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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
38/114

36 「傭兵隊長は、苦悩する」

「バッカス敵だ! 囲まれてるぞ! 」


ああ、わかってる! オスカー! 先頭突っ走ってる馬鹿を射殺せ!

クソッ、なんだってこんな辺境に野盗がいるんだよ。




「ギャハハハハ! 俺たちがいる場所にのこのこ現れるなんざツイてねぇなオメェラ。死にたくなけりゃ大人しく捕まんな! 玩具として俺が壊れるまで遊んでやっからよォ! 」


「別にコイツの玩具が嫌なら抵抗してもいいんだぞ。そんときゃ俺の相手をここで死ぬまですることになっけどなぁ! 」


ふざんけんな! どっちも願い下げだ。お前らは俺がぶった斬ってこの地の肥やしにしてやる!


「ねぇ!? コイツラただの野盗じゃなくてまさか【夜鷹の爪】じゃないの!? 」


ァア!? んなわけあるかっ!? あの狂人どもは伯爵んところにいんだぞ。遠征に来たにしてもこんな辺鄙な場所にくるわきゃねぇだろ!? んな馬鹿なこと言ってないでシアン、お前はとっとと魔法の準備しろ!








「残念だったな。俺らがその【夜鷹の爪】だ。つってもお頭が殺されて逃げてきた残党だがな」


へっ、そりゃ最悪だ。ってことは、アンタ【狂い鬼】か。


「ほぉ、俺を知ってるか。俺も随分と有名になったもんだ」


まぁな。昔はアンタに憧れてたからな


「何だお前、俺のファンか? だったら俺の仲間になるか。お前の腕なら俺は歓迎するぞ」


ケッ、やなこった。俺が憧れてたのは落ちぶれる前のアンタだよ


「そうか。残念だ。ならお前が死ぬまで付き合ってもらうぞ。お前となら楽しめそうだ」


そりゃ光栄だ。だが死ぬのはアンタだ!








「キャアアアアアアアア!!? 」


「ヒヒヒッ、今のは良かッた! もッとだァ、もッといい声で鳴けよォォ!! 」


シアン!



「おいおい、なんだァ。この犬の耳はよォ、気に入らねェなァ。こんなもんイランよなァ、俺が取ってやるよ」


「グアアアアアアア!? 」


「クヒヒ、おいおい何だよ犬らしく鳴きやがって、気に入らねェなァ、次は尻尾にするか」


「グガャァァアア!? テメェ……絶対許さねぇ、ぶっ殺す!! 俺の手で必ず、ぶっ殺してやる!! 」


「クヒヒャヒャヒャ! 随分と威勢のいい鳴き声だ。だが、気に入らねェんだよォ! 」


「ァァアアアアアア!? 」


ボバドル!?



「グッ、ゥ」


「おいおい何だよ。折角眼を潰したんだからもっといい声を上げろよ。つまらねぇぞ。ほら、鳴けよ! 」


「ウッ」


「おい、鳴けよ。ほら、ほら、ほらッ、ほらッァ!! 」


「ッ」



オスカー!



「おっ、なんだリーダーさん、目ェ覚ましてるじゃねェか」


「あ? おおっ、ホントだ。おいラグディ、こいつは俺にやらせてくれ。この(玩具)鳴きやがらねぇから面白くねぇ」


「ああ、いいぞ。俺はまだこの犬っころで遊びてぇからな」


クソッ、殺す! 殺してやる! お前ら全員殺してやる!


「殺気の籠ったいい目してるじゃねぇか。これだよ。こういうのがいいんだよ。よし、まずは腕からいってみるか。いい声で鳴くんだぞ」







「―――――! ――。――! 」


ウッ……誰だお前。何言ってんだ? ハッ聞こえるわけねぇだろ。お前の仲間が俺の耳を削いじまったんだからよ。


ああ……なんだこの光、あったけぇ……



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ブハァ!? ハァハァ………フー、なんだ夢か」


ベッドから飛び起きたバッカスは、周りを見渡して先ほどまで見ていたのが夢だったことを悟る。


「またあん時の夢か……」


先ほど見た悪夢でバッカスは全身にビッショリと寝汗を掻き、無意識のうちに夢の中で盗賊に切り取られた右腕の二の腕を左手で握りしめていた。



「クソッ」


しばらくして落ち着き取り戻すとバッカスは、自分の不甲斐なさに一人悪態つきながらベッドを出て部屋を出る。


「よぉ、バッカス。朝から随分とご機嫌斜めだな」


「ボバドル……」


朝食を食べに食堂へ行くとそこにいた数人の中に狼の獣人の特徴である狼耳を生やしたボバドルがいた。夢にも見た盗賊の一人によって削がれたはずのボバドルの耳はちゃんとついている。視線を机の下へと向けると椅子から垂れ下がった尻尾の先が見える。


「おいおい、バッカス。そんな目で俺を見るんじゃねえよ。俺に男色の気はないぞ」


バッカスが向けた視線の先に気づいたボバドルが、わざと軽口を叩くような口調でバッカスをからかう。


「ハッ、言ってろ馬鹿が。こっちこそお前が相手なんて願い下げだ。相手してくれんなら女に決まってんだろ。それもシアンのようなペチャパイじゃなくてもっとボインとした女の方が――」


