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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
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64 「村の地下牢のスライム風呂」




「団長! 何事ですか!? 」


「ご無事ですか!? 」


「先程の光は一体何事ですか!? 」


 どうもやらかしてしまったみたいな天幕の中の固まった雰囲気は、外から押しかけてきた騎士たちによって霧散した。やはりあの光は、天幕を透過して外からも見えていたようだ。


 無害なものだったのが幸いだった。


 押しかけてきた騎士たちは、ルデリックさんの「大したことではねぇよ」とクロイスさんの「ここは大丈夫ですので、各自持ち場に戻りなさい」という言葉で追い返されていた。




「しかし、あんな非常識な光景を見せられたらお前らが夜鷹の爪を倒したというのも頷けるな」


「……そうですね。正直、カケル殿がここまでとは思っていませんでした。倒すだけでなく生かして捕らえたという話にも信憑性が増しました」


 

 あれ、大丈夫そうだった?

 と思ったが苦笑しているバッカスさん達を見るに微妙な所のように思える。しかし、パスを活性化させるなんて初めてのことだったし、今回は不可抗力だと言いたい。

 うん、セーフ。セーフだ。






 やっぱりセーフではなかった。



 ルデリックさんとクロイスさんが今後の方針の話し合いをしてくると言って天幕を去った後、バッカスさん達からお小言をいただいた。

 ただ意図的なパスの活性化が初めてだったこともあり、やってしまったことは仕方ないということで話は落ち着いた。


 それに実力の一端を見せたことで、俺たちの話に信憑性が増したので結果オーライだった。


 口にしたらバッカスさんに拳骨をもらいそうなので言わないけど





 俺が怒られている間、天狐たちは三人で何かを話し合っていた。



「何だかふわぁってなってぽかぽかでした」


「そうね。温かくてほっとする……まるでカケルに抱き着いてる時みたいだったわ」


「村長に抱き着く……確かに似てました! 」


「わかる……わかります! そのままマスターに頭を撫でてもらってるようでした! 」

 


 何を話しているかまでは説教中で聞き取れなかったけど、ラビリンスの言葉に天狐とエレナがしきりに頷いていた。



 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「それじゃあ、村長さん村までの道案内よろしく頼むよ」


「はい。任せてください」



 騎士団の人たちは話し合いの結果、村に訪れることになった。そのため俺たちは案内のために村まで騎士団を先導することになった。

 

 村を訪れる理由としては、村で捕らえている夜鷹の爪の残党を引き取る他に、俺が村長になったルズール村の様子と三つの村から生き残った村人で作られた新しい村の様子を見るためらしい。


 今回は、そんなに急ぐことでもないのでそこまで飛ばさずに帰るつもりだ。村の方にはメッセンジャーとして影郎を先に行かせたので、今頃留守番している仲間たちに連絡が入っている頃だろう。騎士団が来るのだから喧嘩は全面的に禁止とした。


 ダンジョンで暴れて宴をやったばかりなのできっと大丈夫だと思う。



「バッカスが言ってたけど、飯が美味いんだって? 楽しみにしてるぞ」


「お酒はご用意できないですが、腕によりをかけて作りますよ」


「ほう、そりゃ楽しみだ」


 黒いユニコーンに乗ったルデリックさんは、馬車と併走しながら俺へと話しかけてくる。

 前を見てなくていいんだろうかと思うけど、ルデリックさんの乗っているユニコーンは随分と賢いみたいで、ルデリックさんの意図を汲んでそれに沿うように動いていた。


 というか、仮にも団長がこんな気さくでいいんだろうか……


 離れた所でクロイスさんが大きなため息をついているのを見て察した。よくないんだろう。



「そういや、ギルストファーから聞いたけどこっちに飛ばされる前は各地を放浪してたんだってな。どこを回ってんだ? 」


「色々ですね。砂漠だったり海だったり大森林だったり……そう言えば噴火の真っ最中の活火山にもいったことがありました」


 火山は中々の難所だった。戦闘の最中に頭上から火山弾は降ってくるし、マグマが流れてきて逃げる羽目になったりと大変だった。まぁ、その分スキルの鍛錬にはなったし、炎熱耐性はすごく伸びた。


「そりゃまた大冒険だな。何しにそんなところに」


 何をしにか……


「色んな世界を見て見たかったんです。あとそこに住む色んなモンスターと出会って仲良くなりたかったんです」


「くははっ! モンスターと仲良くか。実に魔物使いらしい性格をしてるじゃねぇか。村長やってるよりも冒険者の方が似合うんじゃないのか? 」


「あはは……まぁ、そうかもしれないですね。でも今は仲間と一緒に平穏に村で暮らすのも楽しいと思ってます」


「そうか。それでどんな奴と仲良くなったんだ。やっぱりサキュバスとかいるのか? どうなんだ、おい? 」


 ルデリックさんは、馬車の方へと体を傾けて聞いてくる。そんなに気になるのか顔がにやけてた。うわぁ……と内心引いていると、乗っているユニコーンも呆れたように嘶いた。


「あはははは……そうですねぇ――」



 それから俺はルデリックさんにせがられるままに村につくまで仲間のことを話すのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらく馬車に揺られた後、俺たちは村へと帰ってきた。

