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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
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44 「村長たちの加勢」

夕刻、日が西の山脈に消える頃、空を木々で覆われた大森林は早くも闇に包まれていた。



「離せオルベイ! 私は、私はレティを探しにいかないといけないんだっ! 」


「落ち着けエイリサ! 今里の外に出ても魔獣たちに囲まれるだけだ! それにその体ではあの魔獣たちと戦えないだろ! 」


頬に一本傷の古傷を持つオルベイと呼ばれた男のエルフが、目覚めたばかりだというのに動き出そうとしているエイリサの肩を掴んで引き留める。エイリサの全身には血が滲み出た包帯が巻かれ、右腕は上腕の半ばから失っていた。


ダンジョンの前で行われた戦闘で、虎の魔獣に襲われたエイリサは愛剣と共に右腕を噛み千切られ全身に裂傷を負っていた。それでもエイリサは残った左腕で地面に転がった仲間の剣を拾うと虎の魔獣を独力で倒し、その後も目につく魔獣を斬り捨てていく獅子奮迅の活躍を見せたが、止血もせずに無我夢中で戦っていたエイリサは、当然の如く血を大量に失ったことが原因で意識を失った。


幸いなことにエイリサは、魔獣に襲われる前に仲間に助け出され一命を取り留めたが、続出する怪我人に回復術師は手が回らず、備蓄していたハイポーションやエクスポーションも数が足りず、応急措置でかけられたハイヒールとポーションを何本か飲まされて辛うじて起き上がれるまでに回復しているにすぎなかった。



「それでも……それでも私は……っ! 」


「よせっ! 今は安静にしろっ! 首の傷が開き始めてるぞ! 死にたいのかお前はっ!! 」


肩に置かれたオルベイの腕を振り払おうと暴れるエイリサの動きで、魔獣に噛みつかれた首の傷が開いて、上に巻かれた包帯がじんわりと赤く染まり始めていた。


「私は死んでも構わない! 」


「馬鹿なことを言うなっ! 」


オルベイは、強引にエイリサをベッドの上に押さえつけると、開いたエイリサの首の傷になけなしの魔力を振り絞ってヒールをかけて傷口を閉じる。


「レティを助けに……! 」


「――彼の者に安らぎの眠りを―【深き安らぎの眠り《レムノンスリープ》】」


それでも暴れようとしたエイリサの額に、オルベイの後ろから伸びてきた捻じれた杖の先端が押し当てられ、淡い緑色の光がエイリサの眼前で光った。

すると、血走っていたエイリサの眼がトロンと蕩けて瞼が落ち、強張っていた体が弛緩してエイリサは、脱力してベッドにふらりと倒れ込んだ。


「あぁ、レティ……レティ……」


深い眠りに落ちていく意識の中、エイリサはうわ言のように最愛の妹(レスティア)の名前を呼びながら閉じた瞼の下から涙を零し眠りに落ちた。


「悪いがエイリサ。今君を里の外に出すことを私も認めることはできない。君はそこで大人しく寝ていてくれ」


「……お手を煩わせてしまい申し訳ありませんアリシエル様」


オルベイからアリシエルと呼ばれたエイリサを魔法で眠らせた女性は、眠ったエイリサに一方的に言葉を投げかけると、沈痛な表情のオルベイに対して気にするなと静かに首を振る。


「今この状況下でエイリサを、優秀な戦士を徒に失うのは避けたいからな。今私が直接エイリサの腕を治すことはできないが、あとで婆やにエクスポーションを手配するように伝えておく。すまないな」


傷つき、片腕を失い眠っているエイリサを見て湧き上がる自分の衝動をアリシエルは抑えながらオルベイに申し訳なさそうに謝るのに対し、オルベイは首を振って否定する。


「いえ……アリシエル様には里の結界を維持する役目がございます。賢明なご判断かと思います。貴重なエクスポーションを手配してくれるだけで十分でございます」


「………そうか」


アリシエルは、オルベイの言葉にそれだけ返すと、オルベイに背を向け部屋の出口へと向かった。


「―――オルベイ、死ぬなよ」


部屋を出る際に一度だけ立ち止まったアリシエルは、オルベイにそう投げかけて出て行った。



「はっ」


オルベイは、床に膝をき深く頭を垂れてそれに応じるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



仲間を連れて村を出発したカケルは、漆黒の巨鳥となった小鴉に騎乗し空を飛んで里に向かっていた。

仲間の中でも随一の飛行能力を持つ小鴉は、カケルを乗せていることで発奮していることもあって後続の仲間を大きく引き離して先頭を飛んでいた。


空が真っ赤な夕焼けに染まり始めた頃、カケル達は森の上空に張られた不可視の結界に気付く。

その結界は、不可視であったが、魔力を敏感に感じられる者にはその存在を察知できた。


「村長、前方に結界があります。如何しますか? 」


「問題ありません! そのまま突っ切ってください!! 」


小鴉の問いかけにカケルよりも早く答えたのはレスティアだった。

レスティアは、ついていくと言って聞かず、半ば強引に小鴉にカケルと相乗りしてまで同行していた。しかし、空の旅は初めてであったようでついさっきまでは、レスティアは涙目でカケルの腰にしがみ付いて顔を背中に埋めていた。

