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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
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38 「村長は、問題児たちを火刑にかける」

村の移転が始まってから三日、俺たちの村の近くに新しい村が無事に完成した。

しばらくは様子を見ながら今村で静養中の村人たちを移住させていく予定だ。


また、移転させてきた畑を地面に埋める際に、そのまま埋めてしまうと畑に押し出されて地面の一部が盛り上がってしまうので過剰分をモグが地下に眠る地下資源を掘り起こすことで補った結果、大量の鉱物と石材が手に入った。鉄や銅、水晶などの他に、ミスリルなど魔力を帯びた特殊な金属や属性石などが少量手に入ったのは嬉しかった。ここが危険な魔物が跋扈する未開地、所謂魔境に接しているせいか、その質もなかなか悪くなくスキルで底上げすればそれなりにいい武具を作れそうだった。


というわけで新たな鉱石類が手に入ったこともあって俺は、久々に頑冶に工房を借りて鍛冶に精を出していた。



種火は【聖なる火】という聖属性を帯びた魔力の炎、燃料として使う薪はミカエル(天使長)の聖属性を帯びたオリー(世界樹の化身)が育てたシンラという木だ。


竈の中で燃え盛る炎は白色で、聖気を周囲を振りまいていた。そのため鍛冶場は、聖気で満たされた一種の聖域となっていた。


そんな炎で溶かしている鉱石は、聖銀とも言われるミスリルの原石だ。ミスリルは、精錬した時の白銀の色をしているが、原石の時は黒ずんだ石炭のような色合いをしている。


酸素と共に【鍛冶】の能力で何度も俺の魔力を竈の中へと注いでいくと黒ずんだミスリルの原石は形を崩れさせながら段々と白ずんでいき最後には白く輝く液体へと変わる。溶けて液状となったミスリルは、先が外へと飛び出している竈の口から流れ出し、空気中の聖気を貪欲に吸収しながら急速に固体へと戻り始める。


その固体になりかけのミスリルをやっとこで掴み上げて金床へと移して、ハンマーで軽く叩いて成型していく。そして長方形になってきたところでセレナ(水精女王)の体の一部だった水精霊の霊気を濃密に帯びた魔水が入った湯桶へと放りこむ。ジュワという音と共に水蒸気が立ち昇り、急激に冷やされ脆くなったミスリルは粉々になって湯桶の底へと沈んでいく。


再び、竈の口から流れてきたミスリルをやっとこで掴んで金床へと移して、とその工程を繰り返してミスリルで湯桶の半分ほどまで満たすと、湯桶を鍛冶場の片隅にある敷かれた魔法陣が描かれた敷物の上へと移した。


「【錬金創造(アルケミークリエイト)神聖銀(セイクリッドミスリル)】」


両手を敷物の上に置く。アーツの発動と共に両手から流れた魔力で魔方陣は光り輝き、その魔方陣の中心に置かれた湯桶の中から青白い光の柱が立ち上がる。その光の柱は数秒のうちに治まり消える。湯桶の中を覗き込むと、その中にあった水や底に溜った粉々に砕けたミスリルの欠片等が姿を消し、代わりに神聖な白い光を薄らと放つ白銀の金属塊が入っていた。


「【鑑定】……成功か」


無事に成功していることを確認した俺は、湯桶から神聖銀の塊を取り出したまだほんのり温かいそれを金床の上へと置いた。、


「【金剛不壊(こんごうふえ)】」


上位素材の神聖銀を加工するに辺り普段使用しているハンマーでは少し荷が重いのでハンマーを【付与術(エンチャント)】でより硬くそして壊れにくくする。そうすることで、成功率の底上げを行なう。


「ふぅー………」


今の工房の設備では上位素材である神聖銀を加工すると失敗する可能性がある。僅かでもその可能性を減らすため金床を前にして大きく深呼吸をして精神を研ぎ澄ませる。




そして、俺はハンマーを振り上げ――――――バァン! という工房のドアを開いたけたたましい音が響いた。


「大変大変! 村長大変よ! 」


「おわぁ!? 」


開かれたドアから入り込んだ強烈な突風が俺の体に直撃し、逸れた突風は工房の中を縦横無尽に暴れ回った。竈から火の粉と共に灰が舞い、敷物が天井まで舞い上がる。


「【鎮まれ炎よイクスティングイッシュ】! 」


慌ててハンマーを放り捨てて目の前の神聖銀をアイテムボックスに仕舞い、火災にならないように消火の呪文で竈の火を消した。


「……シルフィー」


風は治まったもののまだ灰が舞い視界が悪い中、俺は自分でもいつになく声が低くなっているのを自覚しながら工房に突風を呼び込んだ元凶である緑髪の少女、シルフィーへと視線を向ける。


