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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
76/114

74 「村長たちの初めての野営」



 昼寝をしている間に俺たちは本日の野営地となる場所に到着した。背の低い草が茂る広場は何度も使用されているからか、焚火や天幕を張った痕跡をその広場から散見することが出来た。


「それでは、各隊員はそれぞれの隊長の指揮の元、速やかに作業を行いなさい! 」


 騎士団の人達は、副団長のクロイスさんを筆頭とした隊長格の騎士の指示の元、馬車と馬を移動させて手馴れた様子で天幕の設営を始めていた。



 それに合わせて俺たちも自分たちのスペースで野営の準備を始めた。

 クロイスさんから俺たちの分の天幕と食事を用意してくれると言ってくれたけれど、生産班の頑冶とエレナが持参してきた天幕をノリノリで組み立て始めているし、食事の方もポチや小鴉達が獲物を探しに行ってしまった後なので謹んで辞退させてもらった。


 あ、だけど堅パンは人数分わけてもらった。


 今のところ俺のアイテムボックスのことは騎士団の人達には積極的に明かさない方針なので、今回の旅では、馬車に積んだ荷物以外は基本的に現地調達になる。

 いざという時はエルフの里でアリシエルさんから報酬としてもらった魔法鞄(マジックバッグ)から出したということで誤魔化そうと思っている。その為に、一部のポーションや食糧など非常品や日用品を魔法鞄にいくらか移してあった。



「村長、手が足りん。少し手伝ってくれ」


「おう、わかった」


 頑冶の指示で、俺は組み立て中の天幕の端を掴んで引っ張った。


「助かるわい」


 頑冶は、そう言って天幕の端を杭で順に地面に固定していった。別の場所ではエレナがミカエルやジャンヌの手を借りながら同じことをやっていた。


 天幕は、騎士団の人達のを参考に作ったのでほとんど姿形は同じのものだが、使用した素材が違うのであっちが象牙色に対してこっちは小麦色だった。


 天幕を張り終えた後は、モグに天幕の中の地面を平らにしてもらって撥水性を高くしたアラクネの布を下に敷き、その上にブランデーシープの毛糸を使ったもこもこの絨毯を敷いた。


 手で触ってみるとふわふわだった。


「わー! ふわふわー! 」


「ふわふわー! 」


 天幕ができていく様子を興味津々で見ていたリンダとローナが完成したと見るや天幕の中に突入しようと走ってきた。


「こらっ、靴を履いたまま入っちゃダメだぞ」


「靴を脱いだら入っても、いい」


「「はーい」」


 水際でゴブ筋と俺が2人を確保することに成功して靴を脱がさせた。脇の下から持ち上げられた2人は、ジタバタと足をばたつかせつつきゃっきゃっと笑って楽しそうだった。ゴブ筋に抱き上げられたリンダは、ゴブ筋に「もっともっと! 」と高い高いをせがんでいた。子供達の中で一番早く仲間に慣れたリンダは本当に逞しい。


 靴を脱いで解放された2人はたーっと天幕の中へと入っていき、もこもこの絨毯の上で転がったり駆けまわったりと楽しそうにはしゃぎ回っていた。



 そうこうしていると、狩りに出たポチと小鴉が戻ってきた。


「村長、ただいま戻りました」


「わふっ」


 小鴉は人の姿のまま足を鳥足に変えて立派な角を生やした白い毛並みの巨大な鹿をその足で掴んで降りてきた。ポチは、三メートルはあるだろう大蛇の首を咥えて戻ってきた。


 どちらも大物だ。


「うわっ、でっけぇ! 」


「立派な角ですね……」


「真っ白」


「しゅべしゅべ! しゅべしゅべ! 」


「ふふっ、そうですね」


 大物を取ってきた小鴉たちの元にレナ達が集まってきた。アッシュは鹿と蛇の大きさに驚き、レナは大きく立派な角に見惚れていた。レオンは、鹿の真っ白な毛並みに目が言っていた。一番幼いケティは、ミカエルの腕の中で小さな手を伸ばして蛇の皮を撫でて興奮していた。

 


 空から巨大な鹿をぶら下げて降りてきた小鴉が目立っていたからか、俺たちの近くに天幕を張っていたバッカスさん達が見物に来た。


スノーエルク(白角大鹿)にホーレスペイサーか。こんな強敵をあっさりと狩ってくるなんて流石だな。特にスノーエルクの角と毛皮なんて金になりそうだ」


 スノーエルクは聞き覚えはあるけど、ホーレスペイサーにはなかった。多分、ゲームの世界にはいなかった蛇だった。剝いだ皮は、後で何かに使えるか調べてみようかな。取り敢えず【鑑定】した見たところ毒蛇ではなかったので、食べるのには問題なさそうだった。


