5 「村長と盗賊の骸」
一部グロい描写があります。
「村長ぉ! 」 「村長! 」 「カケルっ! 」 「村長」
「うわっ!? お前らどうしてここにっ!? 」
村に戻っていると天狐たちに急襲された。油断していた俺は、天狐たちの突然の登場に目を白黒させた。
「村長、あまり気に病むな」
「某、村長の心中お察しすることが出来ず、申し訳御座いません」
「カケル! 我慢なんてせずに私の胸で泣いてくれたらいいのよっ」
「生ある者は死から逃れられない。それが、遅いか早いかの違いだ。此度の一件、村長に非があるものではない」
ゴブ筋は、涙の浮かんだ眦を拭って、固まっている俺の肩をばしばしと遠慮なく叩いてきた。その場に膝をついて頭を垂れた小鴉は何やら感極まった様子でぷるぷると震えていた。天狐は、涙ぐみながら俺の頭を無理やり胸に埋めてきた。黒骸までもが止めようとはせず、何やら励ましっぽい言葉をかけてきた。
「お前ら、突然どうした……って、まさかお前ら見てたのか? 一人にしてくれっていったよなっ!? 」
天狐の胸から抜け出して4人に目を向けると、黒骸以外はそろって目を逸らした。
「……聞き覚えないな」
「……某も身に覚えがありませぬ」
「カケル、酷い顔でほっとけなかったのよ……」
「知らん。我は、暇だったから3人についていっただけだ」
ゴブ筋、小鴉、天狐の言い訳を最後まで聞けば、一人にしてくれと頼んだ時の俺の様子を見て、放っておけなかったそうだ。黒骸はその3人についていっただけのようだけど、心配してくれたのは変わらない。
まさか仲間に監視されているとは思ってもいなかったから、全く気付かなかった。精神的にもそんな気付く余裕がなかったかもしれないけど。
「まぁ、それはいいや。小鴉、黒骸。ちょうど頼みたいことがあるんだけど、大丈夫か? 」
「村長の頼み事とあらば、何なりとお申し付けください」
「我も問題ない」
「助かる。あ、それとゴブ筋。呉羽に用事があるから呼んで来てもらえるか? 」
「分かった。すぐに呼んでくる」
「私はどうしたらいいかしら? 」
「え? あー、天狐も一緒にくるか? 」
「当然よ」
天狐にはできれば、子供たちのことを任せたかったんだけど、仕方ない。ミカエルが面倒を見てくれているようなので、このまま任せよう。ミカエルの手際なら子供たちの面倒を任せておいても大丈夫だろう。
「それで、その頼み事とは……? 」
「さっきの報告会で、小鴉たちが全滅した盗賊の報告をしてくれただろ? 盗賊の死体は放置して、村人のだけを持って帰ったって。あれってさ。考えてみれば、そのまま放置してたら村のように死体がアンデット化する危険があるよね?
だから、盗賊の死体がアンデット化しているのか、もしくはするのか、その確認を手伝って欲しいだ。小鴉には死体があった場所の案内を、黒骸にはアンデット化するかしないかの判断としていた時に対応してもらおうと思ってる。さっき呼びに行ってもらった呉羽には、死体の処理を頼もうと思ってる。天狐は、俺のサポートを頼むよ」
「ふむ。この世界は前とは異なる世界だったか……その可能性はある。だが」
俺の話に黒骸は理解を示してくれた。だけど、途中で口を閉じて天狐を見た。いつもはすぐ追従する小鴉も何も言わずに膝をついたまま天狐を見上げていた。
2人とも天狐が何か言うのを待っているみたいだった。
天狐は、険しい顔で俺を見てきていた。
「……カケルは、本当にそれでいいの? 必要もなく女子供も関係なくここの住人を殺した相手よ」
「いいっていうか、放っておくと面倒なことになるだろ? 村をこんなにした盗賊は俺だって許せないけど、死体がアンデット化して被害を出すようになるのはもっと嫌だよ」
「……わかった。カケルがそう言うのなら、私もついていくわ」
俺をしばらくじっと見つめた後、天狐は納得してくれた。
「天狐に異論がないのならば、某もありません」
「村長が覚悟を決めているのなら、我はそれに従おう」
