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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
8/114

6 「対面と村娘の悲鳴」


 闇が満ちた地下室。

 そこに6人の幼い少年少女が冷たい地面に倒れていた。


 その中で最も年上であったレナは、朦朧とする意識の中、漠然と自分の死を感じていた。


(ああ、わたし……死ぬんだな)


 衰弱しきったレナの体は、指を動かすことすら億劫で目を開ける気力さえなくなっていた。


 村を襲ってきた賊から身を隠すためにレナたちは、地下室に逃げ込んだ。

 自分の手すら見えない暗い地下室で身を寄せ合いながら、いつ賊に見つかるかもわからない不安と恐怖に震えた。

 そのせいで体と精神を蝕んでいく瘴気に気づかず、体の異変に気付いた時には起き上がることすら困難なほどに症状は進行していた。


 起き上がれなくなったレナたちは、幼い子供から順に眠るように意識を失っていった。浅い呼吸はしていたが、何度呼びかけてもそうなった子が再び意識を取り戻すことはなかった。


 

 一人、また一人と日が経つごとに起きなくなる子が増えていく中、一番年上のレナだけは他の子供よりも瘴気に耐性を持っていたがために5日経った今も辛うじて意識を保っていた。



 賊に襲われた村が今どうなっているのかは、地下室から出られないレナには分からない。 



 しかし、いつか村の誰かが、両親が、助けてくれると信じて、レナは意識を繋ぎとめていた。



 だが、それも最早限界が来ていた。


 レナは、自分の意識がどんどんと遠のいていくのを感じる。

 眠気とは違う深い闇に引き込まれていく感覚にレナは、次は自分の番か……と悟る。


 このまま意識を失えば、自分たちは目覚めぬまま遠からず死ぬのだろうとわかっていても、レナはもう何も感じなかった。



 ずっと助けを待っていた。


 しかし、助けはいつまでも来なかった。


 何日も自宅の地下室で待った。それなのに助けがいつまでも現れないのは、そういうことなのだろうとレナは、理解してしまった。


 しかし、それももういいのだ。これで両親やみんなの元に行けるのだから。


 レナは、自分の意識が深い深い底の見えない闇へと沈んでいくことに恐怖は感じず、その身を委ねた。



(ごめんなさいお母さん……わたし、約束守れなかったよ……)



 心の中で母に謝罪しながらレナの意識は、完全に闇に沈んだ。




 それから数時間後、地下室に妖艶な声が響いた。


「あらぁ? ここかしらぁ」




◆◇◆◇◆◇◆




 2日後、レナは再び意識を取り戻した(・・・・・)


「あれ……? 」


 目覚めたレナは、ずっと感じていた倦怠感や憂鬱感といった鬱屈したものが綺麗さっぱり体から消えていたことに気づいた。


 それに背中から伝わる感覚が冷たく硬い地面ではなく、柔らかく体を包み込む未知(ベッド)の感覚に変わっていた。


「……体が軽い」


 ゆっくりと起き上がったレナは、体が動くことに驚く。


 上半身だけ体を起こしたレナは、体を捻って自分の体を確認する。

 泥や垢で汚れていた体は清潔になっていた。服も着心地のいい純白の服に変わっていた。髪も心なしかサラサラとしているように感じる。


 もし、賊に見つかったというのならこの待遇はありえない。


「助かった……? 」

 

 暗く寒い地下室ではなく、日の光が差し込むポカポカと暖かい木造の部屋にいることで、レナは自身が助かったことを実感する。


 ここに運んでくれたのは誰なのかと思って、周囲を見回す。しかし、自分が寝ているベッドと一脚だけの木椅子しか置いていない質素な部屋には、自分以外に誰もいなかった。



(今はいないのかな……? )


 木椅子がベッドの傍にあることから、今は席を外しているのだろうとレナは考えた。



 ここがどこだかは分からない。だが、その人が戻ってくるまではここで待とう。


 そうレナは思い、再びベッドに身を沈めた。



「あっ!! 」


 しかし、あることに気づいたレナは、すぐに跳ね起きた。


(一緒にいたケティ達はどうなったの? )


 自分と一緒に地下室に逃げこんだ子供たちがいない。軽いパニックに陥ったレナは、部屋の中を見回すが、当然子供たちの姿はそこにはない。


 思い出したレナは、子供たちの安否が気にかかり不安になる。

 特に最初に意識を失った一番幼かったケティの安否がレナは気になった。



(もしかして……わたしだけが? )


 最悪の未来を想像してしまったレナは、顔から血の気が引いていくのを感じた。


 今すぐにも事実を確認したい衝動にレナは駆られる。とてもではないが、いつ戻ってくるかもわからない人を待つことは、今のレナにはできなかった。


「ケティ……探さなきゃ」


 ベッドから出たレナは、すぐに部屋のドアに向った。

 しかし、レナがドアノブを掴もうとしてところで、ドアが勝手に開いた。


 驚いて後退ったレナは、不安と恐怖で身を強張らせながら入ってきた人物を見上げた。



 入ってきたのは、頭から角を生やした2メートルを優に超える緑の異形の化物だった。


「あ……」


 驚きのあまり、レナは口を半開きにして思考を停止した。


「ん……? 目覚めたのか」


 異形の化物ことゴブ筋は、寝ていたはずのレナが目の前にいることに少々面喰いつつも、流暢な人間の言葉で喋った。




 部屋からレナの悲鳴が上がった。


18/05/03


改稿しました。

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