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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
41/114

39 「村長は、混浴風呂で仲間と交流」

「ふぃー極楽極楽」


俺は建て直されたばかりの大浴場に入って今日の疲れを癒していた。



頑冶たちは宣言通り、夕食が出来上がる頃には瓦礫の山となっていた大浴場を元通りに建て直してしまった。さらには、大浴場の壁や柱などに幾重にも【建築】や【付与術】による強化が施され、大浴場の外と中には清明による多重結界が張られて仲間たちのちょっとした喧嘩程度なら耐えられる頑丈な建物となっていた。

因みに、【付与術】の触媒や清明が結界を張る際に必要となった呪符の素材を暴れた龍源たちから徴収したので、大浴場に施された強化や結界はなかなかに強力なものとなった。



これくらい頑丈になったら、次にまた龍源たちがここで暴れても誰かが駆け付けるまではなんとか原型(・・)を保っていられるだろう。



いや、今回のようなことは金輪際あって欲しくはないのだけれどね。



「はぁ、やっぱり闘技場みたいな龍源たちが気兼ねなく戦える場所を作る必要があるのかなぁ」


そう愚痴りながら体を湯に沈めていき頭の先まで湯に浸かる。水中で吐いたため息がぶくぶくと音を立てた。



今までは優先順位が他と比べて低かったし、一応仲間内での喧嘩は禁止という(てい)だったから後回しになってたけど、そろそろ闘技場のような戦う場を設けないと今回のことのようなことになりかねない。

今回はどうにかなったけど、頑冶たちの作業場や工房などの生産施設が壊れたりしたら目も当てられないからな。



問題はどこにそれを作るのかというのと建設に必要な資材の調達だ。


龍源たちが気兼ねなく戦う為には十分な広さが必要だし、戦いの余波で壊れないだけの強度が必要になる。

そして、その条件を満たすためにはどうしても最高位クラスのモンスターの素材などが必要になってくる。


まぁ、条件に見合う素材の当てはあるから頼み込んで協力してもらって後は頑冶と話を詰めていけばいけると思う。けど、ここまで苦労して作り上げるのが龍源たちが心置きなく喧嘩できる舞台の用意と思うと虚しくなる。


その辺を含めて一度頑冶に相談してみるかなぁ



「プハァ! うん、そうしよう」


風呂の底に沈んで思考に耽っていた俺は、そう結論付けて湯から顔を出した。



「あら? カケル入ってたの」



「ん? 」


声のした方へと振り返ると椅子に座って頭を洗っていた天狐と目があった。いや、天狐だけでなく、ミカエルや(ホムラ)やゴブ筋や小鴉といった他の仲間の姿もあった。


最初は俺一人しかいなかったのでいつの間に……と思う。


いや、俺が風呂に潜ってる時だろうけど


風呂は体の大きい仲間も入れるように奥に行くほど水深が深くなるよう設計されているので、一番深いところだと三メートルくらいになる。俺はその深い場所の底に沈んで考え事をしたので、天狐たちがはいってきたのに気付かなかったのだろう。


農作業や戦闘などで泥だらけだったり血だらけになってることが多いので風呂に入る前に体を洗うことを徹底しているから、風呂に入らず体を洗っている最中だった天狐たちもまた風呂の中に潜っていた奴が俺だと気付かなかったんだろう。


首だけをこちらに向けている天狐は、当然のように布一枚纏ってない一糸纏わぬ姿をしていた。体の大半はお尻から生える九つの尻尾で隠れていたけど、腕を上げてるせいで脇と横胸が無防備に晒されていた。


他の女性(モンスター娘)たちも天狐と同様一糸纏わぬ姿だった。


目のやりどころに困るとは正にこのことだと思った。



まぁ女の天狐達と入ることにはもう慣れたし、天狐たちの裸体を見てもむらむらしないから天狐たちが気にしないなら俺としては一向に構わないけど、野郎ばかりより目に優しいし





「ちょうど良かったわ」


そんなことを考えていると頭を洗っていた天狐が俺を見てそう呟いた。


何のことか聞き返す前に天狐は自分の尻尾の先から水球を作りだすと泡まみれの自分の頭にぶつけてそのまま神通力で器用に髪をすすぎ始めた。手で髪を揉みほぐしながら神通力で髪をすすぎ、何度か水を変えながらあっという間に髪を洗い終えてしまう。そして生やしていた尻尾を一本だけ残して引っ込めて、背中に垂れ下がった濡れそぼった髪をよけて自分の背中を露わにさせた天狐は、俺の方に再び顔を向けた。その顔は楽しいことを目の前にした子供のようにニコニコと嬉しそうだった。


