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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
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58 「村長の帰還」



「びぇええええ、マスター! 」


 エルフの里を出てダンジョンで待っていた仲間と合流するなり、ラビリンスが泣き付いてきた。

 

 顔を涙でぐじゅぐじゅにしながらしきりにマスターと呼ぶラビリンスをあやしてやりながら話を聞くと、目が覚めた時に見知った俺たちがいなくて周りにはダンジョンモンスターを一蹴するような人ばかりで、身の危険やら寂しさやら何やらで泣きだしたら止まらなくなってしまったらしい。

 

 面倒を任せていたシルフィーも泣き止まないラビリンスにどうしたらいいかわからなくて若干涙目だったので、一緒に慰めてあげた。


「ラビリンスはしばらくカケルと一緒に過ごした方が良さそうね」


「そうだな。慣れるまでは俺と一緒にいた方が良さそうだな」


 考えてみれば、ずっとダンジョンに籠っていて外に出たことがなく他人と会話したことのなかったラビリンスにとっては今は全てが未知であり、情緒不安定になりやすい状況だった。


「グスッ……子供扱いするなって言いたいのに否定できないです……」


 ラビリンスが俺のお腹に顔を埋めながら小さく抗議するが、本人の言う通りこの様子では確かに否定できないだろう。


「お前もずっとダンジョンに一人でいたんだからマスターの俺くらいには好きに甘えたらいいんだぞ」


「だから私をぼっちの引きニートみたいに言うなぁ……! ばかぁ……! 」


 そう言いながらギュッと抱き着く力を強めたラビリンスの背中をポンポンと叩いてやる。



 ラビリンスが落ち着くのを待って、俺たちはダンジョンを後にする。


 俺は、いつものように小鴉の背に乗った。ラビリンスも放っておけないので一緒に乗せている。大きな黒鳥に変化した小鴉に、ラビリンスはふわぁと涙で真っ赤になった目を輝かせて見惚れていたが、いざそれに乗るとなると不安なのかガチガチに固まっていた。


「小鴉、帰りも頼むな」


「こ、小鴉さん、よよよろしくお願いします」


「クァア! 」

 

 身体を強張らせながらも必死に俺の腰に捕まるラビリンスをチラリと視線を向けた後、小鴉は一声鳴いて翼を羽ばたかせた。


「ピィ!? 」


 重力に逆らって生まれた一瞬の浮遊感にラビリンスが悲鳴を漏らして俺の服を握る手に力が入った。万が一ラビリンスが落ちないようこちらからもしっかりと腕で抱え込んでおく。


 浮上する間はビクビクしていたラビリンスも飛行が安定する上空までくると落ち着きを取り戻して、上空から見える景色に魅せられていた。



「マスター! すっごくすっごく綺麗なのです。それに飛行機(・・・)よりも早いのです! 」


 ラビリンスが色白の頬を上気させて興奮した様子で話しかけてくる。先程まで泣いたり怯えてたのが嘘のように瞳を輝かせて楽しいでいる。


「ああ、そうだな。小鴉は仲間の中でも最速だからな」


「小鴉さんは、すごいんですね! 」


「俺の自慢の仲間だよ」


 そう言うと聞いていたのか小鴉が「クアッ」と鳴いた。勿体なきお言葉ですと言っているように聞こえたので、俺はポンポンと小鴉の背中を撫でておいた。


 ラビリンスの機嫌が直ったことにホッとしつつ、俺たちはしばし上空から見える景色を楽しんだ。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「うぅ……し、死んじゃうかと思いました。今まで乗ったジェットコースター(・・・・・・・・・)の何倍も怖かったです」