「こいつと下位種のホワイトディア(白角鹿)を俺の部族では飼ってたけどよ。こいつはその何倍も大きいな」


 狼の獣人のボバドルさんが小鴉が仕留めた白角大鹿(スノーエルク)の大きさに圧倒されていた。


「バッカスさん、ホーレスペイサーはどう調理したら美味しいですかね? 」


 ゴブ筋がポチの噛み痕から豪快に大蛇の皮を剝いでいくのを見ながらバッカスさんに尋ねる。


「うーん、ホーレスペイサーの肉は淡白だからな……」


「カケル、この団長にそんなことを聞いても宛てになんないわよ。焼く・炙る・煮込むの三つしかできないんだから。それに味付けも塩くらいなんだから」


「シアンに言われたくはねぇな。包丁も握ったこともないくせによ」


「私だって包丁くらい握ったことあーりーまーすー! 村でだって私作るの手伝ったりしてたのよ! 」


「あー、あの不格好な切り口の根菜とか皮が剥ききれてない野菜とかお前がやったんだろ。下手くそだからよく覚えてるぞ」


「なんですってー! 」


 参考程度にバッカスさんに調理の仕方を聞いたら何故かバッカスさんとシアンさんが痴話喧嘩を始めてしまった。いや、いつものことではあるんだけどね……。最近あれはシアンさんがバッカスさんにじゃれているんだということに気付いた。


「……濃いスープで煮込むといい」


 魔弾が飛び始めたバッカスさん達を放って、どうしようかなと再度悩んでいるとゴブ筋の解体を見学していたオスカーさんがぼそりと教えてくれた。


「そうなんですか? 」


「この蛇の肉は、淡白。だが煮込むと良い脂がでる。だから、スープで煮込んで汁を染み込ませると旨味が滲み出て美味しいぞ」


「そうなんですか。それは美味しそうですね」


 そう言えば、バッカスさん達の中で専ら料理をするのは、オスカーさんだったな。元々傭兵になる前は狩人をしていたそうなので詳しいのだろう。


 普段無口なオスカーさんと2人で料理の話で盛り上がっている後ろでは、シアンさんが「死に晒せぇ! 」とバッカスさんに特大の空気の塊を撃ち込んでいた。


 白角大鹿の背骨を脂身の多い部分と一緒に煮込んだら濃厚なスープができそうだ。オスカーさんに提案してみたら無言でサムズアップした。


あとは、白角大鹿の足の丸焼きでいくことが決まった。


「よし、じゃあ料理を始めようかな。天狐とレナは作るの手伝ってくれるかな? 」


「ええ、任せて」


「えっ? あ、はいっ! 」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくして料理が完成した。完成した料理の一部は、バッカスさんの所と騎士団の人達にお裾分けした。ルデリックさんは喜んでいたけれど、客分である俺たちから料理を分けてもらうということにクロイスさんは苦笑していた。モグとセレナが天幕の設営の為に土を均したのと水の提供をしたのもその苦笑いの中に含まれているような気がする。



