘がないし、兵士と一緒なら変な輩には絡まれなくて子供たちも安心でしょ」


「それもそうだな」


 ルデリックさんには、今度お礼しよう。



 しばらくしたら、ルデリックさんが戻ってきた。


「ニダロって兵長と新米兵士を2人つけることになった。トール様が案内人を別で手配してくれてるから、一度別館に戻ろうか」


「はい。わかりました」



いよいよ、次回からはイベント盛り沢山の神殿と街の観光編です。お楽しみに。



18/05/19

神殿に行くメンバーは、ゴブ筋ではなくラビリンスでした。また、観光に行くメンバーの人数に子供たちを足してなかったりと問題があったので修正しました。


18/08/29

ゴブ筋が観光組ではなく、神殿組に変更されました。

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