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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
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76 「村長、徹夜の特訓」



 旅の初日の夜は、ラビリンスの指導の下で魔力操作の実践を行った。

 ルデリックさんと酒を少し飲んだけど、問題はない。


 最初は、魔力の流れを見るところから始まった。これは、ラビリンスにコツを教えてもらえると割とあっさりと集中しなくても体に流れるオドの流れやマナの流れを見ることができるようになった。日頃の特訓の成果だと思いたい。


 魔力の流れが見えるようになったら、次は体内魔力であるオドの操作と放出を教えてくれることになった。


「マスター、私がマスターのオドに干渉して動かすからよく見ててくださいね! 」


 そう言ってラビリンスが俺の手をとって得意げにしていたのだけど、ラビリンスは一向に俺の体内魔力を動かすことができなかった。


「あ、あれ? おかしいな? 本で読んだ通りなら行けるはずなのに……」


 ラビリンスが「えいっ! えいっ! 」と可愛いかけ声で気合いを入れるけど、上手くいかなかった。


 その原因は、俺にあった。

 俺が、というよりは所持しているスキルの補正が影響なのだろうけど、どうもラビリンスの干渉に対して自動で抵抗しているようだった。ラビリンスが読んだ本に書かれていたのは、魔法をこれから習う者に対する教え方だった。魔法使いでもない無防備な相手の体内魔力に干渉するのは簡単だろうけど、スキルに頼り切りとは言え仮にも魔法を極めている俺の体内魔力に干渉するのは難しかったようだ。


「こんなに完璧に私の干渉をショットアウトしてるのに、魔力操作が満足に出来ないなんてやっぱりマスターはずっこいですよ!! 」


 お陰でラビリンス先生はプンプンと頬を膨らませてご機嫌斜めになった。

 不貞腐れたラビリンスをなんとか宥めて、別の方法を教えてもらった。


 元々ラビリンスは、1人で本を読みながら魔法の練習をしていたので、1人でもできる方法を知っていた。


「……折角だからマスターにいいところ見せようと思ったのに」


 そう言って、不満そうな顔をするラビリンスの頭をポンポンと撫でた。



 そんなこんなで、ラビリンスの指示通りに練習をしていると、オドを操作して体外に放出できるようになった。


 出来るようになると何かコツが掴めて、ラビリンスが驚くくらいの早さで魔力操作が上達して、目標としていた水準を超えた。


「マスターの意思では出来てなかったけど、以前から魔法を使っていたから体が覚えてるのかな。このレベルなら次の段階に入ってもいいかな……? 」


「本当? それなら次を教えてくれないかな?」


「……わかりました。マスターの頼みは断れないのですよ」


 調子が出てきたので、ラビリンスに頼んで次の段階に進んでもらった。



 次の練習は、【光魔法】の最下級呪文である【光よ(ライト)】を使った魔力操作だった。



 【光よ(ライト)】は最下級呪文だけあってとても初歩的な魔法式で構成されている。


 魔法式とは、ラビリンス曰く魔法文字を連ねてオドに指向性を持たせるもので、この魔法式を連ねてより複雑にしたものが魔法陣と呼ばれる。毎回、使うたびに魔法を1から構築するのは演算処理が膨大過ぎる為、一部を魔法式という形に定型化して、魔法を構築する際に利用することで演算処理を軽くしているのだそうだ。


 そして、【光よ(ライト)】や【水よ(アクア)】といった最下級呪文で使われている魔法式は、その魔法の起動式とも呼ばれるくらいその魔法体系の呪文の多くの魔法陣の中に組み込まれている。

 

 実は、この辺の魔法式や魔法文字の知識に関しては、【創造魔法】でオリジナルの呪文を作成する時や剣などに【付与術】で魔法式を刻む時に必要とした知識に通じてるものだったので理解はしやすかった。


 

 そんな簡単な魔法式で構成された【光よ(ライト)】は、他の呪文よりも弄りやすいという特徴があった。

 魔法式は魔力に指向性を持たせるのでその魔法式が重なりあって複雑な魔法陣になったものほど状況に左右されずより正確で安定した効果を発揮する。逆に起動式と呼ばれる魔法式のようにごく簡単な魔法式だと術者の意思といった干渉を受けやすい傾向があった。


 要するに、前者は型に嵌った魔法式を多用するので安定した魔法を構築できるが、その分遊びが少なく型通りの結果しか出せない。後者は起動式しか使われていないので、その分遊びが多く状況に合わせた変化を結果に出すことができる。



