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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
52/114

50 「村長たちの死線」

ちょっとだけ眠るつもりが、自分が思ったよりも疲労していたようで、結構な時間眠ってしまった。


ダンジョンの中では時間の目安となるものがないため自分自身では分からないのだが、小鴉が言うには4時間くらい眠っていたらしい。


その間ずっと天狐に膝枕をしてもらっていたようで、有り難いやら恥ずかしいやら……


当然、天狐には感謝している。



「村長、これを……」


「ん? ああ、回収してきてくれたのか。ありがとな小鴉」


「ハッ! 」


倒したネクロドラゴンからは、直径一メートルはあろうかという程の透き通った紫色の巨大な魔晶石がドロップした。それをクレーターから運び出してくれた小鴉は、それを片膝をついて頭を垂れて恭しく渡してきた。


「何度も言ってるけど、小鴉はもう少し気楽でいいからね? 」


「ハッ、勿体なきお言葉です」


だから固いって。


言葉に出さないまでも内心ツッコミをいれる。相も変わらない固さが取れない小鴉に苦笑しつつ巨大な魔晶石に目を向ける。


魔晶石は、魔石の上位互換であり高純度の魔力が結晶化したものだ。これ程の大きさとなるとゲームの時でも中々お目にかからない特大サイズだ。流石竜種の中でも上位種にあたるネクロドラゴンというべきだろうか。


魔晶石は、秘境の最奥で採掘できる他にダンジョンの階層ボスやダンジョンボスなどからしか手に入らない貴重な素材で、ゴーレムの核や様々な魔導具の動力源として必要となる素材だ。他にも砕いて粉末状にして衣服や防具の強化を施すときの触媒としたり、杖などの魔法の補助道具の要となったりと使い道は広い。

この劣化素材である魔石も、魔晶石の下位互換として使えて、魔晶石とは違いダンジョンに潜れば簡単に集めれるためよく魔石集めのためだけにダンジョンに潜ったものだ。


この世界だとどうかはわからないが、少なくともゲームの時はダンジョンで出現するモンスターの大半は倒すと身に着けていたものと魔石だけをドロップして、稀に体の一部がレアドロップとして残る類だった。

モンスターはダンジョンから生成されてから時間が経過すればするほど、体の一部を落とすレアドロップ率が上がり魔石の品質が下がる傾向がある。氾濫が起きるまでなると大抵のダンジョンモンスターは、もうダンジョンの外のモンスターと変わらなくなり、倒しても消滅することはなくなり解体を行っても魔石もほぼ入手できなくなってしまう。


例外は、ダンジョンボスや階層ボスといった魔晶石を落とすモンスターであり、他のダンジョンモンスターと違い元々倒しても消滅することなく解体が行えて確実に手に入る魔晶石以外にもモンスター素材が手に入る。氾濫が起きた時も変わらずボス部屋にいるというのも他とは違う点だ。


まぁ、今回の場合は、灰と戦闘中に砕けた骨の破片しか残ってない。この世界は仮想ではなく現実だから倒す過程で燃やしちゃったのだから当然といえるのだろうけど、ネクロドラゴンから採れる素材はいろいろ有用だったので、終わったからこそ考えられる余裕だとはわかってはいるものの、少し残念に思えてしまう。


魔晶石は、問題なくドロップしたのだから上等だろう。



「取り敢えず、腹が減ったな。先に何か食べてからいこうか」


「ウォン! 」


そう提案すると、真っ先にポチが賛成とばかりに大きく咆えた。白銀の尻尾がばっさばっさと激しく左右に揺れている。

他のメンバーからも反対はなく、俺たちは食事をとった。


ポチは、アイテムボックスから出した牛一頭分くらいある生の大きな肉塊に齧りつき、他のメンバーは作り置きしていた料理を出して食べた。天狐が前に作ってくれたコンソメスープを出すと、ポチが寸胴ひとつ分飲み干してしまった。


戦闘前だから他のメンバーは軽く済ませてるのに、大丈夫かな?

