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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
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7 「村長と村娘」

 レナが悲鳴を上げて、数分もしない内に悲鳴を聞いたカケルが駆けつけてきた。

 入口の前でオロオロとしているゴブ筋を退室させたカケルは、部屋の隅で怯えているレナをベッドに座らせて鎮静薬を飲ませた。



「……どう? 少しは落ち着いた? 」


「はい……」


「さっきは驚かせてしまってごめんね」


「い、いえっ、私こそ取り乱してしまってすみません。ですが……あのモンスターは一体、何なのですか? それに貴方は……」


「あ、まだ名前を言ってなかったね。俺の名前は藤沢(フジサワ)(カケル)。ゴブ筋……さっきのモンスターは、俺の仲間だよ」


「仲間……? モンスターが、ですか? 」


「調教師、魔物使い、魔獣使い、テイムマスターっていったら分かるかな? 」


「カケル様はテイムマスターなのですか? 」


「まぁ、そんなところかな。君の……あー……名前を教えてもらってもいいかな? 」


「……レナです」


「レナさんか。レナさんの知っているテイムマスターとは、ちょっと違うかもしれないけどね」


「レナ、でいいです」


「あー、うん。わかった。あ、俺も別に下の名前で呼ぶのはいいけど、様付けは止めてね。そんな大層な人間でもないから」


「わかりました。カケルさ……んが、私を助けてくれたのですか? ここはどこですか? 村はどうなったのですか? 村のみんなは? 子供達は? 盗賊はどうなったのですか? 」


 思考の回り始めた彼女の中では無数の疑問が浮かんでいたようで、一度疑問を口にすると、留めなく溢れだした。


「……」


 レナの質問にカケルはすぐに答えることができなかった。彼女にとって辛い答えを伝える決断ができず、カケルは顔を俯かせた。


 レナは、真実を伝えるべきか揺れるカケルに手を伸ばして袖を握った。驚いて顔をあげたカケルとレナの目が合った。


「カケルさん、お願いします。答えて下さい……お願いします……」


 カケルの袖を握り締めるレナの手は震えていた。それでも強く、カケルの袖を握り締めていた。


「レナにとって……辛い答えだったとしても、聞きたい? 」


「お願いします」


「……わかった。順を追って話すから最後まで聞いてくれるかな? 」


「はい」


 カケルの袖から手を離したレナは、眦に滲んだ涙を拭って頷いた。

 