この場所で、尻尾を引っ込めてまで背中を露わにさせた天狐が、そんな顔で俺を見てくると言えば、もう次に天狐が言うことは聞かなくても予想できた。


「カケル、背中をお願いしてもいい? 」


「やっぱりか……わかった。いいよ」


俺が了承すると天狐はぱぁっと顔を輝かせて俺がいつでも背中を洗えるようにとばかりに体を正面の鏡へと向き直って俺を待つ。一本だけになった尻尾が器用に体を洗うタオルと粉石鹸の容器が入った洗面器を引っ張ってきて自分の後ろに置いてくれる。


器用なもんだなと思いつつ、俺は風呂から出る。


「はいはい。すぐにいくよ」


早く早くと急かすように天狐の尻尾が床をぽんぽんと叩くので、それに応えながら天狐の元に行く。

足元の洗面器からタオルを取ってお湯で濡らして粉石鹸をつけて泡立たせる。

魔物の脂を主成分に何種類かの薬草を磨り潰した液を調合した粉石鹸は肌や髪に優しく油汚れや血の汚れといった頑固な汚れに強い。そのままだと薬草独特の青臭さがあるので、草花から抽出した精油が混ぜてあるのだけど、天狐の愛用している粉石鹸からは白露草という野花の微かな青臭さとほのかに甘い香りがする。


「じゃあ、天狐洗うぞ。痛かったりしたら言ってくれよ」


「ええ、わかったわ」


天狐に一声かけて俺は、天狐の肩から順に洗っていく。

最初は子供の姿をした天狐の時だけ体を洗ってあげていたが、俺が妙齢の女性の体を洗うことに抵抗がなくなってからは普段の大人の姿のまま気にせずするようになっていた。それからは、天狐と大浴場で居合わせると天狐がせがむので毎回洗ってあげてる気がする。


しかし、どうも天狐は俺が大浴場に入ってる時に狙い澄ましたように来てる気がしてる。少なくとも大浴場にほぼ常駐しているセレナや人魚のメイ達を除けば、一番遭遇率が高いような気がする。



「いいなー天狐。村長、私もあとで洗って~」


「そんちょー私も私も! 頭洗ってー! 」



天狐が羨ましいのか俺が天狐を洗っていると、近くにいたオリーやシルフィーがそう声をかけてきた。2人だけでなくシルフィ―の隣に座っているミカエルも自分の翼を持ちながらチラチラと俺を見てきていた。ミカエルの挙動不審の態度からして前のように俺に翼の手入れをして欲しいんだろうなと思う。


「後でやってあげるから大人しく待っといて。特にシルフィ―、待ってる間に暇だからって他の仲間に悪戯したりしたら洗ってあげないからな」


「「はーい! 」」


「あの、えっと、村長、私も」


「ああ、ミカエルも遅くなるかもしれないけど、待っててくれるなら後で翼の手入れ手伝うよ」


「は、はいっ! ありがとうございます村長! 」


余程嬉しかったのか、体から聖気を振り撒くミカエル。



翼の手入れを手伝うと言っただけで聖気を振りまくほど喜ぶミカエルに大袈裟だなと苦笑に近い笑みが浮かぶ。


あ、そうだ。あとでゴブ筋や小鴉の背中も洗ってあげよう。前に俺の背中を洗ってくれたし。

いや、今日は先約(オリー達)がいるし、また今度か。

でも、風呂に入りながらゆっくり話をするのはいいかもな。特にゴブ筋には、カインって娘の話とか聞いてみたいしな。


「んっ、ふ」


「ん? 痛かったか? 」


そんなことを考えながら脇腹の近くを洗っていると天狐が声を漏らして僅かに体を捩らしたので、手を止めて聞くと天狐はそうじゃないとばかりにふるふると頭を左右に振った。


「違うわ。ちょっとくすぐったかっただけよ」


「ああ、そっか。この辺くすぐったいか」


確かにこの辺はくすぐったいよなと思い、つつつーっと脇腹の近くの背中に指を滑らした。


「ひゃんっ!? 」


天狐は可愛らしい悲鳴を上げて、ビクンッと体を痙攣させた。


「あ、すまん天狐」


「カ、カケル……くすぐったいって言ったのに指でつつくなんて酷いわ」


「ホントごめん天狐。わざとじゃなかったんだ」


羞恥からか少し頬が赤くなった天狐が、俺の方に振り返って責めるような目で見てきた。全面的に俺が悪いので俺は天狐に謝った。謝った後も天狐はご機嫌斜めだったが、サービスで尻尾も洗ってあげるとどうにか機嫌を直してくれた。