満足そうに口周りをベロンと舌で舐めるポチを見て少し心配に思う。

まぁ、ポチの巨体から考えると大丈夫……なのか? 平気そうなので、気にしない方向に決めた。



睡眠と食事を十分にとったことで心身ともに準備万端。スキル的な制限もすべて冷却時間を終えていつでも再使用な可能な状態となっている。ゴブ筋の盾や小鴉の武器の耐久値の回復も終えているし、念のためポチ以外には各種ポーションなどの薬を持たせてある。万が一ポチが状態異常になったりしても俺がフォローするし、無理なら小鴉辺りがカバーに入ってくれるだろう。


うん。いける筈だ。


最悪の場合のことも念頭に入れた上で俺は、大丈夫だと判断する。

先に仲間たちにありったけの補助魔法をかけてしまう。


「よし、いくぞ」



「はい」「おう! 」「はっ! 」「ウォン! 」



そして、俺たちは門を潜って十階層へと続く階段を降っていった。





―――十階層


ダンジョンの最奥にしてダンジョンボスが座す十階層は、先程の闘技場のように円形状の広場だった。


直径は、目測で300メートルといったところだろうか。違う点は、地面は堅い石造りの床で、広場をぐるりと囲うように壁画が描かれた壁で覆われていた。天井までの高さは、闘技場よりも高く50メートル近くありそうだった。


そして、その中央には15メートルはあろう二体の巨像が鎮座していた。


片方は魔宝石の原石が混じった中には特大サイズとしか言えない直径一メートルを超える魔宝石が体の各所に埋め込まれている石像で、もう片方は、装飾が一切ない重厚な作りの石像だった。手には武骨な作りの石造の大剣が握られていた。



どう考えても、ゴーレムです。ありがとうございます。



しかも、見た目からして明らかに並みのゴーレムを凌ぐ化け物である。

まさかとは思うけど武骨なつくりの石像の方は、金剛鋼(アダマンタイト)の原石じゃないよな?



……いや、現実逃避はやめよう。どう見ても金剛鋼の原石だ。



金剛鋼の原石で作ったゴーレムってなんだよ。試すまでもなくとてもつもなく硬いことが予想できた。生半可な物理攻撃では、傷つけれないだろう。

対して各種魔宝石の原石が混じったゴーレムの方は、生半可な魔法攻撃は効かないことが予想できた。


取り敢えず、二体のゴーレムのことは、アダマンゴーレムとジュエルゴーレムと呼称しようと思う。


ダンジョンボスに関しては、アリシエルさんたちも知らなかったし、階層ボスやダンジョンに出てくるモンスターから魔獣や竜の類だろうと予想をつけていたが、宛てが外れた。


厄介な敵ではあるが、戦わないわけにはいかない。


無言で天狐たちにいけるか? と視線を送ると、すぐにいけるとやる気に満ちた真剣な視線で返された。



広場に足を踏み入れると、階段の前の門が閉まり逃げ道がなくなった。


中央に佇んでいた二体のゴーレムの瞳に光が宿り、ゴゴゴゴゴゴと音を立てながら動き始めた。



最初に動きを見せたのは、ジュエルゴーレムだった。


ジュエルゴーレムは、右腕を振りかぶると握りしめた拳を地面に叩きつけた。

地揺れのような衝撃波と共に硬い床が隆起したかと思うと、床から先が尖った岩が次々と生えてきて、それが真っ直ぐに物凄い勢いでこちらに向かってきていた。


「散開ッ! 」


早速魔法攻撃かよっ!? と内心叫びながら全員その場から左右に散る。

タッチの差で、さっきまで立っていた床から四方に飛び出すように先が尖った岩が生えてきた。


今のは体に埋め込まれた土属性の魔宝石を使った攻撃だろう。やはり、ジュエルゴーレムは魔法を使ってくるようだった。



「皆、それぞれの判断で行動しろ! 」


「はい! 」「おう! 」「ハッ! 」「ウォン! 」


この戦いでは指示を出す余裕はないので、みんなの判断に任せた。


指揮を投げたともいう。ゲームの時とは勝手が違うから、こういう少数戦闘の場合に限ればこちらから下手に指示を出すより皆の判断で動いてもらう方が早かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




