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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
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89 「村長たちの身支度」



 ルデリックさんから風呂場で衝撃的なことを知った翌朝。

 俺と天狐が食事を作る傍らで仲間たちは出発の準備をしていた。


 みんな、今日中に街につくとあって待ち遠しいのか、何だか浮足立ってそわそわとしているように感じる。かくいう俺もこの世界の街がどんな街なのか楽しみだった。オスカーさん達に話によると、数年前の内乱で一時期、相当治安が悪くなったそうだけど、今では内乱も治まって以前よりも活気に満ちているそうだ。


「どんな街なんだろうねー。屋台とかで色んな料理が売ってるらしいよ。どんな料理何だろうね」


「ふふっ、カケル楽しそうね」


「そりゃあね。冒険者ギルドとかもこの世界でもあるっていうし、どんなところなのか気になるよ。天狐は、どこか行ってみたい場所とかあるのか? 」


「そうね……服を見てみたいわ。アラクネからこの世界の服飾を見てきてって頼まれてるの。あと、この世界のアクセサリーには興味があるわ」


「いいね。すぐにってわけにはいかないだろうけど、帰る前に一度2人で街を観光しようか」


「ほんと? 楽しみにしてるわカケル」


 お金は幸いにもエルフの里を助けたお礼で、結構持っているので村のみんなの分のお土産とかも買って帰りたいな。アイテムボックスがあれば、出来立ての屋台の食べ物とか持って帰れるけど、みんな何が好きだろうなぁ……やっぱり下手に完成品とかよりも珍しい素材とか食材の方が喜ぶだろうか。


 いや、お土産なんだし、小物でもいいから完成品をプレゼントする方がいいかな?



 なんて街についてからのことに想像を働かせながら、俺はその日の朝食を天狐と用意した。昨日、雷龍騎士団が討伐した魔獣から採れた肉をふんだんに使った肉々しいハンバーグは重めの朝食だったけど、みんなとてもおいしそうに食べてくれた。


 仲間たちや傭兵のみなさんはもちろん、子供たちも朝から食事をがっつりと取っていた。みんな、よく食べるなぁ。



 食事を終えた俺たちは、馬車に乗り込んで野営地を出発した。みんな、手際がいいからかいつもより出発の時間が早いような気がした。


 そう言えば、今朝の騎士団は夜明け前から全員起床して準備をしてたし、それに釣られてかうちもみんな行動を始めるのが早かったからなぁ。



 元々仲間は睡眠をあまり必要としてない。今回の旅では周囲に合わせて休みをとっているけど、周囲が普段より早く動き出すとそれに合わせて仲間の動き出しも早くなるのだ。


 個人的に今回の旅で仲間が子供たちに合わせて天幕で睡眠をとっているのは安心する。


 特に頑冶や小鴉は村にいた頃はほとんど寝ない、寝ても一週間に一度くらいという生活習慣でほとんどの時間を鍛冶や村周辺の偵察を行っていたりしたので、彼らの高性能な体なら大丈夫だろうと知っていても見てるこちら側としては不安になる。


 なので夜にちゃんと寝ていると安心する。



 ……そんなことを言っている俺が魔法の修行で徹夜とかしていたら説得力がないかもしれないが。俺の体も地球の頃とは違って高性能なので一日二日の徹夜くらい全く問題はないのだけど……いや、これは言い訳か。気を付けよう。



 と、思考が逸れたが、そういうわけで今朝の出発はいつもより早かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「街が見えてきたようじゃの」


「あら、そうみたいね」


 手慰みに木彫りをしていた頑冶がふと手を止めて前を見てそう言った。その声に天狐も前を見たのか、そんな声が頭上からした。


「カケル、街が見えてきたみたいよ」


「聞こえてるよ。そうみたいだな」


 天狐が俺の髪を撫でながら耳元で囁いてきたので、俺はそう答えて天狐の膝枕から体を起こした。



 馬車に揺られているだけの日中に天狐に膝枕をしてもらうのが何だか習慣化してきつつあるなぁ……


 あの包み込むような程よい弾力と人肌の温かさと何とも言えないいい匂いは癖になる。


「んー? まだ見えないですよ? マスターたちには見えるのですか? 」


 顔の前に手を翳しながら前を見ていたラビリンスが、こちらに振り返って首を傾げながら聞いてきた。


「俺の目には辛うじてだけど見えてるよ。小鴉とかならもっとはっきり見えてるんじゃないかな。まだ結構距離があるからラビリンスの目に見えるようになるのはもうしばらく先かな」


