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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
72/114

70 「村長たちの旅立ち」

前半は、クロイスさんの独白となってます。



 私、クロイス=ヴァンタークにとってルズール村に滞在したこの数日の出来事は驚きの連続だった。




 ルズール村の村長と名乗ったカケル殿が魔物使いとして傑出した才能を持つ御仁であることは、野営地での一件で目に見える形で証明されていたが、ルズール村を訪れたことで従える種族の多様さとその隔絶した力量に私は再び圧倒された。


 団長はカケル殿の人柄を好ましく面白いと評していたが、私はカケル殿が持つその力の大きさに畏怖を抱いた。



 私は生涯、カケル殿たちが我々に対して友好的であったことに感謝することだろう。




 カケル殿たちはルズール村に訪れた我々を持て成してくれたが、その宴で出された料理の豪華さにまた驚かされた。


 香辛料がふんだんに使われた魔獣肉の肉料理や驚くほどに味に深みのあるカナン(トマト)のスープ、また雪のように冷たく甘いリニッシュ(リンゴ)の氷菓子などは、どれも見慣れない料理であり、その出来栄えは村の宴で出てくるような代物ではなかった。これもカケル殿たちだからこそ可能なことなのだろうが、これが香辛料に至るまで全て現地で調達した食材で作られていることに私は驚きを隠せなかった。


 危険な魔物が跋扈する人にとって過酷なこの地が食材の宝庫であることは私にとって新しい発見だった。中には、私の知らない食材や香辛料もあったがその味は好ましいものだった。



 大規模な長距離転移によってこの地に飛ばされてきたと語ったカケル殿が、この地の幸を知悉していることに驚くと同時に、その知識がこの地では知り得ない異国の知識であることも認めざる得ない。



 俄かには信じ難いことではあるが、カケル殿たちほどの実力者が全くの無名であることも考慮すれば、カケル殿たちが下手をすれば大陸を越えた大規模な長距離転移に巻き込まれた異邦人であることも信じざる得なかった。カケル殿の従者や従魔の名前がこの辺りの国では聞かない独特なものであることもその話に信憑性も持たせていた。


 しかし、それ程の大規模な転移ともなれば人の身で成せれるとは考え難い。かと言って、転移が自然的になったとも到底考えられない。


 そうなると神の御業と考えるのが自然であるが、どの教会からもそれらしいお告げは下っていない。


 また神々の気まぐれなのか、はたまたこの国では信仰されていない神によるものなのか……



 カケル殿たちが有する隔絶した武力と組織力、幅広い分野での高い技術と生産力、そして従える種の多様さと格の高さは、主様に仕える騎士として、王国の貴族の端くれとしては敵対するのは避けたいと思うほどに末恐ろしく、友好的でありたいと願うほどに魅力的であった。



 カケル殿達が我が主にとって、ひいては我が国にとって益とならんことを私は祈るばかりである。








 差し当たって私の秘蔵の葡萄酒を団長と飲み干したカケル殿はその時の私にとって、凶であると言えた。

 

 しかし、反省の色を見せない団長に対して、カケル殿は謝罪の言葉と共に後日見事な黒染めのコートをお詫びとして私に贈ってくれた。

 そのコートはカケル殿の手製であるらしくカケル殿の従魔の毛から織られた外套は防寒具としてだけでなく防具として見ても優れた一品であった。





 やはりカケル殿は、好ましい御仁であると言えた。



 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 出発までの四日間は、行く準備をしているとあっという間だった。


 街に着ていく服を制作したり、乗っていく馬車を制作したり、護身用の魔道具を制作したりと色々なモノを作ったりした。クロイスさんにお詫びの品として黒染めのコートを贈ったりした。


 ブランデーシープという種の羊の魔獣から採れた毛で編んだコートで高い炎熱耐性と防寒性を持っている。この地域はこれから過酷な冬を迎えるそうなので、鎧の上からでも着れるコートを選んだ。