 自分と光の球を繋ぐ魔力経路(パス)を通して、俺の意思で光量の強弱や動かすことができたのはこの特徴のお陰だった。



「まずは最初に光の色を赤、青、黄色……といった感じに色々な色に変えてください。慣れてきたら数を増やして同じことをやってくださいね」


 ラビリンスに指示通り俺は、まず初めに光の球の色を変えることから始めた。

 赤や青、黄色といった色に変えていく作業は要するに自分のイメージなので、一度できるようになると後は簡単だった。


 しかし、それを2つ3つと光の球の数を増やして色を変えていくのは難しかったし、同時に2つの球を別の色に変えていくのはもっと難しかった。


「やっぱりマスターは上達が早いですね……。少し難易度が上がりますが次にいきますか? 」


「ああ、頼む」


 今度は、光の球の形を変えるよう指示された。

 これがまた難しい。パスを通して魔力を注ぐことでぐにょりと球形を歪めることは簡単にできるのだけど形が定まらない。魔力を注ぎ過ぎると許容量をオーバーして光の球は霧散してしまう。色を変える時よりも正確なイメージと適度な魔力を放出する細やかな魔力操作が要求された。


「マスター、イメージを固めて、その形になるように魔力を注ぐのです」


 空をふわふわと浮かぶ光るもの、というイメージからホタルが浮かび、虫という共通点から蝶が頭に浮かんだ。


 蝶なら分かりやすい左右対称な形をしているからはっきりと覚えている。イメージを固めるためにメモ帳を開いて、蝶の絵を描いた。その絵を目の前に表示したままそれを見ながら光の球に魔力を注いで形を変えた。



 そして、出来たのが蝶の形をした光の塊だった。


「おおー流石ですマスター! すごいすごい! 」


 目の前を羽を広げて飛ぶ蝶を見てラビリンスが、パチパチと両手を叩いて称賛してくれる。


「マスターこの調子です! この蝶を維持したまま新しい蝶を作っていってください。どんどん数を作ってバラバラに動かしてください。可能ならば色を時々変えてみてください」


 ラビリンスに言われるままに俺は、光の球を生み出してはそれを蝶の形に変えて周囲に飛ばした。時々色を変えてみろと言われたけど、色を変える際に油断していると蝶の形が崩れてしまうので簡単ではなかった。周囲に蝶を飛ばす際も気を付けなければ一定の方向に揃って飛んだり、1ヶ所に集中したりしてしまうので神経を使った。


 どんどん自分が上達していくのが肌で感じることが出来て俺は、その練習に夢中だった。


 途中でラビリンスの眠気が限界を迎えてしまったが、ラビリンスをテントまで送り届けた後は1人で練習を続けた。


 

 しばらく1人で四苦八苦しながら続けていると、遠くに飛ばしていた蝶を追いかけて風呂上がりのレナ達が顔を出してきた。折角なのでレナ達にいくつかリクエストを出してもらった。

 メモ帳にイラストを描くことでイメージを固めれるようになってきてたので、レナ達のリクエストには何とか応えることが出来た。



 それからレナ達が戻っていった後も俺は、練習を続けた。


 そして、気づけば朝を迎えて東の空が白み始めていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ええっ!? マスター、徹夜であれをしてたんですか!? 」


「ああ、つい没頭してしまってな。気付いたら朝になってた」


 お陰で、魔力操作は随分上達したと自負している。最後の方では、蝶の羽を動かしてあたかも本当に生きているかのような挙動をさせることができるようになった。その場合だと、まだ5匹くらいまでしか精密な操作が出来ないけど、たった1日で大きく躍進できていると思う。


 本当に俺の1カ月のあの鍛錬はなんだったんだろうな……。まぁ、過ぎたことを考えても仕方ないか。


「むむむ、本当にたった一晩で上達してます。私が、このレベルに至るまでに何年もかかったのに……」


 ラビリンスは、目の前でパタパタと羽を動かしてふわふわと宙を舞っている蝶を睨むように見つめる。その蝶を模した光の塊は、七色の光がグラデーションのようになって輝いていた。

 俺は、色の切り替えを行っていた時に無作為に色を変えていくよりも幾つかの色を一つのパターンにしてローテンションする方が楽であることに気付いた。そこから一歩踏み込んで、水面に絵の具を落としたように一点から広がるように色が変わっていくようにイメージして、それを短時間に新しい色で上書きしていくことで波紋のようなグラデーションを生み出していた。


