表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
67/114

65 「村の酒宴」


 カケルの村に訪れた雷光騎士団は、村からほど近い場所で天幕を張って野営の準備を進めていた。その中でも一際大きな天幕の中で、地下牢で捕らえた夜鷹の爪の残党らとの対面を終えたルデリックとクロイスの姿があった。

 クロイスは天幕の中を落ち着きなくうろうろと歩き回っており、その様はまるで難解な数式を前にした学者のように深刻そうで悩まし気だった。そんなクロイスを尻目にルデリックは持参していた葡萄酒を飲んで楽しんでいた。


「このことをトール様にどのように報告すれば……。果たして信じてもらえるのでしょうか」


「ありのまま話せばいいだろ。全部事実なんだし」


 酒の肴にとカケルからもらった香辛料が塗り込まれた魔獣の干し肉を齧りながらルデリックは素っ気なく返す。その態度が気に食わなかったのかクロイスはつかつかとルデリックの前にまで歩み寄って、テーブルに置かれた葡萄酒を取り上げようとした。それを察したルデリックがさっと葡萄酒を懐に避難させた。干し肉を口に加えたままニヤリと笑ったルデリックにクロイスは空を切った拳をわなわなと震わせた。


 クロイスは気持ちを落ち着けるために一度大きく深呼吸をして握りしめていた拳をゆっくりと解いた。


「……しかし、都合よくテイムマスター級の無名の魔物使いがいて既に夜鷹の爪を捕らえた後であり、襲撃を受けて囚われていた村人を解放していた。その魔物使いは、突発的な転移でここらに飛ばされてきた流れの者であり、偶然居合わせたルズール村で前任者に認められ村長を務めている。と言って信じられますか? 」


「まぁ、書類で出したって信じてもらえねぇだろうな。こちらの正気を疑われておしまいだ」


 そう返したルデリックに、クロイスはずいっと顔を近づける。


「でしたらどうするのですか。カケル殿たちのことを報告しないわけには行かないでしょう。夜鷹の爪を捕らえた功績云々を別にしてもカケル殿がルズール村の村長を名乗る以上、カケル殿達をこの地に住まうことを認めるかどうか判断を仰がなければなりません」



「そりゃ、お前決まってるだろ」


 迫ってくるクロイスから顔を仰け反らせていたルデリックが、それを止めて正面からクロイスを見据える。



「カケル達をトール様に会わせるんだよ。口で言って信じてもらえないなら実際に会わせればいい。その方が話が早い」



 そう言ってルデリックは、酒瓶に口をつけてその中身を呷った。




 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 夕刻、茜色に染まる空の下で雷光騎士団の人たちを歓迎する宴会が始まっていた。

 前回と同様の立食バイキング形式の宴会は、ルデリックさん達も気に入ったらしく思い思いにテーブルに盛られた料理を食べて舌鼓を打っていた。騎士団の人と村の人が混ざり合って和気藹々と楽しんでいる。

 2日連続の宴会だけあって仲間の大半は抑えているし、レナ達やオストルさん達も騎士団に気後れしているのか食事のペースは昨夜よりもはるかに緩やかだった。


 当初は、騎士団の人たちだけの予定だったけどルデリックさんの鶴の一声で今の状況に落ち着いた。


 意外にも雷光騎士団の騎士たちは、所謂人と呼ばれるレナ達のような地球の白人に似た容姿のヒューマンだけで構成されていたわけではなくて、中にはボバドルさんのような獣耳と尻尾が生えた獣人やエルフ、ドワーフといった様々な人種の人たちがいた。

 中には、捻れた角と蝙蝠の尻尾を生やした褐色の肌の上級悪魔の姿もあった。

 とても驚くことにこの世界の認識では悪魔や天使の類もまたヒューマンやエルフなどと同じ人種として扱われているらしい。ただ悪魔や天使は、住んでいる大陸が違うためこの辺りでは滅多に見かけないそうだ。


 その為か、村人の時よりも早く騎士団の人たちは仲間のことに慣れている様子だった。





「てなわけで、カケル。一緒に街までお前を連れていくことになった」


「……はい? 」



 そんな宴の最中にルデリックさんが俺に話しかけてきたかと思うと、そのようなことを告げてきた。突然の話に俺は思わず聞き返してしまった。



「だからよ。トール様にお前らのこと説明するときに口で説明するより実際に見てもらった方が早いだろ? それに夜鷹の爪を捕まえた功績だってあんだからお前に一緒にきてもらってると色々と都合がいいんだよ。てなわけで、よろしくなカケル! 」