「むー……私だって結構視力良くなってるのに、マスターたちは未開地の原住民たちですか。ずっこいですよ」


 何言ってるんだろうこの子は。

 自分の目ではまだ見えないと知ってラビリンスは、眉根を寄せて頬を膨らませた。


 それくらいで拗ねるなんて、ラビリンスはホント子供みたいだな。


 仕方ない。と思って、俺は不貞腐れたラビリンスの機嫌を取るためにラビリンスに【付与術】で【遠視(ロングアイ)】を付与してあげた。


「お、おおおお!見えます! 見えますよマスター! 私にも街が見えましたっ」


 最初は突然視界が広がり、遠くを見渡せるようになったことに戸惑っていたラビリンスも見えなかった遠くの街が自分にも見えるようになって興奮したようにはしゃいでいた。


 今泣いた(カラス)がもう笑う、だな。


 子供のようにコロコロと表情を変えるラビリンスは見ていて微笑ましい。最近ではすっかり仲間たちにも慣れて精神の不安定さは落ち着いてきている。旅の間にもしっかり寝て食べていたことでやせ細っていたラビリンスの体に程よく肉がついてきている。前は皮と骨のようにしか思えなかった枯れ枝のような腕にも肉がついた。今でも折れてしまいそうな弱さはあるけど、まぁ標準的な体型になってきたと思う。亡霊かと思うような異様に白かった肌も血色が良くなったことでか健康的な白さに変わっている。


 しかし、未だにラビリンスが200歳越えというのは信じられないな。


 魔法の知識やスキルの補正に頼らない技術には目を見張るものがあるけど、見た目や精神的にも子供といった方が通じる。よく一緒に遊んでいる相手は、アッシュやローナと言った子供たちだし。


 あのダンジョンの奥の一室で長い時間を一人で過ごしていたのが影響しているのかもしれないな……


 年単位で寝ていることもあったというから精神の幼さは、その辺が関係しているのかもしれない。


 あと、ラビリンスは別のことでも少し気になっていることがあるんだけど……まぁ、これは本人が話す気になった時でいいか。気長に待とう。

 

 


「後ろの奴らにも伝えてやったらよいのではないか? 」


「じゃあ、俺が伝えにいこうかな」


 モグに預けた幼竜の様子も気になるし、様子見も兼ねて俺が行こうかな。


 モグが出発前にどうしても、と言われて、幼竜も俺に次いでモグに懐いているので後続の馬車に乗っているモグに今は預けてあるのだ。定期的にやる必要のある魔力の餌やりも俺以外でも受け付けるようだしな。結構な魔力を吸われるから仲間くらいしか出来ないけど。


 あ、着替えをそろそろみんなに渡しておこうか。


「1人で行くのか? 」


「いや、天狐と一緒に行くよ」


 自力で飛び移ったり、馬車から飛び降りた後に飛び乗ることは出来なくもないけど危ないからね。ここは、天狐の(神通力)を素直に借りることにする。


「じゃあ、早く伝えて上げましょう」



 俺は天狐の神通力で宙に浮かび上がって、レナ達が乗る後続の馬車へと飛んだ。神通力による浮遊は、見えない力に包まれているようで不思議な感覚だ。一番近い感覚としては海の中で波に流される感覚に近い。




「わぁ……! そんちょー空飛んでる! 」


 空を飛んで近づいてくる俺と天狐に気づいたリンダが目をキラキラさせて馬車から身を乗り出さんばかりに食いついた。リンダの声に他の子たちも気づいたようで、馬車の前方に子供たちが集まってきた。


