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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
55/114

53 「村長のダンジョン改築」

「うぅ、乙女の裸を見られてしまいました……もうお嫁にいけない、よよよ。あ、この服スベスベで気持ちいい」


「何やってるんだよお前……」


「えへへ、また元の体に戻れるとは思ってなくて、つい……。見てくださいよマスター! ほら、肌ですよ。肉ですよ。ほっぺですよ! 唇ですよ! 目がありますよ! 鏡、鏡はどこに片付けてたっけ、私! 」


骸骨から少女の姿に変わったラビリンスは服を着て落ち着いたかと思うと、何故か袖を口元に当てて小芝居をしたりと先ほどまで命乞いをしていたのが嘘かのような暢気さだった。


よっぽど人の姿に戻れたことが嬉しいらしい。それがどうして骸骨になっていたのかまるで分からないが、その辺の話はおいおい本人から聞くことにしよう。


ちなみに、ラビリンスが着ているのは染色もしてないアラクネの長袖Tシャツだ。あいにくラビリンスに合う子供サイズの服の持ち合わせがなかったので、大きめのサイズを着ていてワンピースみたいになっている。



そんな浮かれたラビリンスも、「少し落ち着け」と小鴉から一言言われると、小動物のようにプルプルと体を震わせながら大人しくなった。


大丈夫大丈夫、もう小鴉は襲ってきたりしないから。ほら、刀から手を離してるだろう?


とソファの後ろに隠れたラビリンスを宥めて、恐る恐る出てきたラビリンスの相手を天狐に丸投げしたりしながら部屋のものをアイテムボックスにしまっていく。


仲間になったラビリンスを村に連れていくのは既に決定事項で、本人からも同意を得ている。

というか、一度もダンジョンから出たことがないらしくラビリンス本人は、ダンジョンから出れるとあってノリノリである。




「さて、部屋が片付いたことだしダンジョンの方に取り掛かるか。ラビリンス、お前も手伝え」


「あ、ふぁい! んぐんぐっ、わかりましたマスター! 」


天狐に餌付けされていたラビリンスに声をかけると、口一杯に放り込んでいた焼き菓子を咀嚼しながらパタパタと駆けてきた。


「はふー……二百年ぶりくらいのお菓子はおいしかったです」


そう言って幸せそうに顔を弛緩させるラビリンスの口周りには、焼き菓子の食べかすがついていた。


「それはよかった。しかし、がっつき過ぎてほっぺとかに食べかすがついてるぞ」


「ここですか? 」


「違う。こっちだ。ああ、俺がとるよ」


開きっぱなしにしていたアイテムボックスからハンカチを出して拭ってやる。


「わぷっ、ありがとうございますマスター」


「いいさ、しかし何で俺がマスターなんだ? 」


「? だってダンジョンマスターだし、私のマスターなんですからマスターですよ? ダメです? 」


「あーそういうことか……いや、お前の好きに呼んでくれたらいいよ」


「はいっ、マスター! 」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「「――起動」」


「わっ、わわわっ!? なんか目の前に出てきた!? なにこれっ!? 」



隠し部屋を出てダンジョンコアのある場所に戻ってきた俺たちは、早速ラビリンスと2人でダンジョンの再構築に取り掛かろうとしたところ、ダンジョンコアに触れたラビリンスが突然目の前に出現した仮想ウィンドウに驚いていた。


「何を驚いてんだラビリンス? 」


「ダンジョンコアに触れたらなんかいつもと違う反応が……ってマスターも! 」


こちらを向いたラビリンスが、俺の目の前に出現している仮想ウィンドウをさして再び驚く。


「あれ? このダンジョンを運営してたっていうからてっきり俺のようにしていると思ったけど何か違ったのか? 」


「全然違いますよ! 何ですかこれ! 私知らないですよっ! 」


どうもラビリンスが知っている方法とは随分と違うようだ。


気になって聞いたところ、ラビリンスが行っていた方法というのは、ダンジョンコアに触れることで経路(パス)を開いて脳に流れ込んでくる膨大な情報を整理して読み取り、場合によっては一部情報を改竄することで、ダンジョンにモンスターを生み出したり強化したり、罠を仕掛けたり、物を生み出したりするらしい。そして、その際に必要となるのがダンジョンコアに貯蓄された魔力、DPというわけらしい。


