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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
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47 「村長たちのダンジョン攻略」

 里からダンジョンまでは直線距離にして1キロほどあり、そこは周りを森で囲まれた草原であり、ダンジョンからモンスターが溢れだした今は戦場となっていた。


 しかし、カケルたちが里で話を終えて戦場に到着する頃には、そこでの戦いは終わりを迎えていた。


 仲間が盛大に暴れたことによる影響か、天変地異が起きたのかと思うほどの爪痕が戦場のあちこちに残り、そんな天変地異の如き暴力に晒されたダンジョンモンスターたちは死屍累々といった様子で草原に倒れ伏していた。


 里に向かう際に見た草原の半分程を埋め尽くしていた何百何千といった数のダンジョンモンスターたち全てが息絶えていた。


 五千近い数のモンスター達の死骸は、草原を血で赤黒く染め上げ、血の池を作りだし、血と臓物と獣の臭いが混ざりきった強烈な死臭を辺りに撒き散らしていた。



 これが戦場。これが戦い。



 その光景に何かを想うよりも先に戦場から立ち昇る死臭が俺の思考を停止させた。


 肉屋に持ち込まれたシカやイノシシを解体する時の臭いを何百倍にも増幅し凝縮したような臭い。村の解体場の臭いを何十倍にも増幅し凝縮した臭いだった。



 それは、はじめてレナ達の村に訪れた時に嗅いだ臭いと似ていた。



「……ッ!? 」



 そう認識した瞬間、 フラッシュバックのようにあの時の村の惨状を鮮明に思い出してしまい、俺は右手で口を押さえて込み上げてきた吐き気を堪えた。



 心臓の鼓動が乱れ、呼吸が乱れる。ギュッと目を強く瞑るが、瞼の裏には村の惨状が焼きついて離れなかった。


 村人の蛆の湧いた空っぽの瞳が、俺を見てきていた。



「―――ッ」


 口を押えてるせいか呼吸が上手く出来ない。盛んに空気を求めるように俺の胸は激しく上下する。胸が苦しく、左手で胸を押さえる。



 何も考えられない。


 思考が空転する中、頭の中では繰り返しあの時の光景が流れ続ける。



――これはまずい。



 頭の片隅にいる冷静な自分が落ち着けと叫ぶも意味を為さない、自分一人ではこの流れは止めれなかった。



 異変に気付いた小鴉が何かを言ってきている気がするが、その内容を理解できない。



 ドロリとした負の感情の奔流が俺を呑み込み、俺は為す術もなく―――



「カケル!! 」




 俺の名を呼ぶその声に俺の意識は負の感情の奔流から掬い上げられた。



 閉じていた目を開け、周囲を見ると傍に天狐がいた。



 こちらを見る天狐は、心配そうな顔をしていた。


「カケル大丈夫? 随分と顔色が悪いのだけれど……」


 飛行する小鴉の横を並走する天狐は、俺に近づき背中に手を置いてゆっくりと撫でてくる。

 服越しにじんわりと伝わってくる天狐の温もりに、乱れていた心臓の鼓動が落ち着きを取り戻す。呼吸が落ち着き、胸の苦しみが和らぎ、繰り返されていた悪夢が霧散していく。


 

 気付いたら俺は、温もりを求めて天狐を抱き寄せていた。


 天狐は何も言わず、背中に回した手で背中を撫で続けてくれた。







 3分程で落ち着きを取り戻した俺は、天狐の肩に手を置いてそっと天狐を引き剥がした。


「……もういいの? 」


「……もう大丈夫だ。ありがとう天狐、お前のお陰で大分楽になった」


「カケル……無理しなくていいのよ? ダンジョンは私達だけに任せても――」


「いや、ダンジョンには俺も行く」


 天狐の言葉に被せるように俺は答える。俺がプレイヤーであるからこそダンジョンに行く必要があった。より正確にはダンジョンの最奥、ダンジョンコアがある場所に。


 それは天狐たちでダンジョンを制圧してからでも遅くないのだが、俺は天狐たちだけにダンジョン攻略を任せるつもりは毛頭なかった。これは、もう俺の意地であり、我儘だった。


「それよりも天狐が来てくれたってことは、ゴブ筋たちももう来ているのか? 」


 まだ何か言おうとしていた天狐が言葉を口に出す前に俺は天狐にそう尋ねた。


「……ええ、すでにダンジョンの前で待機してるわ。ゴブ筋たち以外は森に散ったモンスターを追うグループと先んじてダンジョン内部のモンスターを掃討するグループの2つに分かれて行動しているわ」


「そうか……」


 天狐たちは、空を飛んできた俺たちとは違い森の中を抜けてきた。

 主だったメンバーは、ポチたち探索班と飛行を得意としない亜人や魔獣の仲間達で、天狐にはそこの指揮を任せていた。その中にはゴブ筋もいたが、ゴブ筋がリーダーを務める警備班(解体班)は村に残って手薄となった村の守備についていた。