まだ右腕を地面に振り下ろした態勢から戻りきれてないジュエルゴーレムにポチが接近する。


「アォオオン! 」


咆えたポチの体から白い冷気が立ち昇り、魔氷の鎧がポチの体を覆う。


ポチが、ジュエルゴーレムの眼前にまで迫った時、ジュエルゴーレムはぐるりと頭だけをポチへと向けた。

ゴーレムの目がカッと白く光ると目から光線が飛び出した。



咄嗟に飛び退いたポチを追うようにゴーレムは首を回して光線を横薙ぎに照射する。


「ギャン! 」


避けきれなかったポチから悲鳴が上がった。魔氷の鎧のおかげでいくらかか減衰できたものの腹部に一筋の傷が刻まれ傷口から溢れ出た血で白銀の毛が赤く染まる。


「グルルゥ……ウォンッ! 」


ジュエルゴーレムから距離をとったポチは、歯茎をむき出しにして唸り声を上げると体から白い冷気が立ち昇り、ポチの周りに十数もの巨大な氷柱が生じた。

ポチが鳴くと、氷柱は引き金が引かれた弾丸のようにジュエルゴーレムへと次々と飛んでいった。


ジュエルゴーレムが左腕を動かそうとするよりも早く、一発目の氷柱がジュエルゴーレムの顔面に直撃する。その後も二発、三発と氷柱がジュエルゴーレムの体に当たるが、ゴーレムの動きは阻害されず左腕が振るわれる。


振るった直後に左腕から炎が迸りジュエルゴーレムの眼前に炎のカーテンが生じた。

炎のカーテンに触れた氷柱は次々とジュッと音を立てて蒸発していき、炎のカーテンから抜けることはできなかった。


ジュエルゴーレムの視界が炎のカーテンで遮られた時、ポチは再び前へと駆け出していた。


「アォオオン! 」


ポチの体から冷気が立ち昇り、より強固に魔氷の鎧が体を覆い、魔氷の爪が長く鋭くなる。


空中をしっかりと踏みしめてポチはジュエルゴーレムに飛び掛かった。


斬 ッ!


炎のカーテンを魔氷の爪で切り裂き、ポチはジュエルゴーレムの胸部に深々と爪痕を刻んだ。


その時、ジュエルゴーレムの胸部が不自然に波打った。


ボコッ!


ジュエルゴーレムの胸部から先端が尖った石が生えて眼前のポチへと飛び出した。避けきれないと悟ったポチは口を大きく開けた。


「ガウッ! 」


バキバキボキ!


ポチは、飛び出してきた石を半ばからすべて噛み砕いた。


「ぶっ」


そして、空中を蹴ってジュエルゴーレムから距離をとったポチは、口から噛み砕いた石を吐き出した。



「助太刀いたす」


「ワフッ 」


ポチの横を小鴉がそう言い残して通り過ぎた。お好きにどうぞとポチは鳴く。




ポチに代わって前に出た小鴉は、翼を広げて地を這うように飛びながらジュエルゴーレムに接近する。

ジュエルゴーレムは、右腕を振りかぶって地面に振り下ろす。


ジュエルゴーレムの眼前の床が隆起して三メートルの岩壁となる。


「押し通る! 【斜め十字居合斬り】」


小鴉は、鞘から太刀を抜き放った。


斬、斬 ッ!


