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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
三章 
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72 「村長の勉強と携帯トイレ」



 街へ行く道中で思いがけずして魔法の先生としてラビリンスに教えを乞うた俺は、早速ラビリンスに魔力とは何か、魔法とは何かについて教わった。


 幸い、まだ旅は始まったばかりでここから休憩に入るまで時間はたっぷりとあった。

 


 ラビリンスの話を聞いたところによると、魔力とは純粋なエネルギーであり、自然界に満ちる魔力「マナ」と生命体に宿る魔力「オド」の2つに大別されている。

 

 マナはこの世界のどこにでも存在し大気や水のように生物の呼吸や食事といった生命活動を通して体に取り込まれてオドへと変換される。オドとなった魔力はまた生命活動を通して体外へと排出されてやがてマナへと変換される。

 そういったように魔力は、名を変え時に姿形を変えたりしながら世界を循環しているものだそうだ。


 認識としてはマナが石油で、オドが石油から精製したガソリンや軽油、ガスといったものに近い。


 魔力がオドとして体内にある時、それは一部が血液のように体を循環しつつ、その大半は一ヶ所に溜っているらしい。これをラビリンスは魔力タンクと称したけど、この魔力タンクは臓器として体の中に存在する類のものではなかった。


 ラビリンスが魔力タンクと称したものは、所謂、(たましい)のことだった。


 だから先程の話を言い換えると、オドはその人の魂に溜っていき、その一部が魂から肉体へと流れて血液のように体と魂の間を循環しているのだそうだ。


 魂なんていう目に見えないものが本当に存在するのと言いたいのだけど、こうして俺が俺のままゲームのアバターの体に宿っていることや、実体化ができるだけで肉体があるとは言い難い精霊やまさに肉体を捨てて魂だけの存在である幽霊(ゴースト)が実在して信じないわけにはいかなかった。

 そもそも蘇生魔法だって例え脳や心臓が破壊されてても、魂を呼び戻せば生き返るという魂ありきの魔法なのだし、今更な話ではある。


 ちなみに、高位の回復魔法によって肉体が欠損した状態から元通りに戻ったりするのも魂に残る健康な肉体の記録を読み取って復元しているのだそうだ。低位の回復魔法の場合は自然治癒力をオドやマナの働きかけで活性化させて傷の回復を早めているのだそうだ。

 


 さて、少し逸れてしまったので話を戻すが、魔力とはざっくりと言ってしまえばそういうものらしい。


 では、魔法とは何か?

 

 簡単に言ってしまえばこの2つの魔力を使って起こす物理法則を無視した人為的な奇跡こそが魔法らしい。


 物理法則とはまた別の魔力が関わる法則に沿って起こる現象が魔法と言った方が適切なのかもしれない。

 だから、奇跡を引き起こすために技術(わざ)は魔術と呼ばれて、その奇跡を引き起こすために唱える言葉を呪文(スペル)と呼ぶ。

 

 この世界で魔法使いや魔術師と呼ばれる人達は、その魔法の原理を学び、魔術(わざ)を修得し、多くの呪文(スペル)を覚えた者を指している。


 ちなみに魔法使いと魔術師は、国によって呼び方が違うというだけでほとんど同じ意味として使われているらしい。


 

 魔法の原理も魔術の技らしい技が自力で使えない俺が、呪文(スペル)を唱えるだけで魔法を使えてしまうのは、何度も言うけど偏にスキルがその処理を全て俺に代わって行ってくれているからである。


 一応、スキルの習熟度が低いとその恩恵は少ないのだけど、生憎魔法関連のスキルはほとんどカンストしているかその一歩手前と言った感じなので、数学の計算をスパコンに代行してもらっているのに近い状態なのかもしれない。

 


 ラビリンスがチートだと怒るわけである。



「と、いうわけなのでっ! 私が魔法の原理と魔術をマスターにしっかりと教えますから覚悟するのですよ! 」


「うん、よろしく頼むよ先生」







 それからラビリンスの魔法講座は、先生がお弁当食べて眠くなるまで続いた。


 ラビリンスは、「私だってマスターの役に立つんですよ! 」とやる気十分なので、きっと明日も教えてくれてると思う。教えてもらったことは忘れないうちにメニューのメモ機能に要点を書いて保存しておいた。