「そうなのか。知らなかったな」


そう言うと、ラビリンスから強く否定された。


「そんなことないです! ダンジョンコアに触れたことがあるなら脳に直接その手の知識を叩き込まれるはずです! 」



そう言われたので放置していたのを漁ってみると、確かにそのようなことの知識があった。


「あー、あったな。さっきいきなり脳に詰め込まれたものだからまだ確認できてないんだ。悪かったな」


しかし、知識はあるけど、この方法で実行しようと思ったらとても骨が折れそうだ。

とても人一人が処理できる量ではないように思う。



「え、さっきって……まさかマスター、ダンジョンコアに触ったのここが初めてなのっ!? 」


「いや、そういうわけではないんだが……まぁ、脳に色々詰め込まれたのは初めてだな。急に入ってくるからちょっと驚いたな」


「それでカケル、あの時驚いてたのね」


話を聞いていた天狐が合点がいったように頷く。


「ちょっと驚いたって……。私の時は、半日気絶してたのに……」


何故か、ラビリンスが俺を見る目が化け物を見るような目になっている気がする。


「どうかしたか? 」


視線が気になって声をかけるとラビリンスは、はっとなった表情をしてブンブンと首を左右に振った。


「いえっ、流石私のマスターです! ところで、結局これはどう使ったらいいんですか! 」


「ああ、そう言えばそうだったな。ざっと説明していくから、分からないところがあったら聞いてくれ」


「はい、マスター! 」


「まずは―――」



そして、二十分くらいかけてラビリンスに、ダンジョン作成の画面の見方と操作方法を教えていった。








思わぬところで、時間を浪費したがラビリンスの理解は早く「これがあれば、あれほど苦労しなかったのにー! 」と嘆きながらも、元々の根本的な知識はあったためかすぐに補佐をする分には問題ないくらいにはなった。


よく考えれば、この画面で自動処理されていた諸々の情報を全て、今まで一人で処理していたというのだから、ラビリンス実はすごく頭がいいのかもしれない。


この性格や見た目のせいで忘れそうになるが、もう300年以上もこのダンジョンでダンジョンマスターをやっていたそうだし


そう言えば、ラビリンスの種族であるサブダンジョンマスターについて聞いたことのない種族だったので、本人に聞いてみたが、本人自身もよくわかってないらしい。



それでこのダンジョンの前任者であるラビリンスからたまに話を聞きながら、ダンジョンに手を加えていった。


今回のポイントとしては、瘴気に偏ってしまったダンジョン内部の環境を整えることと、エルフたちがダンジョンの浅い場所を子供たちの鍛錬の場として利用していると聞いているのでそのバランス調節を簡単にだが行った。


まぁ、瘴気に関しては大本の原因である封魔の大岩もネクロドラゴンも取り除かれてるので、ほとんど手を加えることはない。瘴気を発する変異体たちも俺の仲間があと数時間もあれば根絶してくれるだろう。


ダンジョンマップに表示されてるダンジョンモンスターたちの無数のマーカーがものすごい勢いで消えていってるからな。


「ああ、私の魔獣たんたちがー……」とラビリンスは横で嘆いているけど、実体を持った上に瘴気に侵され変異して著しく知性を落とした魔獣たちは、ラビリンスの言うことを聞くどころか躊躇いもなく襲ってくる存在なので、嘆いても仕方がない。実際、ラビリンスも今の狂った魔獣を根絶することには割り切っている。



そう言えば、ダンジョンコアの記録からアダマンゴーレムとジュエルゴーレムを俺たちが倒した件について知った時は、「私のゴーレムたん達がーーー!! 」と吼えていた。そのあとネクロドラゴンも含めて俺たちの戦闘記録まで見たのか、俺たちをまた化け物を見るような目で見てきていた。