岩壁は深々と斜め十字の亀裂が刻まれ、崩れ落ちる。

障害を正面から突破した小鴉にジュエルゴーレムは、驚くことなく機械的に反応する。


小鴉に向けられたジュエルゴーレムの目から光線が飛び出した。


「……。【闇渦(ダークヴォ―テク)】」


ボソリと小鴉が呟くと小鴉の眼前に真っ黒い渦が生じ、照射された光線を呑み込んだ。


――【瞬き】


その場から小鴉の姿がブレて消える。一拍置いてジュエルゴーレムの背後に小鴉は現れた。

背後の小鴉の存在をすぐに察したジュエルゴーレムは、グルンと背後に頭を回そうとして頭が首から転がり落ちた。


直径一メートルほどあるジュエルゴーレムの頭は、硬い床の上に落ちて硬い音を響かせながら軽く跳ねて転がる。


そこへポチが狙ったかのように現れて、ジュエルゴーレムの頭を玉遊びよろしく頭で掬い上げるようにしてあらぬ方向へと弾き飛ばす。


「ガァアアアア」


―――【凍える息吹】


ポーンと宙を舞うジュエルゴーレムにポチは、極寒の冷気を吐き出して氷漬けにしてしまった。


氷漬けにされたジュエルゴーレムの頭は、そのまま飛んでいき余波で氷漬けにされた床の上に落ちて、そのまま広場の隅へと転がって行ってしまった。



ジュエルゴーレムは、しばらくオロオロと自分の頭を探すように虚空に手を泳がせていたが見つからないとわかると、両腕を振り上げて地面に叩きつけた。


大地が震え、地面が隆起し至る所から石柱が飛び出し、火山が噴火したかのようにジュエルゴーレムが叩きつけた床から溶岩が溢れだした。


「ぐっ……! 」


空を飛んでいた小鴉は、次々と飛び出す石柱を避けそこなって翼を穿たれ墜落してしまう。




それは、アダマンゴーレムと戦っていたカケルたちにも牙を剥いた。


「きゃあ!? 」


「うわっ! 天狐大丈夫か!? 」


「村長、避けろっ! 」


アダマンゴーレムと対峙していたゴブ筋たちの足元に狙ったかのように石柱が突然飛び出し、神通力でアダマンゴーレムの動きを封じてた天狐が反応が遅れて腹部を強打した。

弾き飛ばされた天狐に気をとられたカケルに、天狐の神通力から解かれたアダマンゴーレムが握りしめた大剣を振り下ろす。


咄嗟にカケルは、手に持った杖を盾にしようとして魔法障壁ごと圧し折られる。

アダマンゴーレムの振るった石造の大剣は圧し切るようにカケルの左腕を切り飛ばした。


傷口から鮮血が噴き出し、左腕が宙を舞った。



斬り飛ばされた左腕は、高々と宙を舞い、ジュエルゴーレムの傍の硬い床にドサリと落ちた。

流れ出た溶岩に触れてボッと燃え上がった。



「ぐぁあああああああ!? 」


「村長! 」



左腕を失ったカケルは、傷口を抑えながら激痛から悲鳴を上げてその場に崩れ落ちるのだった。



【斜め十字居合斬り】

【刀】で覚える武技


鞘から刀を抜き放って高速の二連撃。刀に限らず剣ならば補正にマイナスがかかるが使用可能な武技。

ただし、攻撃の始動で鞘に入っていることが絶対条件。鞘から抜いた状態では発動しない。

鞘に納刀していれば、高威力なのに冷却時間が二秒程度で、消費MPも少ないとあってかなり使い勝手がいい。

居合系のアーツは、総じて高速高威力かつ冷却時間が短い傾向にある。難点は、慣れないうちは納刀の瞬間が隙だらけで危険だということ。



闇渦(ダークヴォ―テク)

【闇魔法】で覚える呪文


【光魔法】の光線系統の技を大きく減衰または無効化する。【火魔法】の光線系統の技も半減させる。

ただし、減衰する際にMPを消費するので、多用するとMPがすぐに枯渇する。


【瞬き】

【高速飛行】で覚える武技


短距離を瞬間的な速度で移動する。

体当たりや切り抜ける時に併用すると威力が増す。

発動条件として飛行している時であること。


同名称が【歩法】でも覚えれる武技に存在するが、【歩法】で覚えるのは、地に足がついていることが前提である。別の武技やスキルを併用することで空中を足場にして使用することもできるが、あくまで足を使って移動する技である。

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