「じゃ、よろしく頼むな」
それから少ししてから来た呉羽にも事情を説明した。
そして、快く了承してくれた呉羽と共に盗賊が全滅した場所へと俺たちは向かった。
◆◇◆◇◆◇◆
「カケル、もうすぐ着くわよ」
「え、もう? 早くないか? 」
天狐の【神通力】で、俺は空を飛んでいた。
念力やテレキネシスに近い力で、自分と俺の体を持ち上げて空を飛んでいた。力をこめやすいからと、天狐の尻尾の1本に巻き付かれていた。
同行している小鴉と呉羽は、自前の翼で空を飛び、黒骸は魔法で飛んでいた。
目的地まで徒歩だと2半刻はかかると小鴉は言っていたが、空を飛んでの移動だとあまり時間がかからずに目的地に到着した。
空を飛んだ感想としては、浮上する時は、興奮したけど、降下する時は肝が冷えた。
目的地に全員が降り立つ。
それなりの距離を飛んでいたけど、誰も疲れた様子はない。黒骸も魔法で空を飛んでいたのにも関わらず、MP総量はほとんど減ってないに等しい。自然回復する魔力で賄えてしまえている。
天狐も俺一人を運んでいても疲れた素振りはなかった。むしろ、俺を降ろすことを渋る素振りを見せた。
盗賊たちが死んでいる場所は、村よりも酷い状態だった。
血の匂いや死臭に誘われた獣が派手に食い散らかしていたし、全員の内臓が引きずり出されて食われた跡があちらこちらにあった。小鴉の報告通り軍狼の死体もあったけど、どれもこれも似たような状態だった。
こんな状態の死体を好き好んで持ち帰りたくはないな。
村人の死体を持ち帰ってきてくれたポチたち追跡班には、改めてお礼を言っておこう。
「……予想はしていたとは言え、酷いもんだな」
むせ返る腐敗臭を吸わないよう手で鼻を覆う。
腐敗臭などで吐き気は相変わらず出てきそうになるが、今回は予想していただけに周りを冷静に見れる余裕があった。
それにこれを為したのが、人ではなく獣というのも大きいのだろう。死者を冒涜するような悪意がそこにだけで、随分と違うものに見えた。
とは言え、ずっと見たいものではない。
「黒骸、この近辺の瘴気の濃度はどうだ? やはりアンデット化しそうなくらい濃くなっているのか? 」
「……濃いな。村長の懸念の通り、その可能性は高い。まだなってはいないようだが、それも時間の問題になっている」
ギリギリセーフってことか? ならさっさと呉羽にやってもらおう。
「呉羽、【神火】を頼む」
「ん。りょうか~い【神火】」
呉羽は軽い調子で応えると、手元に金色に輝く神々しい火の玉を生み出した。
「それっ」
ぽいっとそれを呉羽が投げると、火の玉は死体の数だけ分裂し、死体の元に正確に飛んでいった。
火の粉のように小さくなったそれは、死体に触れた途端に一気に燃え広がり死体を包み込む。燃え上がった炎からまたいくつか火の粉が飛んで、肉片や乾いた血に飛び火して燃え上がる。
数分もしない内にそこに死体があった痕跡は、塵一つ残さず燃え尽くされた。
不思議なことに周りに生えていた草や地面には、焦げひとつついていない。
まるで最初から死体などなかったかのように錯覚さえ覚えるほど、死体とその痕跡は呉羽の生み出した【神火】によって燃え尽くされた。
(一生地獄で反省してろ)
死体があった場所を眺めながら、俺は盗賊達に向けて心の中で一言送った。
念の為、近辺を捜索して他に死体が無いのを確認し、ついでに役立つ薬草や木材を調達してから俺たちは村に帰った。
・【神火】
指定したモノだけを燃やし尽くす究極の炎。
最終進化形をしたフェニックスのみが持つ強力な固有スキル(モントモで確認されている限りでは)
ただし、色々と制約もあったりする。
呉羽
種族:フェニックス
全身に炎を纏う美しい鳥の姿をしている。他にも別の姿を持っている。
人型は、普段は燃えるような赤い髪に綺麗な青い瞳を持つ美少女の姿をしている。胸はそこそこ。着物を着ている。
14/9/30 18/05/03
改稿しました。