 降りるスペースは開けてくれていたので、俺と天狐はそこに降り立った。


「テンコお姉ちゃん! リンダもお空飛びたい! 」


「ローナも! ローナもっ! 」


馬車に降り立ってすぐに天狐は、暇を持て余していたリンダとローナに囲まれた。


「しょうがないわね。ちょっとだけよ」


 2人の願いを受けて天狐はにっこりと微笑んで2人を神通力で浮かび上がらせていた。


「どうしたんですか? また何かあったんですか? 」


 馬車の中でまるで重力が無いかのようにふわふわと浮いているリンダとローナを尻目にレナが、俺に尋ねてくる。


 また、というのは崖に落ちた盗賊のことだったり、雷龍騎士団が打ち捨てていたモンスターの回収のことか?


「いいや、街が見えてきたからそれを伝えにね。レナ達の様子を見に来たんだ。そっちは何か困ったこととかはない? 」


「あ、そうだったんですか。もうすぐ街につくんですね。困るようなことは何も起きてないですよ。リンダとローナの相手はタマさんやオリーちゃんがよくしてくれてるので助かってるくらいです。ミカエルさんにはケティの面倒をいつも見てもらってますし、本当に感謝してます」


 そっか。

 元気にはしゃいでいるのを見る限り懸念であった子供たちの体調も良好なようだし、レナ達とミカエルたちの仲が良いのはいいことだ。


「ちょっと早いけど、子供たちの分の着替えを渡しておくね。街に着くまでに着替えといてね」


「はい。わかりました」



 俺はアイテムボックスから子供たちの分の服の着替えを出してレナへと手渡す。それと、ミカエルたちにも着替えを渡しておく。


「ミカエル、タマ、アルフ、オリー、お前たちにも渡しておくからちゃんと着替えておけよ」


「村長ありがとうございます」


「わかったにゃー」


「うむ。忘れずに着替えておく」


「オリーもリンダといっしょー? 」


「そうだな。オリーはリンダ達とお揃いだな」


「やったー! リンダとおそろー」


 リンダ達と同じ着替えを受け取ってオリーは嬉しそうにはにかむ。

 その笑顔が可愛かったので、ついその頭を撫でた。





「何でわざわざ着替えなきゃいけないんだ? 別にこのままでもいいだろ」



 オリーの頭を撫でているとレナから着替えを渡されたアッシュが疑問の声をあげた。


 

 まぁ、そう思うよな。と半ば予想していた文句に苦笑を浮かべる。


 今アッシュ達が着ているのはアラクネの布を染色した茶緑色の吸水性に優れた着心地のいい服で、着替えのはマサギという麻に似た植物を織った布を染色した渋茶色の服だ。


 マサギはこの辺りの地域では日当たりのよい場所でよく生えているような植物で、茎の繊維を加工するとそれなりに丈夫な布を作ることが出来る。栽培も簡単なのでマサギ製の布は一般に広く流通している。


 村人が普段着ているような服と言えばマサギ製らしい。



 アラクネの布や魔境のモンスター由来の服は一般に流通しているようなものではないようなので、村の子供が着ている服としては悪目立ちしてしまう可能性が高い。特にアラクネの布は性能はもちろん、独特の光沢を持っていて見栄えもいいので行商人のアサルディさんやルミネアさんを筆頭とした女騎士さん達の食いつきが強い。


 もうすぐ到着する街は数年前の内乱で治安があまり良くないようなので、悪目立ちは避けた方がいいだろう。特に十分に抗う力を持たない子供たちが狙われるのは避けたい。



 クロイスさんやオスカーさんにも意見を聞いてみたけど、着替えることには肯定的な答えが返ってきた。


 ミカエルたちにも着替えてもらうのは似たような理由だ。避けられる面倒事は極力避けたい。

 ただ、ミカエルたちの容姿や立ち振る舞いは村人に見えないというオスカーさんの意見を取り入れて冒険者や傭兵のように見える恰好に着替えてもらうことになっている。


 まぁ、どちらも村人風、冒険者風なんだけどね。

 使われているメイン素材こそ、一般に広く流通しているものにしたけど、染色に使った染色液はオリー(世界樹)の葉を煮詰めたものや龍源(ドラゴン)の血を使ったものだったりする上に、頑冶の手で様々な効果を齎す魔法陣を織り込まれているので見た目よりも数ランク上のスペックを秘めている。