 お昼寝タイムへと入ったラビリンスは、俺の膝で気持ちよさそうにすやすやと眠っている。


 そんなラビリンスの黒髪を髪を梳くように撫でる。

 ラビリンスの腰まで伸びてる癖のない長髪は、毎日お風呂に入って丁寧に手入れしているからか傷んだ様子はなく綺麗な髪の光沢を帯びている。手で梳いた時の手触りも滑らかで引っかかる様子もなかった。

 

 最近は食事をしっかりととっているから骨が浮き出ているほどにやせ細っていた体に肉がついてきてふっくらとしてきている。

 でも、まだ痩せすぎなかな。


 ラビリンスがよく寝るのは摂取した栄養を早く体に行き渡らせるためだったりしてな。


 そうだったらまんま成長期の子供だ。

 

 少しおかしくて俺は、クスリと笑った。



「よく寝て大きくなるんだぞ、子供先生」


 寝ているラビリンスの耳元でそっとそう囁くと、ラビリンスはむず痒そうに体を捩った後ふにゃっと顔を綻ばせた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 その後も一定の速度を維持したまま移動を続けていると、先を進んでいたルデリックさんが馬首を巡らせてこちらに近づいてきた。


「カケル、そっちはまだ大丈夫か? 」


「すみません。大丈夫とは? 」


 聞き返すと天狐を一瞥した後、言い難そうに口を開いた。


「あー、あれだ。小とか大だよ」


 あー……。


 天狐に視線を向けるが、大丈夫だとふるふると首を横に振られた。頑冶やゴブ筋も必要ないと首を横に振った。


「この馬車のメンバーはまだ大丈夫そうです。あ、でも別の馬車に乗っている子供たちが限界かもしれません。聞いてみましょうか? 」


「いや、いい。どの道、一度馬を休ませるためにあの小川で休憩を取ろうと思って聞いてみたんだ」


「わかりました。あそこの小川ですね」


「おう。ありがとな」


 それだけを伝えるとルデリックさんは戻っていった。




 あ、そうだ。子供たちはトイレ行きたいだろうし、今のうちにアレも出しとこう。





 それからすぐに小川へとついた俺たちは、騎士の人達の指示に従って馬車を止めて休憩することになった。


 馬車がついてすぐに別の馬車に乗っていたアッシュが飛び降りて小走りで草むらへと消えていった。その後ろをレオンも待ってと言いながら追いかけて行った。


 やっぱり、限界が近かったようだ。


「お姉ーちゃん! もれるっ、もれるっ」


「ローナもっ、ローナもっ! 」



 他の子も限界そうなのを見て俺は、例のモノの設置を急いだ。助っ人でモグにも手伝ってもらった。


「モグ、これを囲うようにそこまで厚くなくていいから壁を作ってくれないか? 一ヶ所は開けてスペースは大人一人が入っても余裕があるくらいで」


「んーこんな感じかな? 」


「うん、そうそう。うまいうまい」


 モグが作ってくれた土壁の長方体に俺は合格を出して、一ヶ所だけあいた場所に毛皮のカーテンを張った。トイレットペーパー代わりのウィットリーフの束も置いておく。


 よし、これでいいだろう。同じものを三つ用意して俺は満足そうに頷く。



「レナ、あそこにトイレ作ったからそこ使ってくれたらいいよ」


「あ、カケルさん! ありがとうございます。助かります! 」


「前に教えた使い方は覚えてる? 」


「はい、大丈夫です! ほら、2人ともいくよ! 」

 