 俺に抱き着いたままプルプルと小刻みに震えるラビリンスに俺は苦笑を浮かべる。村に降りる際の垂直降下(落下)がよほど怖かったようだ。


「まぁ、なんだ。トイレ行かなくて大丈夫か? 」


 かける言葉が見つからず、降下中にラビリンスが「漏れちゃいます。これ漏れちゃいますー! 」と叫んでいたことを思い出して咄嗟にそのことを聞いてしまった。


 するとラビリンスは、初めきょとんとしていたが、段々と羞恥からか顔を赤くした。


「もうっ、マスター。レディに対してデリカシーがないですよっ」


 そう言ってラビリンスはポカポカと俺の脇腹を殴ってきたが、全く痛くなかった。


 それでもトイレには行きたかったようなので、そこまで案内してあげた。




「村長ご無事でしたか! 」


「村長おかえりなさいませ! 」


「村長おかえりー! 」


 ラビリンスをトイレに案内しているうちに、俺の帰りに気付いた村に残った仲間が周りに集まってきていた。


「なんじゃ村長、帰ってきとったんか」


 その一人一人を相手していると、頑冶も顔を出してきた。


「ああ、ついさっきにね。ただいま頑冶。いない間、何か問題は起きたりしなかったか? 」


「ふん、問題を起こすもん()がそっちに行っとったんじゃから平和そのものじゃったわ」


 頑冶の返しが最も過ぎて苦笑するしかない。


「そうか。こっちも何とか無事に終わったよ。頑冶たちが用意してくれた装備もとても役に立ったよ。ありがとうな」


「それが儂らの仕事じゃからな。どうせあやつらは乱暴な扱い方をしとるじゃろうからその装備の手入れで、これからまた忙しくなるわい」


「ははっ、いつもすまないな。頼りにしてるよ。あ、そうだ。頑冶に渡したいものがあったんだ」


 俺はそう言ってアイテムボックスの中に入っている純アダマンタイト(金剛鋼)の大剣を一振り取り出した。

 目の前に出現させたアダマンタイトの大剣は、重力に従って切っ先を下に落下し、その重量から踏み固められた地面にズプリと泥沼に刺さるような他易さで半ばまで突き刺さった。突き刺さった衝撃で足元が揺れる。

 

「ほぅ……随分と重たい剣みたいじゃのぅ。ん? まさか……いや、これは……! 」


 一目見て、その大剣が純度100%のアダマンタイトであると気づいた頑冶は、驚きと感嘆が入り混じった声を上げた。頑冶は、剣の柄を握って片手一本で地面に埋まった4トン近くある重さの大剣を引き抜いた。頑冶が引き抜いたことで、大剣の刀身が頑冶と同等の長さであることに気付く。

 俺の腰回りほどありそうな太い腕に力が入ってより一層太くなっているが、頑冶の表情は涼しいもので引き抜いた自分よりも大きな大剣を色々な角度からしげしげと観察していた。


「混じりっ気なしのアダマンタイトか……。道理で重たい筈じゃ。しかし、素材は良いくせに剣の出来は鈍らもいいところじゃな。魔法による急拵えの上に村長が作ったものでもなさそうじゃ……天狐といった辺りかな」


「よく分かったな」


「馬鹿にするでない。ここに残っていた儂らを除けば、この純度のアダマンタイトを扱えるのは村長と天狐くらいじゃ。あとは、創るよりも破壊するのが得意の者たちばかりときた。悩むまでもないわ」


 否定はできない。確かにダンジョンを攻略に関わった者たちは、モノ作りよりもそれを使って戦う方が得意な者ばかりだ。エルフの里にいた面子も、治療や調薬に長けていても鍛冶の心得はほとんどないからな。


「まぁ、それはともかく。今回の潜ったダンジョンではレアな素材がたくさん手に入った。それもその一つだ。戦闘の最中に剣にしてしまっているが、まぁ融かしてインゴットにすれば、また素材として使える筈だ」


「確かにのぅ。このまま使うよりも、融かして合金にしたりしてしまったが良さそうじゃな。悪くはないが、この重量では持ち歩くにはちと不便じゃからな」


 そう言いながら頑冶は、大剣を肩に担ぐ。いや、重くないかそれは。


 普段ステータスの高さを明確に実感することは少ないが、こうして目の当たりにするとその非常識さがよくわかる。人間重機と呼称したくなるほどの身体能力をしている。


「それで、他には何が手に入ったんじゃ。ダンジョンということは、魔石……いや、魔晶石といったところか? 」


「それももちろんあるぞ。他にも実体化したダンジョンモンスターの死骸に各属性の魔宝石の原石、金剛鋼の原石、それにゴーレムの核もあるぞ」


 そう言うと、周囲で聞いてた仲間の一部からワッと歓声が上がった。魔宝石は、魔法系統の技を使う時の触媒として幅広く使われているものだし、ゴーレムの核も操紫などが喜ぶ品だ。あと、単純にモンスターの肉という食糧が手に入ったことに喜んでいる者もいるようだ。