 アッシュが文句を言っている渋茶色のマサギの服も、手間のかかりようはただ染めただけのアラクネの服と比べようもないくらい手間がかかっている。


 いくら目立たないためだからと言って、子供や仲間の安全面を下げる気はない。

 

 これでアッシュたちが普段から肌身離さず持っている遺具(レリック)の能力も加味すれば、早々にアッシュたちが直接害されるようなことは起きないと思う。



「どうせなら俺もコクシ姉ちゃんやアルフ姉ちゃんみたいに防具とかつけたい! 」


「アッシュ、文句言わないの! 」


「そうだぞ。すでに村長が決めたことだ。今回は我慢しろアッシュ。その代わり、村に戻ったら村長にお前の防具を作って貰えばいいだろ」


「えっいいのか!? 」


「ああ、そろそろ実践も考えている。ちょうどいい。――というわけで、村に戻ったらアッシュの防具を作ってはくれないか? 」


 アッシュはレナやアルフから窘められて、何故か村に戻ったら俺がアッシュの防具を作ることで落ち着いた。


「えっ、ああ、うん。戻ってからでいいのならアッシュの防具、俺が作るよ」


 アッシュの指導をしているアルフがそう言うのであれば、俺に否はない。アッシュが目をキラキラさせてこちらを見てきているのでそれに若干押されながらも俺は頷いた。


 ちゃんとした自分の防具が持てるのが嬉しいのか、アッシュは両手を握りしめて何だか喜んでいた。そして、それ以上文句を言うことなく服を着替え始めていた。


 着替えの最中に見えたアッシュの上半身は、痩せ衰えて死にかけだった二か月前とは比べ物にならないくらいに活力に満ちた鍛え抜かれた体つきをしていた。


 たった二か月という短期間で変わるもんだなぁ。

 アルフと黒士に毎日限界を超えて苛め抜かれているだからかもしれない。アルフがアッシュに魔法で治療しているからか、今まで全く伸びる気配を見せていなかったアルフの各属性魔法スキルが少しずつではあるが確実に伸びてきているからな。




「……」 


「あ、黒士にはこれね」


「……外套? 」


「うん、気に入ってくれた? 」


「……うん。ありがと村長」


 リビングアーマーである黒士は鎧が本体なので、着替えるとなると別のデザイン、材質の鎧に意識を移し替えることになる。全身金属鎧となるとどの道目立つので黒士は、他の仲間と違って今回は鎧を着替えたりはしない。だけど鎧の上から外套を羽織るくらいなら出来るので、黒士には鎧の色に合わせた黒塗りのブランデーシープの外套(マント)を渡した。



 影郎は……まぁ、いつも通り影の中にいるからいいとしてエヴァには渡しておいた方がいいかもしれない。けど、影郎によると今はレオンの影の中でぐっすり寝ているみたいだからなぁ……


 影郎に渡しておいて、エヴァが起きたら渡しておいてもらうおうかな。




「カケル、そろそろモグ達にも伝えにいきましょう」


「ああ、そうだな。それじゃあ、あと2、3時間したら街に着くと思うからみんな着替えを済ませて大人しく待っているように」


「「「はーい! 」」」


 うん、いい返事だ。



 子供たちの元気のいい返事を背中に受けながら俺と天狐は、すぐ後ろの馬車へと飛び立った。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 3台目の馬車には、今日はセレナ、モグ、操紫、ムイ、ジャンヌ、月影の6人が乗っていて、赤兎馬が馬車を引いてくれていた。


 赤兎馬は、龍と馬を掛け合わせたような姿で金色の鬣と立派な双角を持ち、全身を赤銅色の鱗で覆われている。赤兎馬が戦闘態勢に入ったり、本気で走ると赤銅色の鱗は金色に変わり、青白い電気を帯電させるのだけど、今は周りとペースを合わせているのでそんな兆候は一切出ていない。


 今思えば、ルミネアさんが髪をバチバチさせていた時って戦闘態勢に入っていたってことか。いつから青白い電気を帯電させてたっけ……?