 ブランデーシープの毛は一度刈り取ると回復魔法による治療という裏技が使えず、再び毛が生えるのを待たなければならないので、それなりに貴重な代物だ。とはいっても、三日に一度に刈り取りができるので十分とも言える。


 後はゴブ筋と朝練したり、ルデリックさんと手合わせしたり、森に行った先で魔獣と戦ったりとやや殺伐してた。

 最近の朝練では、ゴブ筋に攻撃が当たる数が日に日に増えて行っているので成長を目に見えて実感できてとても充実している。

 その分、ゴブ筋もどんどん加減を無くしてきているので傷は減るどころか、むしろ重傷になってきている。この前なんて、大剣で脇腹がパックリと切り裂かれて出てはいけないものが出かけてやばかった。痛みも尋常ではなかったけど自分の中身が出てくるというのは生理的な恐怖が大きかった。

 

 あれはもう経験したくない体験だった……。

 もしかしたら左腕を切り落とされた以上に怖かったかもしれない。いくら地球とは違ってすぐに治せて後遺症もないとは言っても痛いものは痛いし、怖いものは怖い。

 こればかりはレナには任せれなかったので組み手を中断して自分で治療した。傷が塞がった後にレナには泣かれてしまった。


 レナの涙を見て次はないようにより頑張ろうと思った。 



 ルデリックさんとの手合わせは、ゴブ筋との朝練をどこからか嗅ぎ付けてきたルデリックさんから一方的に申し込まれた。ゴブ筋の時は違ってお互い木剣で行ったけど、当然というか手を足もでなかった。その後、ゴブ筋とも行っていたけど見応えのある組手だった。その時の戦いを見て、やっぱりゴブ筋はまだまだ手を抜いているんだと実感した。いつかゴブ筋の本気を引き出して戦いたいとも思うけど、俺の体がそれに耐えられる自信はまだなかった。


 久しぶりの森での採集は赤椿、飛燕、ラビリンスの新参の3人を連れてピクニック気分だったのだが、強い仲間を連れてこなかったのが災いしたのか割と頻繁に魔獣に襲われた。

 ラビリンスを除くと最も新参者な飛燕と赤椿には丁度いい相手ではあったけど、ピックニックというより武者修行のようなことになった。目的であった薬草などの採集は無事に果たせたけど、次からはポチやゴブ筋を誘っていこうと思った。





 他にも村に留守番になって駄々を捏ねるシルフィーのご機嫌を取ったり、問題児の不満解消の為に闘技場で使用を許可したり、気晴らしに湖で水遊びしたりと仲間との交流を深めたりもした。


 敢え無く留守番となったシルフィーは案の定、駄々を捏ねて捏ねまくったのでスイーツで機嫌を取ったり、遊びに付き合ったりした。湖での水遊びもシルフィーのご機嫌取りの一環だ。シルフィー以外にも普段中々相手に出来ない仲間と一緒に遊べたりしたのは結果的に良かったと思っている。

 

 問題児に関しては、あいつらはもう闘技場で身内と戦っていれば満足してたので手はそれほどかからなかった。ちゃんと加減もして舞台を壊すようなこともなかったので何よりである。流石にアイツらと俺が戦うとなると荷が重すぎるからな……。強い仲間ほど戦闘狂が多いというのも困ったものだ。いや、戦闘狂だからそこまで強くなったのか。




 ……うん。なんというか濃密な四日間だったと言える。





 しかし、村に騎士団が滞在していたのでこれでも普段よりも皆は自重していて大人しかった。


 村中で悪戯をする風精霊が出たり、食事の度にご飯の取り合いで喧嘩が起きたり、仲間同士のじゃれ合いで施設が破壊されるといったことはなかった。生産班の頑冶たちも「珍しく趣味に没頭できる」なんて言っていた。