「あは、あははは……ごめんね村長」


やっちまったという表情で謝るシルフィ―。悪戯好きであるシルフィ―がこうして逃げずに素直に謝るということは意図したことではないのだろう。そう思うとシルフィーへの苛立ちが薄まった。


「はぁ……もういいよ。それで、シルフィーは何の用でここに来たんだ? 」


容姿は高校生くらいの年頃でも、中身はまだまだ子供で些細なことでも事を大きくしたがるシルフィーだから、そこまで大したことでもないだろうと思いながらシルフィーに問うと、予想だにしない答えが返ってきた。



「あ、そうなの! 龍源やジャックたちが大浴場で乱闘始めちゃって大変なの! 」


「また喧嘩か」


龍源、ジャックと言えば、喧嘩の常習者たちだ。乱闘ということは2人だけじゃなくてもっといるってことだろう。風呂に入ってまで喧嘩をするなよと言いたい。

昼夜を問わず喧嘩が絶えない血の気の多い仲間たちに頭が痛くて思わず頭を押さえる。


ここはガツンと言ってやろう。そして、罰として何かゴブ筋たちに相談して肉体労働でも割り振ってもらおうか……喧嘩をする大半はどの班にも入らず単独行動している子たちだし


「よし、わかった。シルフィー、浴場が壊れる前に喧嘩を止めさせにいくぞ」


「え、えーっと………それはもう手遅れかなーなんて」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



大浴場は、見るも無残に破壊されていた。


屋根は崩れ落ち壁にはいくつもの大穴が空き、浴槽が決壊したのか辺りは水浸しだった。所々に燃えた跡もあるし、雪が積もっていたり氷柱が地面から生えている場所もあった。


今回、大浴場で乱闘騒ぎを起こしたのは、龍源、ジャック、サタン、ルシフェル、白夜の五人を筆頭に十五人にも及んだ。全員人型で本気を出していなかったとは言え、よくもまぁ場所を選ばず喧嘩してくれたものだ。結界を張れる者がその場に居合わせていなかったのは痛かった。


今その問題児たちは、居合わせたセレナと青鏡(セイキョウ)の合わせ技で氷の塊の中に封じ込められて拘束されていた。風呂に入ってたせいかほぼ全員が全裸というのがまたアホらしいというか何というか。

氷漬けにされていても身動きが取れないだけで意識はあるようで俺に気付いた奴らが僅かに動かせる顔の一部や視線を動かしてあ、やっべ。と言った表情をしていた。まるで先生や親に悪さをしているところを見つかった悪餓鬼のようである。悪いとは思っているようだが、かといってそれほど反省している様子がないのがまた憎らしい。



「こりゃまた随分と派手に壊しおったのぅ……」


作業場から駆けつけた頑冶が、大浴場の惨状を目にして呆れたように呟く。

頑冶だけでなく生産班の皆も来てくれていた。


「頑冶、忙しいのにすまないな……また修理を頼めるか? 」


「なぁに、これくらい材料さえあれば半日とかからず夕方にまでには建て直せる。村長が気に病むことではないわい」


そう言って頑冶は、俺の背中をバシンと叩いた。これがまた痛くて俺は体を仰け反らせて痛みに耐えた。その悶えてる様子が面白かったのか頑冶は厳めしい顔を破顔させて笑った。


「ワッハッハ! よぉし、お前らすぐに取り掛かって夕食までには終わらせちまうぞ! 」


「「「「おっすっ! 了解しました親方ぁ! 」」」


「痛っつつ……あ、頑冶。あそこで氷漬けにされてる龍源たちも手伝わせたらいいからな。喧嘩するくらい力が有り余ってるんだから力仕事くらいは役に立つだろ」


「おう、いつも通りにってことだな。わかった、精々扱き使ってやるよ。おい! 誰かあの氷漬けにされた馬鹿たれ共を解凍してやれ! 瓦礫の撤去を手伝わせるぞ! 」


頑冶がそう指示を出すと、返事は意外なところから返ってきた。


「それ私やる」


名乗り出たのは、生産班のメンバーではなく龍源が閉じ込められた氷の塊を指でつついていた(ホムラ)だった。いつものように焔の周りを漂う赤い光の玉の火精霊たちがタオルが入った木桶を浮かばせているのを見るところちょうど風呂に入ろうと大浴場に来た所だったようだ。