 レナ達やオストルさん達の歓迎をそこそこにルデリックさんとクロイスさんをある場所へと案内する。



「ここにいるのか」


「はい。牢屋がなかったので食糧庫になっていた地下室の一つを改築して牢屋にしました」


「そんなんで大丈夫なのか? 」


 床板の一部を外して露わになった地下へと続く階段をルデリックさんは眉根を潜めて覗き込む。


「改築の際に色々と手を加えたのでその辺は大丈夫ですよ。まぁ、説明するより見せた方が早いですね。ついてきてください」


 安心させるために俺は先に階段を降りて先導する。

 元食糧庫ではあるけれど、その中は明るく広い。

 総石造りの地下牢は、部屋一杯に緻密な魔法陣が刻み込まれて強力な結界を展開しているけど隠蔽されてるせいで傍から見れば、ただ格子で仕切ったようにしか見えない。


「ここが地下牢だ? 随分と明るくて綺麗じゃねぇか」


「それに食糧庫だったにしては頑丈な造りですね」


 どうやらルデリックさん達の目では、壁や床などに刻まれた魔法陣を見抜けなかったみたいだ。


「人間ずっと暗いところにいると体に毒ですし、病気になりますからね。それに頑丈じゃないとあの盗賊たちは脱走しちゃうでしょうから手を加えました」


「どうせあいつらは揃って絞首台だろうに結構なことだな。それで連中はこの中にいるん、だ……な? 」



 先へ進んでいったルデリックさんが格子の奥にいるだろう捕らえた夜鷹の爪の盗賊たちを見て固まった。


 どうしたのだろうと思って俺も近づいて格子の奥へと顔を向けて、その光景に絶句した。



 盗賊たちが黒くて巨大なスライムに襲われている光景がそこにあった。

 スライムから伸びる無数の触手に絡み取られて盗賊たちは、もがきながらも為す術もなく呑み込まれていた。



「な、なんだこりゃ!? 」


「ムイ!? あいつ、また勝手に……」


 ルデリックさんが動揺して腰の剣に手をかけるのを尻目に俺は、そんな地獄絵図とも言える見苦しい光景を作り出したスライムのムイに頭を抱えた。


 俺の声でこちらに気付いたのか無数の触手をうねうねと動かして盗賊を絡め取っていたムイは、その動きを止めて盗賊たちを解放する。そして、呑み込んでいた盗賊たちも外へと吐き出してその体を縮小させて少女の形を模った。



「綺麗にしてた。ゴミ、私の食事」


「何度も言うけど、せめて襲うような真似は止めなさい」


「ん、わかった。次からそうする」


 本当にわかってるのかはわからないけど、ムイはコクンと頷いた。

 スライムは総じて掃除屋と呼ばれるくらい雑食で、生物の死骸や排泄物なども糧としている。スライムに属するムイもその例外に漏れず、何でも食べれた。もちろん、普通に食事をすることはできる。


 ムイは、少女の形をしてはいるものの足元の水溜りのように広がった部分もムイの体の一部で、スライムは体の表面全てが口と言っても過言ではない。だから移動するときに床に落ちているものを取り込んで消化することもできた。


 そのおかげでというべきなのか非常に悩ましいのだが、村はどこも総じて綺麗だった。ムイは別にホムラのように大食漢というわけではないのだが、好んでそれを食べたがっているのかそれとも綺麗好きなのか、未だによくわかってない。


 盗賊を襲っていたのだって風呂に入ってなくて汚れた体の汚れを綺麗にするための清掃行為ではあるのだ。


 皆が欠かさず風呂に入る理由の一部には、ムイに襲われないためにあると言ってもいいのではないかと思うほどにムイは汚れた体を狙う恐ろしいハンターなのだ。



 というようなことを俺は、警戒するルデリックさんとクロイスさんに語った。


「そんな話を聞いたことはありますが……喋るスライムなんて初めて見ました」


「王都の貴族様の方でスライム風呂なんてけったいな美容法の話は聞いたことあるけど、まさかむさ苦しい男どもでその光景を目にするとは思わなかったぜ。どうせなら綺麗な姉ちゃんとかが良かったぜ」


 えっ、さっきムイがしたようなことをこの世界の貴族様はしてるのか。いや、確かにやられた被害者(盗賊たち)の肌を見るととても艶々でテカテカではあるけど……


「あー……貴族様の趣味はな。庶民の俺たちの理解では及ばないくらい崇高なんだよ」


 何と言っていいのか分からず言葉に出来ずにいるとルデリックさんはそんな俺に対して訳知り顔で、ポンと肩を叩いた。




ど う し て こ う な っ た



一応、服は着てました。


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