 普段がどれだけ騒がしかったんだという話ではあるけれど、やっぱり普段の村の騒がしさが俺たちの日常なのだろう。



 とは言え、闘技場で発散する仲間は、問題児たちに関わらず増えたけど、元々そのような目的で作られた施設なのでそこは大目にみたい。



 後、闘技場と人工湖のことは、夜鷹の爪の残党の捜索をしていた雷光騎士団の騎士の人によって早々に知られて、ルデリックさん達に問い詰められたりした。

 けれど、仲間の中にハイドワーフでマスタースミスの頑冶や最高位の土精霊であるモグと最高位の水精霊であるセレナがいることを知ると納得してくれた。


 その時のルデリックさん達の表情を思い出すと、納得せざる得なかった。という表現の方が適切かもしれないけど……


 

 最終的には「まぁ、カケル達だしな……」「ええ、カケル殿たちですからね……」と妙な納得のされ方をされた。


 特にあの時のクロイスさんの目は、悟りを開いた僧のように達観としていた。




 結局、ルデリックさん達の捜索で新たに夜鷹の爪の残党が見つかることはなかった。

 村の地下牢で捕らえている盗賊たちを尋問したりしたらしいけど、捕らえた時に俺が聞いた話以上のことは聞けなかったそうだ。「あのスライムを嗾けても知らねぇっつんだから本当に知らないのかもな」とルデリックさんは笑いながら言っていたけど、うちの()を脅しに使うのは止めてください。ムイの性格だとそのまま実行してしまう。


 やはりムイは盗賊たちに疫病神のように嫌われているみたいだ。まぁ、無理もないのだけど……


 その為か一緒に街に行く仲間にムイを是非にとクロイスさんに頼まれた。ムイが近くにいるだけで無駄口を叩かないので助かるのだそうだ。

 他にも頑冶とモグとセレナの3人も出来れば同行して欲しいと頼まれた。

 頑冶とモグはすでにメンバー入りしていたけど、ムイとセレナは、元々希望してなかったので声をかけてみたところ2つ返事で了承してくれたので参加ことになった。







 そして俺と一緒に街に行く仲間は、最終的に以下の21名になった。


・天狐 ・小鴉 ・ゴブ筋 ・ポチ ・ラビリンス

・オリー ・頑冶 ・セレナ ・モグ ・タマ

・影郎 ・ミカエル ・操紫 ・黒士 ・アルフ

・ムイ ・ジャンヌ ・赤兎馬 ・エレナ ・月影

・エヴァ


 そこに俺とレナ達が加わって合計28名が街に行くことになった。馬車は3台用意した。それぞれポチとエレナと赤兎馬が引いてくれることになっている。


 アイテムボックスのことはまだルデリックさん達に隠しているので食糧なども一応載せている。水は、セレナがいるので水の入った樽を一つだけ用意した。

 馬車は、今後も長く愛用していきたいので素材を惜しまず実用的な乗り心地のいい頑丈なものを作った。あまり華美なのも好みではないので、外見は質素なものである。







「何人でもいいと言ったのは俺だけどよ。何だか大人数になったなぁ」


「食糧も足もあちらが用意したものなのですし、足並みを揃えてもらえるのなら問題ないでしょう。その点、カケル殿の従魔が馬車を引くとなるならその心配は無用です」


「お前も何だかんだでカケル達に慣れてきたよな」


「気のせいです」


 村を出発する時刻が迫って順に馬車に乗り込んでいく仲間を見ながらルデリックさんとクロイスさんはそんなやりとりをしていた。




 俺はというと見送りにきてくれたオストルさんと一言二言会話を交わしていた。


「カケル殿、気を付けていってきてください。カケル殿たちには無用かもしれませんが、ヘルエシス様(旅の神)のご加護を」


「ありがとうございますオストルさん。お土産期待しておいてくださいね」


「ははは、それは楽しみですな。カケル殿が何を持って帰ってくるのか楽しみにしておきます。その時は街での土産話も一緒に聞かせてください」



 オストルさんはお酒が好きなので、おいしいお酒があったら買って帰ろうと思ってる。

 それ以外の元々この地で暮らしていた村人とも言葉を交わした。洞窟で助けた一件で未だに俺を神聖視する村人はいるけど、最初と比べれば随分と打ち解けてこれたと思う。当初は、怯えられてた仲間たちも今では村人たちと親しげに話している。