「胸がなくて悪かったわね! 」


自分の胸の前で手を使って表現していたバッカスの背中にそんな怒声と共にシアンの足蹴りが入る。


「おっとと、急に後ろから蹴ってくるなんて痛いぞシアン」


「ふんっ、アンタが朝から食堂で馬鹿なこと言ってるのが悪いんでしょ」


そう言ってシアンはバッカスからそっぽ向いて食事を取りに行く。


「たはー怒らせちまったか」


バッカスは、おどけるように額に手を当てる。いつものやりとりでバッカスは普段の調子を取り戻す。

振り返ったシアンの指先から飛んできたピンポンサイズの風の球を躱してバッカスも食事を取りに行った。




今日の朝食は、カナン(トマト)と森に自生していた青野菜のサラダに厚切りベーコンと目玉焼き、腸詰、そして焼きたての黒パンに絞りたてのミルクだった。


朝から肉尽くしのガッツリしたメニューである。辺境で飢えないまでも質素な暮らしをしていた村人たちには少々贅沢だが、体が資本であるバッカスたち傭兵からすれば普段食べてるような内容だと言える。しかし、味は比べものにならないほどに美味い。


採れたての野菜で作られたサラダは新鮮でシャキシャキとしていて、サラダにかけられたカナン(トマト)風味のドレッシングが酸味が効いていて野菜の苦味を上手く調和している。厚切りベーコンは表面こんがり焼かれてカリッとしていて、噛みしめると肉汁が口いっぱいに広がる。半熟の目玉焼きを割って塩胡椒が十分にふられた白身と一緒に黄身を絡めて食べると、まろやかな味わいでまた美味い。腸詰は、表面がパリッとこんがり焼かれていて、噛み切ると中からアツアツの肉汁を吹き出させる。肉と一緒に香草や香辛料が使われていて香草独特の癖があるものの肉の臭みがなく、しつこくない。

そして、硬い、酸っぱい、パサパサの三拍子が揃ったおいしいとはあまり言えない黒パンも、焼き立てであるが故に硬いがもっちりとしていてふわふわで、独特の酸味も程よくクドくなく、目玉焼きの黄身を絡めて腸詰やベーコンと一緒に食べるとおいしかった。中には黒パンを割って、サラダや目玉焼きなどを全て挟んでサンドイッチとしてしまう者もいたが、それもまたおいしかった。採れたてのミルクは、甘味を感じる程に濃厚でそれでいて乳臭くなくサッパリとしていて、飲めば体に残る疲れや眠気を追い出してしまう程に活力が湧いて出てくる。


「ああ、うめぇなぁ……」


食事を終えたバッカスが味を思い返しながら余韻に浸る。

カケルにはしばらくしたら街に戻ると言ってしまっているが、こんな食事を毎日三食食べれるというのならここに居ついちまおうなんて考えがバッカスの頭に浮かぶ。


しかし、そうはいかないのである。傭兵ギルドを介して行商人であるアサルディの護衛として一時雇われているバッカスは、護衛の失敗をギルドに報告する必要があった。それに何より失敗の原因となった【夜鷹の爪】のことを報告しないわけにはいかなかった。


(そうなるとここのことも話さねぇといけねぇんだよなー)


どうしたもんか、とバッカスは背もたれに凭れながら悩む。この村の村長であり、この村にいるモンスターたちの主であるカケルからは話してくれたらいいと実にあっさりと許可されたが、自分の報告次第で最悪命の恩人であるカケルたちに討伐隊が向けられることになりかねないのだからいい加減な報告は出来ず頭を悩ませていた。


なんせ、自らをテイムマスターだというがその従えているモンスターの数と強さが桁違いなのだ。陽光の下で活動できるリッチがいれば、六翼の天使がいて、上級相当の悪魔がいる。精霊を従える少女たちがいれば、ハイエルフやハイドワーフもいる。九尾の妖狐、白銀の巨狼、燃える火の鳥、従える種族を上げればきりがなく、そしてどの配下もバッカスには太刀打ちできないほどの強者。

そして、カケル本人も部位欠損を容易く再生させてしまう回復魔法の名手であり、魔法だけでなく武芸にも心得があり、出鱈目な身体能力をしている。


これが辺境の村で暮らす村人たちと言われれば、そいつの正気を疑うほどにぶっ飛んだ立派な戦力である。


それこそお伽噺に出てくる666の人魔を率いたとする魔物使い(テイムマスター)である【魔王】のようだった。



(まぁ、取りあえず街に戻る時にゃ村長さんに一緒に来てもらって爺さんと会ってもらわねぇとなぁ)


あのやたら顔の広い爺さんに相談すれば案外うまいこと行くかもしれない、そう考えてバッカスはひとまず考えるのを止めた。


「よし、じゃあそろそろ出かける準備でもすっか。お前らも遅れんなよ。あとシアン、お前口元にクリームがついてるぞ」


「えっ、うそっ!? 」


「ガハハ! おう、わかったわかった」


「……わかった」


1人だけデザートのフルーツパフェをつっついていたシアンは、バッカスの指摘に顔を真っ赤にさせて慌てて口元を手で拭った。その様子にボバドルはガハハと笑いながら答えて、いつの間にか近くで食事をしていたオスカーはボソリと答えた。


「ちょっとボバドル何で笑うのよ!! 」


照れ隠しでボバドルに八つ当たりするシアンを余所にバッカスは、荷物を取りに自室へと引き返して行った。



バッカスたちは、これから廃村に向かうカケル達に同行することになっていた。


初登場

バッカス

【隻眼の血紅狼】という四人ほどの小規模傭兵団の団長。団の名前の由来の通り隻眼だったが、盗賊に捕まり拷問を受けた際の怪我と共にカケルに治療され完治した。


ボバドル

【隻眼の血紅狼】の副団長。バッカスとは長い付き合い。捕まった際に誇りである耳や尻尾を削ぎ落されたが、無事に再生


シアン

【隻眼の血紅狼】の団員。

四属性魔法の使い手。


ぺちゃぱい。


オスカー

【隻眼の血紅狼】の団員。

無口。捕まった際に隻眼となったが無事に再生。弓の名手。

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