 肩に腕を回してきてルデリックさんが、なっ?と笑いかけてくる。

 ルデリックさんの中では既に決定事項のようで、拒否権があるようには見えない。というか、これでも騎士団長なのだから、その人からの命令に一介の村長である俺が断れるだろうか? いや、無理だ。

 そもそも村長だって前任の人から遺魂珠をもらったことで暫定的になったものなので、今の俺の立場は村長(仮)であり、取り方によっては素性不明の男という認識もできた。


 本当にポッと出の俺たちにこの世界に戸籍の類なんて存在する筈もないのだから現状、法は全く味方してくれないし、むしろ法を理由に裁かれる懸念があった。


 幸い、雷光騎士団を率いていたルデリックさんが理解ある人であったから今もこうしていられることができると言ってもいい。


 うん、やっぱりこれは断れないな。



「……わかりました。ちなみに出発はいつでしょうか? 」

 

「んー、そうだな。この辺りにまだ賊が潜んでるかもしれんからその調査をしなきゃなんし、出発は早くても4日後だな」


「4日後ですか……」


 よかった。明日とか言われたらどうしようかと思った。


「ちなみに付き添いは何人までなら大丈夫でしょうか? 」


「自前で足や飯を用意するってんならいくらでもいいぞ。そうでないなら……そうだな。2人か3人だな」


「なるほど。わかりました」


「おう。じゃあそのつもりで頼むな」


「はい。出発の時までに準備は済ませておくようにします」



 馬車と食料を用意できたら問題ないのか……。後で天狐や頑冶に相談してみよう。


 どうせ連れて行けと騒ぎ出す奴らが出るだろうし、連れていく人選も考えないとな。そろそろ畑も収穫時期が近いし全員で行くわけにはいかないからな……。


 あ、この機会にレナ達を連れて街に観光に行くのもいいかもしれないな。

 


「よし、じゃあこの話はこれまでにしてカケルも飲め飲め! 酒ならまだたっぷりと持ってきてるからよ! 」


 そう言ってルデリックさんは、俺に葡萄酒の入った木杯を押し付けてきた。


「あ、じゃあお言葉に甘えて頂きます」


 俺はそれを受け取ってぐいっと一気に飲んだ。口にはしないがエルフの里で飲んだ果実酒と比べると渋みが強いしあまりおいしくない。酔うためのお酒といった感じだ。


 俺が一気に飲み干したことにルデリックさんは、手を叩いて喜んだ。


「いい飲みっぷりだな。じゃんじゃん飲め。ほら、もっと飲め」



 そう言ってルデリックさんは空になった木杯に葡萄酒を注いだ。その度に俺は葡萄酒を飲んで見せてルデリックさんを喜ばせた。


「カーッ、俺も負けてられねぇな! 」


ルデリックさんも俺に合わせて酒を飲んでいき、段々と飲み比べの様相になっていった。



「よっ、団長! 」


「村長負けんなー! 」


「いっけー! 」


「団長もあの村長もウワバミかよ! 」



 この体のお陰で酔いは一向にこないけれど、こうして馬鹿騒ぎするのは何だか楽しかった。










 翌日、雷光騎士団が持参した酒を二人だけでほとんど飲み尽くしたことにクロイスさんからルデリックさんと揃って叱られた。ごめんなさい




忘れた人用

遺魂珠

遺した者を想う死者の気持ちが結晶化したもの。

葬儀の最中に死者の恋人や弟子、親友、師匠、親子など遺された者の夢の中にその死者が現れると手に入る。

ルズール村の故村長から任された関係で村長代理にもなった。それで子供が納得するくらいに託された者は遺された者たちには信頼するに値すると評価されてる。

その信頼は法的にも評価されているものでもあり、カケルをルズール村の村長として認める大きな要因となっている。



Q.普段から喧嘩っ早い仲間たちが酒なんて飲んだら大変なことになりませんか?


A.基礎スペックと毒耐性が強すぎて純度100%のアルコールを飲んでも酔わない奴らばかりです。

 ゲーム内で酒は雰囲気作り以外では使われてないせいか、異世界に来てから酒が飲めるようになっても毒の一種と認識されてすぐに解毒されてます。


Q.何で賊討伐に酒を持ってきてるんですか?

A.半分が水代わりであり、半分が士気高揚のため。その為、度数もそこまで高くない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