 ゴブ筋もカインという少女と出発前に言葉を交わしていた。




 当然のことながら村に留守番になった仲間たちも俺たちを見送りに来ていた。


「村長、村のことは心配すんなよ。俺たちがしっかり守ってやるからな」


「そうっす! 安心していってくるっす! 」


「うん、2人とも暴れて物を壊したり人に迷惑かけたりするなよ? 頼んだぞ」


 頼もしいことを言ってくれるサタンとジャックだが、お前たちが大人しくしていてくれると一番安心できる。



「おいしいもの、買ってきて」


「ホムラが好きそうな食べ物があったら買っておくよ」



「やーだー! やーだー! やっぱ私もいーきーたーいー! 」


「今回、大人しく留守番できてたら街に連れて行ってあげるから悪戯とかせずに大人しく待っとくんだぞ」



 俺は、直前になってまた駄々を捏ね始めたシルフィーの頭を撫でながらそう言い聞かせた。


 これは、戻った時にまた相手してあげないといけないかもな。





「カケルー! 準備できたわよー! 」


 そうこうしていると、出発の準備を終えた天狐から声がかかった。



「うし! そっちも準備が出来たようだし出発するか」


「よろしくお願いします」


「なぁに、カケルに頼んだのは俺なんだから道中は任せとけ。責任持ってお前たちを連れて行くよ」


 愛馬のユニコーンに跨ったルデリックさんは、頼りになる笑みを浮かべた。



「ルデリックー! 俺たちもよろしく頼むな! 」


「お前らは知らん! 勝手についてこい」


 騎士団に便乗してアサルディさんと街へと戻るつもりのバッカスさんの言葉をばっさりと斬り捨てたルデリックさんは笑いながら騎士団の隊列へと入っていた。


 俺はそのやりとりに苦笑しながら遅れないようにポチが引く馬車へと乗り込んだ。



「全軍! 出発進行ー! 」


 それからすぐに俺たちは街を目指して村を出発した。



街に行くメンバー

雑すぎる紹介付き

・相方でなかまのまとめ役の天狐(テンコ)

・偵察班のリーダーで最速の翼の小鴉(コガラス)

警邏(解体)班のリーダーで頼れる前衛のゴブ筋(ゴブキン)

・探索班のリーダーで最速の足のポチ

・農耕班のリーダーで世界樹の精霊のオリー

・生産班のリーダーで凄腕の職人の頑冶(ガンジ)

・探索班のサブリーダーで暗闇の狩人のタマ。

・頼れる影の護衛役の影郎(カゲロウ)

・母性的な天使のミカエル

・紳士な人形遣いの操紫(ソウシ)

・寡黙な重戦士の黒士(コクシ)

・脳筋のアルフ

・聖女のジャンヌ

・麒麟の赤兎馬(セキトバ)

・健気なケンタウロスのエレナ

・別人に化けれるドッペルゲンガーの月影(ツキカゲ)

・真祖の吸血鬼で眠り姫のエヴァ

・土精霊で褐色娘のモグ

・水精霊で淑女のセレナ

・恐怖の掃除屋のムイ

・チビッ子のラビリンス 


新メンバーの詳細に関しては、おいおい本編で語りたいと思います。



取り敢えず、カケルが村を出て街へと向かったのでこの話で、第二章を完結としたいと思います。

次話は、引き続き道中を描きながら街へと向かいたいと思います。

第三章はより多くの人と関わっていくことになるだろうと思います。カケルの周りも大きな変化が起きるのかもしれません。


更新はこのままいけるところまで続けようと思ってます。




俺たちの旅はこれからだ!


感想ありがとうございます。

次章を引き続き楽しみにしててください。

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