 カケルは、ベッドの傍に木椅子を引き寄せて座った。震えだす右手をレナに見えないように左手で隠し、出来るだけ感情的にならないよう意識しながらレナに事の顛末を語った。


 カケルが、以前仲間のモンスターと村を作って暮らしていたこと

 突然、仲間ごとこの近くに飛ばされてしまったこと

 そして、三日前にこの村に辿り着いた時には既に盗賊はおらず、何十人もの村人の死体があったこと

 村を出た盗賊は軍狼に襲われ、攫われた村人含めて全滅していたこと

 その少し後に、レナ達を見つけ救出したこと

 レナと一緒にいた子供達は一命を取り留めていること

 他の地下室に隠れていた村人も発見したが、自害していたこと


 発見した村人の遺体は、全員一か所に安置していること



 カケルは、全てを包み隠さず語った。カケルが話をする間、レナは涙ひとつ流さず黙って聞いていた。カケルが全てを話し終えると、レナは一筋の涙を流した。


「そう、ですか……」


 喉から絞り出したようなか細い声だった。

 事の顛末を全て知ったレナの胸中がその一言に凝縮されていた。



「話してくれてありがとうございました。少し……一人にしてください」


 布団に顔を埋め、カケルに顔を見られないようにしながら言ったレナの願いにカケルは「わかった」と短く答えて席を立って部屋を出た。



 カケルの足音が部屋から遠ざかって聞こえなくなると、それからまもなくレナのいる部屋から嗚咽を堪えたすすり泣く声がした。




◆◇◆◇◆◇◆




 部屋を後にした俺は、そのまま家を出た。


「おっ、村長」「村長! 」「やっとでてきた! 」「おそーい! 」


 家の前には、何故か仲間たちが集まっていた。


「で、どうだった? 」「ゴブ筋の顔を見て、悲鳴を上げたんだって? 」「怖がってなかった? 」「あいつ、いつもしかめっ面してるからなー」


 どうやら、レナが目を覚ましたことを聞きつけて集まってきたようだった。ほとんどが作業そっちのけで来ている者もいた。


 それほど仲間たちは、子供たちのことを気にかけているみたいだ。



 わいわいと騒ぐ仲間たちを見ていると、少し気持ちが楽になった気がした。



「村長、彼女にはどのような説明をしたのですか? 」


「まさか全部話したりなんてしてないわよねぇ? 」


「村のことを聞かれたから全部話してきた。彼女も気持ちの整理がすぐにつかないと思うから今はそっとしておいてあげてくれ」


 ミカエルと妖鈴から聞かれ、俺は素直に答えた。2人の反応はあまり芳しいものではなかった。


「えっと……村長、それは大丈夫なんですか? 」


「ちょっとぉ、それは今、話しても大丈夫だったのぉ? 人は脆いわよぉ。自棄になって自殺なんてするんじゃないのぉ? 」


 2人は、レナに全てを話したことに不満があるようで非難めいた視線を向けられた。


「鎮静薬を飲ませた上で話をした。自殺……なんてことはしないはずだよ。それに、遅かれ早かれこのことは数日中に話さないといけなかったんだ。彼女が望んだ以上、話さないわけにもいかなかった」


 操紫の手で生前に近い状態にしてもらったとしても死後数日が経っている。操紫からは4日が限界と言われていた。

 あれから2日が経過している。残された時間はあと2日しかない。


 目を覚ました子供たちには、そのことを含めて村の顛末を話さないといけなかった。



 とはいえ、最初から全部話そうとは思っていなかった。様子を見ながら少しずつ話すつもりでいた。


 彼女を騙す覚悟が俺には、足りなかっただろうなぁ……。



 でも、話したことが間違った判断だとは思ってない。


 鎮静薬は、情緒が不安定になっているだろう子供たちの精神を落ち着かせるためにオリーに頼って調合を手伝ってもらった。


 過度の感情を抑制する働きがあって効果は2日間以上続く。副作用もない。

 

 それを事前に飲ませていたから、話しても大丈夫だと思った。


 何より、彼女は既に覚悟が出来ているように感じた。親しい人の死に対して



 話している最中、彼女は何度か顔を歪めることがあった。それでも彼女は涙を見せまいと気丈に振る舞っていた。


 そんな彼女なら、ミカエルや妖鈴の心配は杞憂だと思う。


 

 ただ、妖鈴が言うような万が一の事態になった時の備えをする必要はあるか……



「そうだな。影朗はいるか? 」


 俺が名を呼ぶと、集まっていた仲間の影からボロボロのローブに身を隠した影郎が浮かんでくる。


「……どうした」


「しばらく少女の影に身を潜めて様子を見ていてもらえるか? 自傷行為や自殺をしそうになった時は防いでほしい」


 俺の頼みに、影朗は一度頷いて肯定の意思を伝えた。

 影朗の姿が目の前から消えた。おそらく誰かの影に潜ったのだろう。



「よし、それじゃあみんな。作業を再開してくれ。俺に報告がある人は、とりあえずここに残ってて。あ、それと他の子供たちもこれから目を覚ましていくと思う。子供から悲鳴を上げられる自覚がある人は子供たちの部屋には出来るだけ近づくなよー! 」


 俺が手を叩きながらそういうと、みんなは自分のやることを思い出したように持ち場に戻っていった。作業に戻っていく際には、お互いに顔を見て確認し合っている姿が見られた。


 あの様子なら子供の様子を見に行くのは自重してくれるだろう。

 ゴブ筋のようなことが起こらないように注意を促すことができたようだ。



 ほっとしていると、戻っていく仲間たちの中にゴブ筋を見つけた。心なしかゴブ筋は、いつもの元気がないように見えた。



「あ、ゴブ筋。ちょっと待って」


 思わず、ゴブ筋を呼び止めた。こちらに振り向いたゴブ筋は、浮かない表情をしていた。


「さっきは悪かったな。あれは、俺が事前に注意しておくべきだった。ごめん。お前に非があるわけじゃない。余り気に病まないでくれ」


 ゴブ筋が生き残った子供たちの様子を時折見に行っているのは知っていた。なのに、まさかこうなろうとは思ってなかった。


 俺に取ったら6年近く共にした仲間で、姿を見慣れているだけに、初対面の人がどんな反応するのか思い至らなかった。


 俺が気づいて注意しておくべきだったと反省していた。



「……わかった。彼女には今度、謝りに行く」


「その時は俺も一緒に謝りに行くよ」


 ゴブ筋は、見た目はちょっと怖いが、心優しい性格をしている。彼女なら、そのことに気づいてくれると俺は信じてる。

レナ

種族:???(人間?)


カケルが最初に訪れた村の生き残りの少女。

生き残りの6人の中で一番年上。



14/10/01 19/02/24

改稿しました。

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