その目はやめろ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「――実行、っと」


三時間ほどかけて、やっと終わった。ダンジョンコアの表面に魔法式が浮かび上がり書き換えが行われ始めたのを眺めながら、俺は開放感から大きく伸びをする。



「ん~~っ、ラビリンスもお疲れ。助かったよ」


「はい、お疲れ様ですマスター! ……でも色々とずっこいですよマスター」


返事を返しつつもラビリンスは、俺への不満から頬を膨らませて不貞腐れてる。


そう言われても階層をノーコストで増やしたり拡張したり、ダンジョンモンスターに補正が入って強化されたり、罠やいわゆる宝箱のコストが抑えられたりしたのは全部スキルによる補正だ。


ずるいと言われても【ダンジョン】の熟練度が上がったら勝手にかかる補正だからお前も頑張れとしか言えない。それに今回に関して言えば、ダンジョンの難易度を上げる気はなかったので、モンスターの強化などほとんどの補正はカットしている。


「まぁ、お前も頑張ればできることが増えていくさ」


宥めるようにラビリンスの頭をポンポンっと撫でる。

ラビリンスは、固有スキルとして俺の【ダンジョン】と似た【迷宮創造(ダンジョンメーカー)】を所持しているので、そのスキルを育てれば俺以上にできるようになる可能性がある。


不貞腐れずに頑張ってほしいと思う。



「そう言えば、マスター。さっきDPを使って創造したアレは何なのですか? 」


「ん? ラビリンスは知らないのか? 」


「はい、見たことなかったです。何なのですか? 」


意外だな。

ダンジョンとしては重要なものだし、てっきり知っているものとばかり思っていたが、知らないのか。


ふーん……


「あれはだな………そうだな。秘密だ」


私気になりますっ、といった表情で見てくるラビリンスについ悪戯心が沸いてしまった。


「えーっ。何で秘密なんですかっ! 」


「それは………秘密だ」


「もーっ! マスター私のことからかってるでしょ! 」


「ばれたか」


「もーっ! 」


からかわれて怒ったラビリンスが、ポカポカと叩いてくる。しかし、骨のように細い腕の見た目に反さずラビリンスの非力さでは、痛くも痒くもなかった。


「はははっ、そう怒るなって。また使う時になったら教えるよ。それまでのお楽しみだ」



そうしてじゃれていると、隠し部屋の方からご飯ができたことを告げる天狐の声が聞こえてきた。

俺たち二人が作業している間、天狐たちは暇だったのでご飯を頼んでいたのだ。


「っと、ちょうどいいところでご飯が出来たか。ラビリンス、機嫌直して食べに行くぞ……っていねぇ」


ラビリンスに声をかけようと思ったら、あいつはすでに「ご飯ーっ」と叫びながら隠し部屋に駆け込んでいた。




「まぁいいか。小鴉行くぞ」


「御意」


気を取り直して部屋の隅で待機していた小鴉に声をかける。

小鴉は、軽く頭を下げると俺の傍にくる。


傍にきた小鴉に俺は少し気になっていたことを尋ねた。


「小鴉、ラビリンスのことは嫌いか? 今でも殺したいか? 」


「……いえ、仲間になった以上特にそう思うことはありません」


そこで小鴉は一旦言葉を区切り、少しの時間を置いて「……ただ」と言葉を続けた。


「村長を害するようであれば、死なぬ程度に斬り捨てる所存」


「……そうか。まぁないとは思うがその時は頼りにしてるよ」


「……ハッ」



そんな時、隠し部屋の方からいつまで経ってもこない俺たちに痺れを切らしたのかラビリンスの声がしてきた。


「マスター? 早くしないとご飯冷めてしまいますよー」



「ああ、今行くよー! ……とりあえず、ご飯食べに行こうか」


「……ハッ」



今週で三話目の更新!


褒めて褒めてー

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