その代わり余計に時間がかかったので、待っていたシルフィ―からは「遅ーい」と苦情を言われてしまった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あぁーいい湯だなぁ」


「そうだな」


「はっ、某もいい湯だと思います」


天狐と、ミカエル達全員を洗い終えると俺は再びお湯に浸かって寛いでいた。俺の呟きにゴブ筋と小鴉が賛同してくれる。洗い終わっていたゴブ筋と小鴉が先に入っていたので、その近くに俺がお邪魔させてもらったのだ。

天狐は少し離れた場所で、ミカエルやアラクネたちと楽しそうにお喋りしてる。シルフィ―とオリーは浅い場所で水掛け合いをしてはしゃいでいた。その近くの水面を(ホムラ)がプカーッと浮いていた。



「ゴブ筋、今日はモンスターの解体とかあったのか? 後で受け取りに行く必要はあるか? 」


「今日は探索班(ポチたち)が喰ったモンスターの毛皮とかを剥いだだけだ。それも生産班(頑冶たち)がほとんど持って行ったから今日はいい。残った分の素材もすぐに痛むものでもないから明日にまとめて渡す」


「そうか……。そう言えば頑冶は最近よく毛皮を持っていってるようだけど、何か聞いてたりしてるか? 」


「いや、知らない」


ゴブ筋は少し考える素振りを見せたがすぐにそう答えた。しかし、隣の小鴉は何やら心当たりがあるようだった。


「小鴉は何か知ってるか? 」


「……某も直接聞いたわけではないですからそれが正しいのかわかりませんが、生産班が何やらモンスターの剥製らしきものを作っているのを目にしたことがあります」


剥製?

何だってそんなものを……ん? 何か昔そんなものを俺も作ったことがあるようなないような……


ダメだ。既視感を感じるだけでさっぱり思い出せない。今度あった時にでも頑冶に直接聞いてみよう。



「そう言えば小鴉。地図の方はどんな感じなんだ? 順調に進んでるか? 」


小鴉が、偵察班としてではなく個人で地図を作成していることは以前に小鴉自身から聞いていた。

マップがまともに機能しない今、小鴉が作成してくれた精巧な地図は本当に有難かった。


「東は終わりましたので五割といったところです」


「もうそこまで済んだのか。残りは西の森だけか? 」


「その通りです。完成した分は後で渡します」


「ああ、わかった。なら明日受け取りに行くよ」


「はっ承知致しました」


そう言って頭を下げる小鴉


「お前にはホントに助かってるよ。いつもありがとな小鴉」


「勿体なきお言葉です」


礼を言うと、小鴉は一瞬顔に嬉しそうな笑みを浮かべると、風呂の中で片膝をついて頭を下げて臣下の礼をしてきた。


「いやいや、そこまで畏まらなくていいから」


相変わらずな小鴉の態度に苦笑しつつ俺は、楽にするよう促す。

どうして龍源のように言うことを聞いてくれない子がいる一方で、小鴉のように忠誠を誓った臣下のように従順すぎる子がいるのだろうか。個々人の性格か、種族性かなにかなのか?


小鴉のように俺を絶対の主!みたいな感じで敬われると、そんな大層な人物ではない俺としては少し居心地が悪い。いやまぁ、それくらい慕われてると思うと嬉しくないわけではないけど、いちいち大袈裟な反応を返してくるから気疲れしてしまうところがあるのだ。


これでもここ最近では改善してきてる方なのだ。

最初は一緒にお風呂に入るなんて畏れ多いとか言って頑なに拒否してきたり、背中を流すよといったら普段の落ち着いた雰囲気が嘘のように取り乱して、終いには床に置いてあった洗面器を踏んづけてすっころぶなんてことがあったのだ。



……うん、小鴉がもっとフランクになるのは気長に待つとしようかな。







『白露草』

平原に生える野草の一種。繁殖力旺盛で、比較的どこでも見かけることができる。

クローバーのような葉をつけ、白い花を咲かせる。花の中央に甘い蜜を蓄えている。


精油にすると、微かな青臭さとほのかな甘い香りがする。




カケルに天狐をくすぐる悪戯をさせたらなんかいけないこと書いてる気がして没になりました。

自分で書いててカケル、枯れてるんじゃないのかって思いました。



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