「なるほど、それは豊作じゃったの」


「ああ、あと種子(・・)も手に入った」


「なんと! それは真か!? 」


 それまで空いた手で悠々と長い髭を撫でながら聞いていた頑冶が、驚きの声を上げる。

 それ程までに、今俺が口にしたアイテムは、希少で有用だった。


「ううむ……。氾濫ともなれば、最深部まで行くことになるじゃろうとは思っておったが、まさか種子まで手に入れてくるとは……」


 驚きが覚めない様子で頑冶は、しみじみと声を出す。周りで聞いている仲間の中で、話している内容を理解してるのは、半々といったところだ。


「ああ、出来ればとは思ってたけど、こんなに上手くいくとは思ってはなかった。まぁ、何にせよ。これでダンジョンが作れるようになったな」


ダンジョンでラビリンスに聞かれて暈していたアイテムが、この種子だった。

 

 正式には、「ダンジョンシード」

 ダンジョンの根幹を為すダンジョンコアの素となるアイテムだ。このアイテムを使用することで、プレイヤーは、ダンジョンを新たに創造することが出来るようになるのだ。


 どのように活用しようかはまだ考えている最中だけど、その創り上げたダンジョンの管理は機を見てラビリンスに任せようかと考えている。




「マスター? 何が作れるようになったんですか? 」


 

 おっと、そんなことを考えていると用を済ませたラビリンスが、トイレから出てきた。



「いや、何でもないよ。それよりも丁度いい。ここにいるみんなには、先にお前のことを伝えておくか」


「何だ村長。また拾って帰ってきたのか」


「またってなんだ頑冶。人聞きの悪いことを言うな。この子は、新しく契約した仲間だよ。ラビリンスという名前で、先のダンジョンでダンジョンマスターをしていた奴だ。見ての通り、ひ弱で泣き虫で臆病で人見知りの子供だから怖がらせたりちょっかい出したりしないように」


 ラビリンスを傍に立たせてみんなに紹介すると、当の本人から抗議の声が上がった。


「マスター! 私がひ弱で泣き虫で臆病で人見知りな子供ってどういうことですか! 私これでも200歳超えてるんです! もう立派なレディですよ。お酒だって飲めるもん! 」


 確かにそう言われると子供ではないかもしれないけど、ひ弱で泣き虫で臆病で人見知りであることには変わらないな。それに精神的にも肉体的にも大人というより子供にしか見えない。


「そうだな。ラビリンスは立派なレディだな」


「ぜんっぜん心が籠ってないですよマスター! 大人ぶる子供を見るような微笑ましい目で私を見ないでくださいっ! それに頭を撫でるなぁ! 」


もーっ! と両手を振り上げてキャンキャンと吠えるラビリンスだが、撫でる手を振り払ってこない辺り可愛いなぁと思う。


「まぁ、こんな感じに接してあげれば可愛い奴だから、みんなも仲良くするように」



 俺とラビリンスのやり取りをニヤニヤと微笑まし気に見ていたみんなからは、元気のいい返事が返ってきた。



『ダンジョンシード』

別名「種子」

 ダンジョンコアの素となるアイテムで、ダンジョンを新たに創造するにあたって必要になるもの。

 ダンジョンでDPを消費して、生成することができる。消費するDPはそれなりに膨大だが、実体化したダンジョンモンスターが殲滅されたことで発生した莫大なDPで事足りた。

 また、ラビリンスの反応からしてその存在は、異世界ではあまり知られていない模様




ラビリンスとカケルを会話させると、他の仲間や天狐とは違う気安さがあって書き易い。


あと、段落を1マス空けるようにし始めたのですが、どうでしょうか? 個人的には、ない方が好きなのですが、感想でも時折指摘があったようにあった方が見やすい読者もいるようなので、試験的にですが始めました。好評なようであれば続けていきますし、投稿した話も手直ししていこうと思ってます。

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