「ふむ、頼めるか? 」


「ん、任せて」


コクンと頷いて頑冶に応えるとホムラは右手を龍源が入った氷塊に押し当てた。

焔の掌から炎が迸り、龍源が閉じ込められた氷塊が紅蓮の炎に一瞬にして包み込まれてしまった。


「おいおい」


焔の豪快な解凍方法に思わずツッコミの声が漏れる。

中の龍源は大丈夫かよ。


仲間のステータス画面から龍源の現在HPを確認すると、多少の減少が見られるものの一割も減ってなく至って問題ないなさそうだった。いや、二、三秒でHPが1000近く減ってるからかなりの火力であることには違いないんだけど、体力(HP)と抗魔に優れた龍源だからこそ掠り傷程度のダメージにしかならないんだろうけど……

そんなことを考えているとホムラの炎を吹き散らして龍源が姿を現した。熱を遮断するためか龍鱗を全身に生やして人から龍人の姿へと変わっていた。


「アッチ! アッチ! アッチイ!? おいホムラァ! いくら儂でもお主の火は熱いんじゃから少しは加減せんか! 儂が丸焼きになるだろうが! 」


「ドラゴンの丸焼きおいしそう」


そう言った焔の小さな手から白炎が生じる。


「儂を喰らう気か!? 」


身の危険を感じたのか龍源は更に龍化を進め、背中と腰から龍翼と尻尾を生やし顔も人の顔から龍の頭へと変じた。


「おい2人とも止めろ! また喧嘩を始める気か! 」


「むぅ……」


「ふぅ、助かったわ」


俺の制止の声に焔が不満そうな声を漏らしつつも手から白炎を消し去った。それを確認して龍源は安堵のため息を漏らしながらすぐに人の姿へと戻った。

ホント、俺の仲間は手が早いな。喧嘩に発展しなかったことに胸を撫で下ろす。



「あっあっ! 青鏡この野郎! 俺っちをまた氷漬けにする気っすか! 」


「ふふふ、ジャックぅ……逃げようたってそうは行かないわよ。あなたは、ホムラちゃんに解凍されるまで大人しく私の氷の中にいなさいな」


「うぉぉおおお、嫌だぁああ! 俺っちには精霊の火は天敵っすから!! 」


「いやぁぁ! 私、火耐性全然ないからぁ!あんな炎喰らったら燃え死んじゃうからぁ! 」




………何やら他の氷塊に閉じ込められた問題児たちが氷塊の中で騒いでいた。

ジャックなんかは体を火に変化させて中から氷を解かしてこっそり抜け出そうとしていたようだが、あっさり青鏡に見つかって再び氷の中に閉じ込められていた。泣き叫んでる子もいるけど、大丈夫。あれくらいじゃお前らHP半分も減らないから。



まぁ、なんだ。

悪いことしたら、おしおきは必要だよな。特に反省してない奴らには



「ホムラ、さっきより火力を抑えて他の子たちも解凍してやってくれ」


「ん、わかった」


ゴウッという音を立てて俺の要望に短く応えた焔を中心に地面から炎が吹き上がり、それに呼応するように垂れ下がっていた焔の赤い長髪が先端からチロチロと火を出しながら焔の肩まで浮かび上がった。


「顕現せよ、我が子ら(眷属)よ」


その焔の言葉をきっかけに地面から吹き上がる炎が集束し、14体の炎で形作られた掌サイズの小さな子竜が生まれる。


「「くるぅあー!」」


「……いって」


焔の言葉に14体の子竜たちは小さな翼を羽ばたかせて飛翔し、14個の氷塊へと各々突っ込んでいった。そして、子竜は氷塊へと体当たりし、衝突の瞬間にその身を炎に戻して次々と氷塊を炎で包み込んでいった。





炎の中から問題児たちの熱い熱いと叫ぶ声を聞きながら俺は、どうせこれくらいじゃ火傷一つしないんだろうなーと思いながら問題児たちが火か飛び出してくるのを待っていた。





この異世界に来てから一か月、俺は良くも悪くもこの世界に順応してきていた。


【聖なる火】

【火魔法】の呪文(スペル)