 リンダとローナをどこで用を足させようかオロオロとしていたレナは、礼を言いながら2人をがっと掴んで脇に挟むとそのままトイレへと駆けこんでいった。


 ……レナも随分と逞しくなったなぁ



 と村の娘の逞しさに感慨を抱いていると騎士団に合わせて馬車を止めてきたバッカスさんがこちらへと顔を出してきた。



「旦那、土精霊のガキと作ってたみたいだけどありゃあなんだ? 」


「即席のトイレですよ。旅に慣れてない子供達もいますし、俺もあった方がいいので」


「そりゃ、トイレがあった方がその辺でするよりはいいけどよ……。わざわざそんなことをするために精霊の力使うなんざ旦那くらいだぞ」


「あの仕切りはトイレを使う人のための配慮ですよ。中に携帯できるトイレ型の魔導具『おまる君』を設置してあって、それさえあればどこでもできますよ」


「はぁ? オマルクン? 何だそりゃ? 」


 バッカスさんの反応を見るに口で言っても理解してくれそうになかったので、空いているトイレへと案内した。


 大柄なバッカスさんと入るには少し狭いので、『おまる君』を一度外して外へと出した。

 『おまる君』は、水面に浮かぶ白鳥を模したおまるの形状で、白鳥の首は背中へと回っていて白鳥の額には魔石が埋まっている。首の半ばからはハンドルが伸びている。そして、胴体部分が開閉式の蓋となっていて開くと窪んだ穴が露わになる。

 


「これがその携帯できるトイレっていうオマルクンか? っていうかなんだこの形。鳥? 」


「俺が前いた場所にいた白鳥という水鳥を模してるんです。可愛いでしょ」


「うーん、俺には何とも言えねぇな。それでこれはどうやって使うんだ? 」


「使用するときはこうやって跨って、ここの右のハンドルを回したら蓋が開くのでこの窪んだ穴に用を足します。用を足し終えたら左のハンドルを回して蓋を閉めます。その後、この白鳥の額の魔石に触れたら中の排泄物の処理が始まって土と水にまで分解してくれます。外装が汚れてしまった時は、左右のハンドルの横の出っ張りを同時に押してくれたら少ししてから白鳥の口から【清浄な水(クリンアクア)】が出てきて汚れを洗い流してくれる仕組みです」


「ほー、それは随分と便利そうだな」


 説明を聞いたバッカスさんは興味深そうにハンドルを回して蓋を開いたり閉じたりしながら観察する。

 持ってもいいかとも聞かれたので、持ち上げるだけならと許可を出した。


「お? 硬質な感じだったの思ったよりも軽いな」


「重すぎると携帯できせんからね」


「確かにな。だが、これは良さそうだな。早速だが、俺も使ってみてもいいか? 」


「どうぞどうぞ。全然大丈夫ですよ」


 『おまる君』をもとの場所に設置し直してバッカスさんにどうぞ、と促した。

 早速バッカスさんは、礼を言って毛皮のカーテンを捲って中へと入っていった。



 出てきたバッカスさんは、「こりゃいいもんだな」とご機嫌だった。



 その後、バッカスさんから話を聞きつけてきたシアンさんに「カケル! これ売って! 」と言い寄られたり、アサルディさんに「商売をする気はありませんか? 」といつになく熱心に勧められたりした。


 その騒ぎを聞きつけて騎士団の人達も『おまる君』のことを知って使用した人達からは概ね好評だった。クロイスさんからは「このオマルクンという魔導具を後程発注してもよろしいですか? 取り敢えず50機ほど」と商談を持ちかけられた。



 まさかこんなに反響があるとは思っていなかった俺は、終始たじたじだった。


『おまる君』

携帯型トイレ魔導具。

カケル達の従来の技術によって作られた魔導具。

設計したのはカケルでアレンジしたのは頑冶だが、大本は、カケルがまだ地球にいた頃に見た『モントモ!!』のプレイ動画の中の携帯型のトイレの魔導具を作った動画で出た魔導具を参考にしている。


重要な素材として、魔石と火、水、土、風の魔宝石と少量のミスリルが使われているので高価なものとなっている。




・魔力について 補足

作中でカケルが使用した【オーバーマナドライブ】は、周囲のマナを吸収してオドへと変える速度を何倍にも増幅させる代物です。マナからオドを精製し、貯蔵する魂に多大な負担がかかるため副作用が生じてます。


MPを回復させるマナポーションは、マナを大量に含んでいてそれを体内に取り込むことでオドへと変換される。マナポーションに含まれる薬効は、オドの変換を助けてくれるのでその変化は早い。

当然、マナポーションの等級が高いほど、含まれるマナは多く薬効は高い。


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