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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
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67 「村長、丸め込まれる」



 ゴブ筋との朝練を終えた後、俺は天狐と一緒にラビリンスを連れて生産班の作業場に顔を出した。

 作業場は道具が奏でる音で満たされて、作業中の仲間の怒号が音の津波に負けじと飛び交っていた。食べろや笑えと2日連続で賑やかな宴があったりもしたが、作業場はその余韻を感じさせない鬼のような忙しさだった。


 これは時間を改めた方がいいかな。



 俺はそう思って踵を返そうとしたら、近くを通りかかったエレナに気付かれた。ケンタウロスの彼女は、背中に屑石が一杯詰まった大袋を乗せていてそれを運んでいる最中だったようだ。


「あ、村長おはようございます。天狐もラビリンスもおはよう。 親方に会いに来たんですよね? 親方ー! 村長が来てますよー! 」


 後でいいと伝える前にエレナは、頑冶を呼び出した。

 エレナの声は騒音に包まれた作業場の中でよく響いた。一瞬、音が止んで全員の目がこちらに向いた。



「村長! おはようございます! 」

「おっはーそんちょー」

「村長おはようでございまする」

「そんちょーおはよー」

「おは」

「おはよう村長! 」

「おはようございますっす! 」


 堰を切ったかのように怒涛の挨拶が俺に向けられた。傍にいたラビリンスがそれにに驚いて「ぴっ!」と小さく悲鳴を上げて飛び上がり俺のズボンの裾をぎゅっと握りしめた。


 大丈夫。怖くない怖くない。


 ぷるぷる震えるラビリンスを宥めながら俺は、みんなへと「おはよう」と挨拶を返す。



「姐さんもおはようございます! 」

「ちみっこも一緒か。おはよう! 」


 と俺だけでなく天狐たちにも声がかかる。


 天狐のことを「姐さん」と呼ぶ仲間は少ないけど一部では根強く呼ばれている。ラビリンスが呼ぶような「お姉ちゃん」とはまた違ったニュアンスがあるように思う。天狐は気にしてないようだけど……

 ラビリンスは、一番小さいというわけではないのだけど、仲間を前にしてプルプルと震える様子と容姿から幼いというイメージがついたのかよく「チビ助」だの「ちびっこ」だのと呼ばれている。ストレートに「チビ」と呼ぶ奴もいる。


 天狐は、ふんわりと微笑んで「おはよう」と返して、ラビリンスも自分が挨拶されたことに面食らいつつも「お、おはようございます」と返した。





「おう。どうした村長」


 そこへ作業を止めてきた頑冶が煤で黒ずんだ手を手ぬぐいで拭いながら出てきてくれた。


「突然押しかけてきてすまんな。ちょっと頑冶と話がしたいと思ってな」


「そうか。ここではなんじゃし儂の工房で話を聞こうか」


「ありがとう」


 作業が再開した作業場を一瞥して出してきた頑冶の提案に俺は同意して、俺たちは頑冶の工房へと移動した。






「まぁ、その辺に座ってくれ」


 工房に入った俺たちは、頑冶に促されて手近な椅子を引き寄せて座る。

 何故かラビリンスは一度椅子に座った後そこを降りて、俺と天狐を交互にじっと見てからとてとてと天狐へ近づいてその膝の上にぽすんと座った。天狐の腕を取ってシートベルトをするように自分のお腹の前で交差させた。

 膝に乗られた天狐は「あらあら」と少し驚いていたが嬉しそうだった。何だか年の離れた姉妹みたいだ。



 一度奥に引っ込んだ頑冶が小皿を手に戻ってくる。その皿に盛られてるのはドライフルーツだった。

 それを頑冶は、天狐の手前の机の上に置いた。いや、正確にはラビリンスの前だろうか。


「マスター、これ食べていいんですか! 」


 案の定、目の前のドライフルーツにラビリンスが反応した。食べていいのか頑冶をチラリと見ると小さく頷いた。


「ああ、食べていいぞ。頑冶に礼を言えよ」


「頑冶さんありがとうございます! 」


 許可が出たところでラビリンスはぱぁぁと顔を輝かせて頑冶に礼を言う。目の前のドライフルーツで頭が一杯で、普段怯えるだろう頑冶の眼光の鋭さにも全く気にしていなかった。


 頑冶も甘味で子供の気を逸らすなんて考えたな。


 と俺は、内心で頑冶に感心する。

 以前レナたちに怖がられて話が聞けなかった頑冶が成長していることに俺の口角は自然と上がった。


 俺の視線に気づいたのか頑冶は気恥ずかしそうにぷいっと顔を背けてガシガシと頭を掻いた。



「それで、話ってのは何だ」


「ああ、うん。騎士団の人達と一緒に街に行くことになったからその連絡と、一緒に連れていくのは誰がいいかの相談」


 話題を逸らすように頑冶は話を投げかけてきた。俺は3人分の薬茶とラビリンス用の牛乳をアイテムボックスから出しながらそれに答えた。


 頑冶はその話に驚いた様子もなく作業机に置かれたお茶を一口啜って答えた。



「ああ、その話か。そう言えば今朝、シルフィーがそのようなことを言いまわってたな」


 あいつ、いつの間に……!