「発想もそうですけど、やっぱりマスターの魔法使いとしての腕は一流です。いくら干渉しやすいと言っても一度発動している魔法をここまで作り変えてしまえるのは、普通じゃないです。例えスキルに頼りきりだったとしても地力が高すぎるのですよ……」 


「え、そうなのか? 」


「そもそもですよ。――【光よ(ライト)】 

 この球形をこんな風に楕円形や多角形に変形することはできても、蝶なんていう複雑な形には普通できないし、ましてや羽を動かすなんて挙動は無理です。色だって単色の切り替えはできてもマスターのように一度に何色もの色をグラデーションのようにして光らせるなんて芸当は不可能なのです。仮に可能だとしてもその演算処理は、とてつもないですよ。それ用に魔法式を組んで新たに呪文(スペル)を作った方が簡単です」


 なんでそれを五つも並列処理していて平気なのですか?


 と、ラビリンスに呆れたような尊敬した目で見つめられた。


「あー……そこのところは俺もよく分からないけど、色々なスキルの補正が関係してるんだと思う」


 多分。身体能力のスペックがおかしいのだから、その手のことで人並み外れてても今更驚かない。


 というか新しい呪文の創造と言えば、【創造魔法(クリエイトマジック)】を思い出す。


「ちょっと試しにやってみるか」


「え? 」


 試しに呪文の作成画面を開いて、この蝶型の【光よ(ライト)】を設定して登録してみた。呪文の作成自体は、こちらに来てから何度かしていたのでその作業はスムーズに進んだ。


「うし、こんな感じかな。

 ――七色の光よ 羽ばたけ 【創造魔法(クリエイトマジック)羽ばたけ光よ(ライトフラップ)】」


 完成した呪文を詠唱すると、蝶の形を模した七色に光る光の塊が生まれた。その蝶は、パタパタとまるで生きているかのように自然と羽を羽ばたかせて俺の意思で周囲を飛ぶ。


 うん、こっちの方がずっと意識しなくていい分楽だな。ただ、その分魔法式は増えたし、MPの消費も十倍くらいに跳ね上がったな。まぁ、元の【光よ(ライト)】の消費が少なすぎるからどの道大した量でもない。


「な、なななななっ……! 」


 ふと気づくと、目の前のラビリンスが口をパクパクとさせてプルプルと震えていた。


「どうした? 」


「どうした、じゃないですよマスター! 今の何ですか!? 明らかに今、呪文(スペル)を唱えましたよね! どういうことですか。ねぇ、どういうことですか!? 」


 再起動したラビリンスは、すごい剣幕で俺に詰め寄ってきた。あまりの勢いに俺は一歩後ろに下がる。


「ど、どうどう。ラビリンス、少し落ち着こうか」


「これが落ち着いていられますか! 今、新しい呪文を作りましたよね! それも目の前で作りましたよね! あれですか? またスキルでしょう。そうですよね。そうでしょうね! あのダンジョンの作成画面と似たようなものですよね! やっぱりマスターずっこいですよ! それに魔力操作出来ないって言ってましたけど、マスターの場合、オートマ車ならいけるけどマニュアル車が出来ないってだけでやり方さえ教えたらあっさり覚えちゃってるじゃないですかー! 」


 呪文を作ったのが余程ラビリンスの琴線に触れたのか、うがーっと吠えたラビリンスはポスポスと俺のお腹を叩いた。


「ずっこいです! ずっこいです! マスターもスキルもずっこすぎるのですー! 」


 野営地を出発するまでの時間を俺はラビリンスの怒りを鎮めるのに費やすのだった。



羽ばたけ光よ(ライトフラップ)

【創造魔法】で作り出された呪文。

光よ(ライト)】を元にして、蝶を模した七色に光る光の塊を生み出す。

 生み出された蝶は、羽を動かしながら宙を舞う。別に羽を動かすことで飛んでいるというわけではなく、浮かんでいる原理は【光よ(ライト)】と全く変わらない。


 そのままカケルが行っていたものを登録したので無駄が多く、元の呪文と比べて十倍近くMP消費が跳ね上がっている。しかし、元の呪文の消費MPが1であるので、大した消費でもない。

 しかし、【火球(ファイヤーボール)】一発分よりも魔力消費が大きいことを考えれば、やはりコストは重いと言える。



 

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