 今回のエルフの里の加勢には、総勢約三百人の仲間が参加していた。


「……村長、もうすぐ到着します」


 小鴉はそう言うと、目前となったダンジョンの入口前へと降下していった。






 ダンジョンの前で待っていてくれたゴブ筋とポチと合流した。


天狐、ゴブ筋、ポチ、小鴉。


 今回のダンジョン攻略は、このメンバーで行うつもりだ。



「みんな、よろしく頼む」


 俺は、集まった4人に対して頭を軽く下げて頼む。


「ええ、任せて」


 天狐は、いつもの着物の上に魔鋼製の籠手を身に着け、身の丈を超える三メートルの薙刀を持っている。俺が同行することにもう反対することはなく決然とした様子で頷く。


「……敵の攻撃は全て防いで見せる」


 ゴブ筋は、全身を金属鎧で覆い巨体を覆い隠すほどの巨大な盾とゴブ筋の身の丈に合う大剣を装備している。ゴブ筋の装備は、朝稽古で使用していた鋼鉄製のものではなく魔鋼と少量のアダマンタイトを混ぜた合金を使ってある。

 すでにピリピリとした雰囲気を醸し出して気合十分だった。


「ウォン! 」


 元気よく吼えるポチは、待ちきれないとばかりに尻尾を盛んに振っていた。

 一見、白銀の毛で覆われたポチの体には何も身に着けてないかのように見えるが、前足と後ろ足には毛で隠れてしまっているが緑がかった銀の足輪を嵌めていて、氷属性の魔宝石がいくつもはめ込まれた首輪をしていた。


「はっ! この身にかえてもお守りします」


 そう言って1人だけ片膝をついて畏まった礼をとる小鴉は、人の姿に戻っていた。

 その姿は、この世界に来てから見慣れた忍び装束で、太刀と小太刀の2本の刀を腰に差していた。



 そして、俺は軽鎧と言われる要所を金属プレートで補強した革鎧を身に着け、腰に剣、手には木の杖を持っていた。



 このメンバーで、ダンジョンに潜るのは随分と久し振りで懐かしくも感じる。いや、そもそもダンジョンに潜ること自体が久し振りだ。




 さっきまで戦場の光景で取り乱していたにも関わらず今は逆に気分が高揚している気がする。血の匂いにも慣れて気にならなくなった。今まで戦えるか不安だったが、今ならわかる。



 俺は戦える。



 俺ってこんな性格だっただろうか? 龍源(問題児)たちに少し毒されたかもしれない。



 だが、それでもいい。ぶるって動けなくなるよりは何倍もマシだ。



「よし、行こう。この氾濫を止めに行くぞ! 」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ダンジョンの氾濫が起きないようにする確実な方法は、ダンジョン最奥にあるダンジョンコアを弄って氾濫が起きないように設定してしまうことだ。


 では、氾濫が起きたダンジョンを鎮める方法はどうするか?


 答えは簡単である。間引きをすればいいのである。


 しかし、言うのは簡単であるが実に面倒なことではある。


 何せ氾濫はダンジョンの中にモンスターが増えすぎたために地上に溢れ出てしまう現象なのだ。


 モンスターの数はダンジョンの規模にもよるが一部屋で一階層しかない最少規模のダンジョンでも一度氾濫が起きると、ダンジョンから数十体のモンスターが溢れ出てくる。今回、氾濫が起きたダンジョンは、里長のアリシエルさんの話では、解放されていた上層の3階層を除いて封魔の大岩で出入口を塞いでいた下層は、ダンジョンボスが座す最下層まで6階層あるらしい。つまり、ダンジョンボスがいる最下層と上層含めて全10階層からなるダンジョンなのだ。そして、一階層ごとの広さは話に聞いた上層の様子からして約一キロ四方にも及ぶ広大な広さであると考えられる。


 さらに言えば、封魔の大岩で上層に上がることができず、探索者から駆除されることなく百年以上閉じ込められ増え続けていたのである。


 約一キロ四方の広さの6階層分にモンスターが限界以上にぎゅうぎゅうに詰められていたのである。その数は、数千どころか数万、下手すれば十数万の規模になっていると考えられた。