聖気を帯びた魔法の火。ライター程度の小さな火しか生み出さず魔力の供給を切るとすぐに消えてしまうが、燃料となる油や薪に火を燃え移らせるとその燃え移った火も聖気を帯びたままになるという特徴がある。

ゲームの時は専ら鍛冶をする際の竈の火種とするくらいしか活用がなかった。

この呪文を覚えるためには、【火魔法】と【光魔法】と【鍛冶】をそれぞれある程度習熟した上で、神殿直営の工房で師事する必要があった。


錬金創造(アルケミークリエイト):〇〇】

【錬金】スキルで覚える呪文(スペル)

レシピに存在するものをMPを代価に複数の素材を合成する。

錬金の魔方陣を触媒として使うと確定だが、魔法陣なしだとレア度の高いアイテムほど高い確率で失敗する。

天然では手に入らない又は希少なものを生み出すことができる。


金剛不壊(こんごうふえ)

付与術(エンチャント)】で覚える呪文(スペル)

一時的に対象のアイテムの耐久値と防御力を著しく向上させる。

効果は15分ほど。重ね掛けは不可。しかし、冷却時間が効果時間より短いのでかけ直すことは可能。


鎮まれ炎よイクスティングイッシュ

【火魔法】で覚える呪文(スペル)

魔法の火を消火する魔法。自分の生み出した火なら一部例外を除き基本的に消火可能。魔法生み出された火でなくとも効果はある。自分以外の火を消すためには相手より実力が上回ってないとできない。


『ミスリル』

別名「聖銀」とも呼ばれる聖気を帯びる魔力の籠った白銀色の金属。

ミスリルに宿る聖気の影響で瘴気に侵され難く、瘴気を祓う力があり、対アンデット用の武器や防具としては最適の金属。

また、魔力伝達力に優れていて、優れた魔力触媒となる。

金属としての素の強度は、鉄に劣る柔い金属だが、付与(エンチャント)の相性が抜群なため、強化を施されたミスリルの強度は鋼よりも硬くなる。

ミスリルの原石は、瘴気と結びついている影響で黒ずんでいる場合が多い。


神聖銀(セイクリッドミスリル)

強力な浄化作用を持つ聖気を帯びた魔金属。

聖気をより濃密に込めたミスリルを水精霊の強力な浄化作用を持つ濃密な霊気を帯びた魔水を素材に錬金することで作りだすことが出来る。


天然物は、ミスリルが聖気を帯びる聖域で、それも高位の水精霊が住む水の中で、特に水精霊の力が濃い場所で聖気と水精霊の霊気に晒され続けることで生まれる希少金属。


軽く人物紹介

・シルフィー

種族:シルフィ―ユ(風精女王)

高校生くらいの緑髪の少女の姿をしている。

風精霊の頂点ともいうべき存在で、四精霊の頂点に立つ精霊の1人。セレナ、焔、モグたちと同格の精霊。

悪戯好きで、よく仲間にちょっかいをかけている龍源たちとは違った意味での問題児。


青鏡(せいきょう)

種族:氷結の雪乙女

氷精霊に属する精霊で、雪女が前身。

氷の結晶の柄の白い着物姿の薄い水色(白藍色)の長髪の美女。

風呂に入ってたところをジャックたちが喧嘩に巻き込まれた。流れ弾でジャックの炎の攻撃を受けたので怒っている。


・ルシフェル

種族:光をもたらす堕天使

ユニーク個体。

黒髪の優男。白く輝く六対の翼を持っている。

サタンたちとは喧嘩仲間。自堕落な性格をしている。


・白夜

種族:白虎星君

大地を司る幻獣

白髪の少年の姿をしている。

龍源たちとは喧嘩仲間。日中は日向ぼっこをしているか風呂に入っていることが多い。食事時になると食べ物の取り合いでよく喧嘩になる。


・ジャック

種族:ランタン持ちの切り裂き魔

ユニーク個体

南瓜の被り物をしてボロボロで外套で身を包んだ姿をしているが、それをとると黒髪の優男が出てくる。龍源たちとは喧嘩仲間。よく龍源と連んでいることが多い。



後書きがめちゃくちゃ長くなった。何だこれ。


あまり明記してないですが、今回のような騒動はしょっちゅうあります。

気性の穏やかな仲間がいる反面血の気の多い仲間もまた多くいます。


いつも感想をありがとうございます。

楽しく感想読ませてもらってます。

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