それが小鴉の声を聞いてから、エルフの里がもうすぐそこということに気づき、顔を上げていた。


「――だそうだ。小鴉、レスティアの言う通りにしてくれ」


「ハッ! 」


突然後ろから声を張り上げてきたレスティアにカケルは、一瞬驚いたがすぐに気を引き締めて小鴉に指示を出した。



カケル達を乗せた小鴉は減速することなく結界に肉薄し、衝突することなくスルリと反対側に通り抜けた。


「……なるほど、隠蔽の結界だったか」


結界を通り抜けた後の森の景色はガラリと変わり、先ほどまで鬱蒼と木々が茂っているように見えた場所には、レスティアが住むエルフの里とその中央に聳え立つ天を衝く巨木が現れていた。

そして、そのエルフの里の北側からダンジョンから溢れ出てきた魔獣が押し寄せてきている様子が見えた。


空を飛べる魔獣が先んじてエルフの里に接近し、里に張られた結界に体当たりや魔法攻撃などを行っていたが、地上の魔獣たちはエルフたちの抵抗で未だに里にまで来れていないようだった。


「よかった! 間に合ったか! 小鴉、手筈通りにまずは里に向かってくれっ」


「ハッ! 」


カケルは間に合ったことにホッとすると、すぐに小鴉に指示を出した。小鴉はその指示に従って減速を始めながらエルフの里へと向かった。


「【爆発せよ(エクスプロージョン)】!」


カケルは、後続の仲間に予定通りの行動を取るようにと指示するために空にオレンジ色に光る球を飛ばして花火のように空中で爆発させた。


その轟音に里の結界に攻撃を加えていた数体の魔獣が反応して、カケルの方へと向かってくる。カケルはそれを気にすることなく指示した通りに後続の仲間が戦場と里とで二つに分かれたのを確認すると、減速した小鴉に追いついてきた呉羽とその上に乗った清明に追加の指示を出す。


「清明! 結界の方を頼むぞ! 呉羽はついでに結界に取り付いてる敵を蹴散らしてくれ! 」


「承知した」


「りょうか~い! 」


赤と金色に彩られた羽根を持つ不死鳥の姿となっている呉羽は、清明を乗せるために炎を全身に纏っていなかったが、カケルの指示を受けると翼に炎を生み出し纏うと急加速して、あっという間に減速中の小鴉を抜いて前に出た。


「では、いってくる」


「いってらっしゃーい」


ドーム状に里を覆う結界の頂点に差し掛かると、清明はごく当たり前のように呉羽の背中から飛び降りた。

呉羽もまたそんな清明の行動に驚くことなく別れの挨拶を済ませるとその場でくるりと宙返りをすると全身から炎を噴出させて手近な場所にいる魔獣に突撃していってしまった。


清明は落下しながら懐から数枚の呪符を取り出すとそれを里の結界に向けて飛ばした。清明が飛ばした呪符は、風に流されることなく清明の意図する場所の結界にペタペタと貼りついた。


「破ッ! 」


そこに清明が力を加えると結界に貼りついた呪符は、六芒星の陣を描きバチバチと紫電を発するとパリンという音ともに結界の頂点に大穴を空けてしまった。


「結べ」


その穴の中に落下してきた清明はあっさりと通り抜けていき、通り抜け際に貼り付け直した呪符に清明が力を加えると今度は元通りにその穴を塞いでしまった。


そうして清明が里の結界を通り抜けると、少し遅れて小鴉に乗ったカケル達が追いつき、清明の後の追うように僅かな逡巡も見せずに清明の呪符が貼られた六芒星の中へと飛び込んでいく。


「きゃあ! 」


先ほどの隠蔽の結界とは違い、物理的に隔離する里の結界に飛び込んでいく小鴉にレスティアは思わず小さい悲鳴を上げて、カケルにさらに抱き着いた。


結界に拒まれ衝突するかに思えた小鴉は、あっさりと結界を透過して里の中に侵入した。

それに続いて他のカケルの仲間たちも結界の透過して里の中に続々と侵入を果たしていく。

しかし、カケルの仲間に紛れて中に入ろうとした魔獣は弾かれ、弾かれた所を飛んできた呉羽に消し炭にされた。


何故そんなことになったかと言えば、清明が里の結界の一部を破壊して貼り直すことで、カケルたちの仲間が素通りできる里への入口へと作り替えたからである。




「……さて、どうやって着地しようか」


役目を終えた清明は、落下しながら思案にふける。ぶっちゃけ、清明は着地のことまで考えていなかった。

そして、今の清明の手札には飛行や落下速度の減速を見込める呪符は持ち合わせていなかった。


「アハハ! 清ちゃんってばおっちょこちょーい! 」


そんな清明を笑う声がどこかからか聞こえてきたかと思うと、落下の勢いはグンと落ちて清明は怪我をすることなく着地することができた。


「助かった」


「貸しいちね~」


シルフィーはそう言い残すと一度も姿を現すことなく笑い声とともに風に乗って去っていった。



「さて、穏便にいきたいと思うのだがどうだろうか? 」


その清明の問いかけに、周りを剣呑な雰囲気で囲むエルフたちは喉元に剣を突きつけることで答えとした。


「……わかった。大人しくしよう」



清明は、カケルたちが降りてくるまで両手を上げて大人しくするのだった。

こっそり体に物理防御の結界を貼りながら



ダイス結果

1.負傷者多数、死者は辛うじてなし


になりました。エルフ強い。


次回、龍源やサタンたちが戦場で大暴れします。あと、里の不法侵入者のカケルと仲間が必死に弁解します。


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