 そこまでに膨れ上がったモンスター達が地上に出てくることを考えればまさしく氾濫と呼ぶにふさわしい事態だ。


 では、そんな氾濫にどう対応して間引けばいいのか、これまた答えは簡単である。



 数には、数をぶつければいいのである。




「【召喚(サモン)風精の戦乙女シルフ・エレメンタルヴァルキリー】いっけー! 私の可愛い子供達! 狂ったモンスターたちなんか切り刻めー! 」


「「「「イエス、クイーン。この身、この剣は主に仇名す敵を屠るために在る――! 」」」」


「【眷属作成(モンスタークリエイト)黒骨獣ブラックスケルトンビースト】……こんなものか。喰らえ、そして仲間を増やせ」


「「「「カタカタカタカタカタカタ――!! 」」」


「あんまり趣味じゃないんだがな……まぁ仕方ねぇか。【軍団召喚(サモンア―ミー):悪魔の軍勢】てめら! 獣の宴を始めるぞ! 」


「「「「うぉぉおおおおおお!!! 」」」」


「儂もちっとばかし貢献しとくかの。【召喚(サモン)地竜(グランドドラゴン)】まぁ、適当に暴れとけばよい」


「グゥラァァアアアアアアアア!!! 」



 数に対抗する為に仲間達は各々の眷属を呼び出した。


 風精霊たちが魔獣を切り刻む。倒れ伏した魔獣たちが瞬く間に朽ち果て黒い骨となって蘇り、魔獣を襲いさらに仲間を増やす。悪魔王の影から止めなく悪魔たちが溢れだし、耳障りな笑い声をダンジョンに響かせながら魔獣を弄ぶ。たった1体の地竜がダンジョンを走り、その巨体と頑丈さで魔獣を轢き潰す。


 

 敵が数万数十万いようと関係ない。こちらもそれに合わせて味方を増やせばいいのだから。


 下層から溢れ出てくるモンスターたちは、上層で仲間とその眷属たちによって次々と倒されていっていた。撃ち漏らしもなくしっかりと食い止めれていた。



 このまま任せておいても問題はないようだった。



 それを確認した俺は、天狐たちパーティのメンバーに【見えざる存在パーフェクトインビジブル】【消臭(デオドラント)】【韋駄天】などいくつかのバフをかけた上で【隠密】を発動して、モンスターたちに自分たちの存在を感知されないように手を尽くしてから下層へと降りていった。




風精の戦乙女シルフ・エレメンタルヴァルキリー

風精の女王に仕える中位精霊の戦乙女。羽飾りの戦兜を被り、鍔に羽の意匠が施されたロングソードを持っているのが特徴であるが、その武装は精霊の体の一部が変化したものなので半物質である。そのロングソードを模した武器は半霊体であるため、普通の盾をすり抜け肉体を斬り裂くなど厄介な特徴を持っている。

また、風の精霊であるため矢の類は届かず、とても素早い。

しかし、体を散らされてしまうと消滅してしまう脆さがある。



黒骨獣ブラックスケルトンビースト

黒骸が魔獣の死骸を糧に生み出した死霊。

多くの死霊にとって致命傷となる陽光に対して耐性を持つ。火属性の攻撃にも若干強くなっている。

素早く、明確な意思を持たず死を恐れない為、捨て身の特攻を集団でしかけてくる。

構成された八割の骨が破壊されない限り、再生を繰り返し活動を止めない。

骨は外れやすいが、頑丈であり、外れた骨は勝手に動いてはまる。


黒骨獣に殺された魔獣は、黒骸の手によって黒骨獣に生まれ変わる。


眷属作成(モンスタークリエイト)

素材となる物を用意して仮初の命を吹き込む魔法。

今回の場合であれば、黒骸が魔獣の死骸を素材に死霊モンスターを生み出した。

他にも、使用条件が満たしていればゴーレムやリビングドール、スライム、キメラといったモンスターを生み出せる。


スライムのムイの持つ固有スキルもこの種類の魔法に該当する。


軍団召喚(サモンアーミー)

通常の召喚とは異なる。単体ではなく軍団規模の召喚。

大抵は固有スキルであり、ユニークモンスターくらいしか持たない特殊な召喚魔法。

普通の召喚とは異なり使用回数に制限がある代わりに、召喚のコストがないか軽いのが特徴。


召喚する数は固有スキルによって異なるがサタンは、召喚する悪魔ごとにコストが異なり、召喚する悪魔のコスト×数の数値が、固有スキルの熟練度の数値と同じだけまで召喚可能。

また、召喚する悪魔の種類によってその召喚に必要なコストは変動する。

しかし、異世界に来たことでなにやら仕様が変わっている様子である。




見えざる存在パーフェクトインビジブル

【無魔法】の呪文(スペル)

【隠密】をカンストすることで覚えれる呪文で、【隠密】のアーツとして同様の効果のものがある。

対象者から発せられる魔力、音を隠蔽し、気配を絶った上で周囲の景色に同化し視認できなくする。また認識阻害の効果もあり、こちらから攻撃を加えない限り存在を感知されない。

唯一、嗅覚が鋭いモンスターには存在に気付かれるが、近くに敵がいるのに気付き臨戦体勢に入るだけで対象者を見つけられない。

【隠密】スキルを重ね掛けするとより存在に気付くのは難しくなる。


一度に複数の対象者(最大五人まで)を設定でき、その対象者たちはお互いに認識し会話することができる。


一度発動すると、敵を攻撃するまでは解けないが、解けてしまうと同じ対象者に再使用できるまで一時間かかる。


消臭(デオドラント)

【水魔法】の呪文(スペル)

状態異常:悪臭を消す対抗魔法。

また、嗅覚が鋭く【隠密】を見破ってしまう魔獣たちの鼻を誤魔化す魔法でもある。



【韋駄天】

【風魔法】の呪文(スペル)

対象者の移動速度を格段に上昇させる。効果時間が長く、冷却時間(クールタイム)が短いのが特徴。




ダンジョンボスがいる最下層までスネークです。



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