 そんなことを考えていると俺は馬車に降ろされる。


「あら、村長。どうしたんですか? 」


 降りてすぐにセレナが頬に手を当てておっとりとした口調で尋ねてきた。


「街が見えてきたらその連絡。ちょっと早いけど着替えを渡しにきたよ。それと、モグに預けた幼竜の様子を見に来たんだよ。どう、幼竜の様子は? 」


「予定より早いんですねぇ。わざわざありがとうございます村長。忘れずに着替えておくわ。幼竜は元気よー。私やモグの魔力をおいしそうに食べてくれているわ」


 セレナは、自分の着替えを受け取りながら教えてくれた。

 幼竜が(魔力)を強請る頻度は日毎に増してきている。一度に吸収する量も少しずつ増えてきている。その分、体の成長は著しい。起きている時はよく馬車の中を歩き回るようになったし、体重も順調に増えている。



「あ、そんちょー。っと、あっ! 」


 モグの腕の中で甘えるようにごろごろと体を擦りつけていた幼竜はモグの声で俺の存在に気づいたようで、モグの腕の中でするりと抜け出してこちらに向かってこようとして慌ててモグに抱き直されていた。


 それでも幼竜は俺へと向かおうともがくので、モグから幼竜を受け取る。


「キュルルゥ」


 俺の腕に抱かれた幼竜は細長い首を動かして、俺の右手の指にかぷかぷと甘噛みして(魔力)を催促してくる。よく食べるなぁと思いながら指先に魔力を流してやると、指に吸い付いておいしそうにちゅうちゅうと魔力を嚥下していた。


「やっぱり、そんちょーの魔力が一番なのかなぁ……」


 モグは少し悔しそうに唇を尖らせながら幼竜の背を愛おしそうに撫でる。幼竜が俺の次にモグに懐いているようにモグもまた幼竜のことが気に入っているんだなと微笑ましい気持ちになる。


「モグ、幼竜のお世話ありがとな。街が見えてきたから幼竜の世話は代わるよ。あと、これ。着替えだ。街に着くまでに着替えといてくれ」


「うん、わかった! でも、私もついてくよ。私も一緒に幼竜の面倒見る! 天狐、私も前の馬車に運んでくれる? 」


「ええ、いいわよ」


 モグのお願いを天狐は二つ返事で引き受けた。モグがそう言うならいいか。幼竜もモグが近くにいた方が落ち着くだろうし。



 そうして話がまとまった後、残りのジャンヌ、ムイ、操紫にも着替えを渡す。ジャンヌには自前の軽鎧を脱いでもらって代わりに用意した白銀のミスリルの胸当てをした軽槍士といった恰好になってもらい、操紫は燕尾服の代わりに裾の長い黒の長衣にローブを着てもらって魔術師然とした恰好になってもらった。ムイの容姿は子供なので子供たちと同じ格好をしてもらった。街中ではあまり人前でスライムの姿を取らないようにムイには言い聞かせておいた。それに対してムイは、「わかった」とだけ短く返した。


 うーん、実を言うと今回のメンバーの中でムイが一番心配なのだけど、率先して言いつけを破るようなことではないのでムイを信じたい。


 ドッペルゲンガーである月影には、オスカーさんから聞いたごく一般的な剣士の恰好をさせて村の男性の一人に化けてもらうことになった。ムイと同じで、誰かに化ける時には人目につかないように言い聞かせた。月影は、化ける相手に合わせて性格をコロコロ変えるので読めないところがある奴だけど、今回化けている男性の性格に問題はないので、月影がわざと外さなければ大丈夫だろう。



 馬車の牽引をしている赤兎馬の分も渡して、俺と天狐、そしてモグの3人は、元いた前の馬車へと戻って街に備えて自分の着替えを行った。



 なお、着替えの際は馬車のギミックの一つである仕切り板を真ん中に立てかけて男女別で着替えた。


次回、やっと街に着きます。



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