 大方、昨夜のルデリックさんとの会話を盗み聞きしてたんだろう。野外での盗み聞きなんて風精霊であるシルフィーにとっては容易だろう。


「……ちなみにシルフィーは何て言ってた? 」


「『村長と一緒に行けるのは、選ばれた仲間のみだー! 』とか、なんとか言っておったかのぅ。今頃、闘技場で選抜戦でも行われてるじゃないかの」



 もしかしていつもより村が静かだなと思ったのは、宴の後だからじゃなくて騒がしい仲間が闘技場に流れたせいか



 あんの馬鹿……!



 俺は知らない間に事態が進展していることに頭を抱えた。



「カケル、止めに言った方がいいんじゃないかしら」


「……そうだな」


 また舞台が破壊されて生産班の仕事を増やされても困る。シルフィーには後でお仕置きしないと、と俺は決意を固める。


「ごめん頑冶。ちょっと闘技場に行ってくる。教えてくれてありがとう」


「えー! マスター、ドライフルーツまだ残ってますよ」


 ラビリンス、今それどころじゃないから。



「うむ。行ってこい」


 頑冶は、俺の言葉に気を悪くするどころかわかってたとばかりに顎髭を撫でながら鷹揚に頷いた。


「あと村長、儂もついていくからの」


「え? 」


 頑冶の承認もあって椅子を立ちかけた俺は、続けて言われたその言葉で固まった。



「何を呆けてる。儂も街に行くと言ったんじゃ。問題なかろう」


「頑冶、あなた班の方は大丈夫なの? 」


「儂がいなくても問題なかろう。儂の班は皆がやるべきことをきちんと理解しておるからの」


 天狐の疑念に頑冶は泰然とした姿で応えた。


「でもリーダーが長期間抜けるのはまずくないか? 」


「儂がいない間は、オーガードに後を任せようと思っておるから大丈夫じゃろ」


 俺がそう尋ねても頑冶は問題ないと答えた。本人の中では、ついていくことは決定事項でそのための下準備は済んでいるようだった。


 頑冶が留守を任せるといったオーガードは、『単眼の鍛冶鬼』という単眼鬼(サイクロプス)という種族に分類される一つ目の鬼巨人で、気性の荒い傾向にある鬼の種族の中では気性の穏やかな巨人の性質が強いのか、見た目の厳つさに反して穏やかな気性をしている。種族の名前になっているだけあって種族的に鍛冶に特化したモンスターであり、生産に有用な固有スキルを持っているし、スキルとしても生産の中でも特に鍛冶系統に特化している。その腕前も十分ある。


 性格も腕も俺も納得のいく人選だ。


 ここまで準備万端だと反対する理由がすぐには出てこない。


 頑冶は見た目の老成さに違わず、落ち着いていて仲間の中では理性的な方である。実力は、生産に特化している分仲間と比較すれば見劣りするけど、この辺りに出没するモンスターであれば自衛できる程度にはあるし、モノ作りにどっぷりと浸っているからこそ見えてくるものもあるだろう。

 異世界独自の文化を見ることができるだろう街には、元々生産に長けた仲間は連れて行こうと思っていたので、その筆頭の頑冶ともなれば願ったり叶ったりとも言える。

 そう言えば、頑冶は未知の技術に並々ならぬ関心があったな。


 生産班の班長という懸念ももうすでに頑冶が手を打っているようだし……


 俺が悩む中、頑冶はじっとその鋭い眼光で俺を見つめて(睨んで)きていた。



 その視線に負けたわけではないけど、俺は頑冶の同行を認めた。


「……わかった。頑冶も連れていくよ」


 その言葉に頑冶は嬉しそうに笑みを浮かべながら顎髭をゆっくりと撫でた。


「うむ。行くのを楽しみにしてるからの」






街に行くというイベントに一度も街に行ったことのない村人たちが騒がないわけがない。

何もおかしくない。



名前だけ登場。

オーガード

種族:単眼の鍛冶鬼(サイクロプス系統)

鬼と巨人の性質を併せ持った単眼鬼(サイクロプス)の中でも生産の鍛冶に特化したモンスター。

ゲームの中では亜人の枠には入ってない。(同様に天使や悪魔も入ってない)

一般的にサイクロプスは鬼種の例に漏れず血の気の多い傾向にあるのだが、オ―ガード本人は、温厚な巨人の性質が強いのか至って温厚で穏やかで優しい性格をしている。


本来の姿は単眼単角の10メートルを超す巨体なのだが当然そんな姿で村で暮らせるわけもなく、小鴉のように人に近い姿をとっている。


人の姿の時は、ゴブ筋に匹敵する高身長ではるものの角は額に瘤のようにちょびっと出ているのみで、単眼ではなく左目に眼帯をした隻眼の男といった風貌をしている。ちなみに白髪の長髪でマッチョなイケメンである。普段、左目の部分は前髪で隠れていて、後ろ髪は鍛冶の邪魔になるからと後ろでひとつに束ねている。


面倒見がいいので生産班の中では慕われている。

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