「ルデリックさんじゃなかったらもっと窮屈な旅になったのかもなー」


 ちゃぷんと、俺は露天風呂に体を沈めながら呟いた。


「ん? 俺がどうかしたのか」



「いえ、何でもありませんよー……ってルデリックさん!? いつの間に! 」


 俺一人しかいない筈の場所で、背後から声がした。ぎょっとして振り向くと、全裸のルデリックさんが仁王立ちしていた。


「いや、カケルがまた野営だってのに野営地に風呂を作ったとクロイスから聞いてな。ご相伴に預かろうと思って来たわけだ」


「はぁ……」


 何も言えないでいる俺を他所にルデリックさんは、露天風呂に足を踏み入れて肩を並べてきた。


「なんだ。お前以外にはいないのか」


「どうも完成してからの一番風呂は俺って天狐たちの中で決まってるようなんですよね」


「へー。随分と慕われてんだな。え、テイムマスターさん? 」


「揶揄わないでください。あれはちょっとした勘違いだったんです」


「いやいや、十分その名に値する魔物使いだと俺はお前さんを評価してるぞ」


 ガハハハと笑いながらルデリックさんはそう言った。仲間のことを思うと大げさな、とは言えなかった。


「しかし、想像した以上に立派な風呂だな。それに外っていうのも洒落てる。これはあれか? 例の土と水の精霊が作ったのか? 」


「ええ、そうですよ。モグが浴槽を作ってセレナが水を注いでくれました。あとはこんな風に水を温めました」


 そう言って俺は、掌から火球を生み出して見せる。とはいえ、今の温度が適温なのですぐに握り潰す。


「……さらっと無詠唱で魔法を生み出したり消したりしやがるな。まぁ、いい。普通なら魔力はもしもの時のために温存するもんだから、こういった贅沢は普段できないからありがてぇ」


 そう言って両手でお湯を掬って顔にかける。座っている腰の位置をずらしてルデリックさんは、ずるずると体をお湯に沈めていった。「あ゛ぁぁぁぁ」という声がルデリックさんの口から絞り出されていた。


「お前んとこの村の大浴場も良かったが、野営地での風呂ってのも格別だな……また明日も行った先で作るつもりなのか? 」


「多分作ると思いますよ。あ、ちゃんと出発する時までには元通りに戻しておきます」


「そこは心配してねぇよ。しかし、本当にいいのか? 俺たちまで風呂を使わせて」


「全然構いませんよ。こうしてお世話になっているのですし、大して変わりませんからね」


 俺がそう答えると、どっちが世話になってるのかわかったもんじゃねぇな……と、ルデリックさんは小さくぼやいた。でも、こうして観光旅行のように和やかに旅ができているのはルデリックさん達の判断のお陰だ。場合によっては、今も特別製の金属板で覆われた馬車の中に押し込められている夜鷹の爪の残党のように罪人として連行される可能性もあったのだ。本当に大したことではないと思っている。


「けど、下着の洗濯なんて雑事までやらせてしまうのは流石に気が咎めるぞ」


 ルデリックさんのその言葉に俺は苦笑した。


「あー……あれはムイが好きでやっていることなので、嫌な場合は拒否してくれて大丈夫ですよ」


 ムイの下着の洗濯のことは、露天風呂の許可をクロイスさんに伺いに行った時にクロイスさんの口から「あと、下着の洗濯のことですが、流石にそこまで頼るのは……」と言ってくれるまで把握してなかったことだった。騎士たちの間では、あっという間に新品のように綺麗になると密かに評判のようだけど、何やってんだと言いたかった。しかも、今回の旅からではなく騎士団が村に滞在していた時からしていたようだった。ムイを問い詰めてみたら騎士団に限らず、実はたまに仲間以外の村人たちから着終えた衣類を洗濯と称して呑み込み、汚れを分解して食べていたのだそうだ。

 仲間たちの分は清潔に保つエンチャントがかかっていることもあって滅多に汚れないし、湖の子たちが一括して洗濯してくれていたのでムイが手出しできていなかったので油断していた。


 最早この悪食とも言える雑食性は、スライムの本能に近いのだろう。


 きっと今頃、夜鷹の爪の残党が押し込められた馬車に行っているに違いない……


「ガハハハ! 遠征していると下着も碌に着替えれないし洗えないからな。感謝する奴はいても、嫌がる奴はうちの団にはきっといねぇよ」


「ムイが、少しでも役に立って助かったというなら俺としても嬉しいことです」


「カケルとその仲間には大いに助かってるよ。遠征ってのはもっと殺伐としているからな。こんなにものんびりとした呑気な遠征も早々ねぇよ。風呂に入りながらの遠征ってのは軟弱かもしれねぇけど……まっ、たまにはそんな遠征もいいか」


 もしこんなことで腑抜けるような奴がいれば俺が直々に鍛え直せば済む話だしな、と、ルデリックさんは団員の人達にとっては恐ろしいことを呟いていた。



「ところで、カケル。外の風呂で飲むのもいいかと思って持ってきたんだが、一杯どうだ? 」


「またクロイスさんのを持ってきたんじゃないですよね……」


「これは俺が持ってきた蒸留酒だよ。喉がカーッとなるくらい辛いぞ」


「それなら少しだけ頂きます」


「おう。飲め飲め」



 それからしばらく、露天風呂に浸かりながらルデリックさんと2人で俺はお酒を飲んだ。


普通こういうのって美少女たちの入浴シーンだったりしないか? と後書きを書きながら思ってます。

でも、男同士の酒を酌み交わしながらの裸の付き合いって何だか憧れます。



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