表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
33/114

31 「村長と親方の考察」

村の中央広場を仮拠点としていた頑冶達生産班は、今は村の外れである安置所として使っていた空き地に拠点を移して、そこに用途に分けた大きな作業場をいくつか建てていた。裁縫担当のアラクネたちの作業場もそこにある。


村に戻ってきた俺は、そこの頑冶のいる一際大きい作業場に顔を出した。


「おーい、頑冶」


「おう、村長か。遅かったな」


丁度一息入れている様子だったので声をかけると、頑冶は睨むような目つきでこちらに振り返った。

その目が、ようやく来たかと語っていた。


……あれ? 俺なんか頑冶と約束してたっけ?


俺が思い出せずにいると、そんな俺を見ていた頑冶が呆れた様子で頭を振って大きなため息をついた。忘れてたな、と言外に言われてる気がした。


「あは、あははは……ごめん。思い出せない」


「……人造魔除け石のことだ」


「人造魔除け石……ああ、あのことか! 」


「やっと思い出したか」


「悪い。それで、何か新しいことがわかったのか? 」


「釈然としない結果だがな。だが、ここじゃ騒がしい。詳しくは俺の工房で話す。その石もそっちにある」


そう言うと、頑冶は槌やノミなどの作業道具を腰に着けた作業鞄(ツールバック)に納めて、作りかけの剣といったモノを布に包んで一纏めにすると片手で軽々と持ち上げて肩に担いだ。


「親方お疲れ様でした」


「親方、お疲れさんっす! 」


そんな頑冶に他の班員たちは作業をしながら労いの言葉をかける。


「うむ、お前らも作業頑張れよ」


返事を返しながら悠々と作業場を出ていく頑冶の後ろ姿は、老成した雰囲気を醸し出していて俺よりもずっと貫禄あった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆



頑冶の工房は、こじんまりとした一軒家だった。

先程の作業場と比べれば小さく感じるけど、頑冶が一から揃えた作業道具や設備が完備された立派な工房だ。離れには鍛冶場もあり、調合部屋もある。生産スキル系で必要になる道具や設備がここだけで完全網羅されていると言っても過言ではない頑冶の王国(ホーム)だ。頑冶がちょくちょく手を加えているので、先程の作業場よりもグレードがちょっと上だ。


ただ、個人用なので作業場のように一度に大量生産というわけにはいかないんだが、性能にとことん拘った専用品を作るならこっちの方が向いてる。実際、レナたちの短剣や髪飾りなどを作る時は頑冶の鍛冶場や工房を借りて製作したしな。



「まぁその辺に座ってくれ」


木製のドアを開けて頑冶と一緒に工房の中に入った俺は、頑冶に促されて近くにあった椅子を引き寄せて座った。頑冶は、端材や工具でごちゃごちゃとした作業机に布に包んだ荷物を下ろすと一度奥の部屋に引っ込んで、それからすぐに手に見覚えのある石を持って戻ってきた。


戻ってきた頑冶は、手近な椅子をやや乱暴に引き寄せて俺と対面する位置にどっかりと腰を下ろした。持ってきた石は作業机の上に置かれる。

その時、頑冶の指が石に当たってコロコロとこちらに転がってきたので俺は何となしにその石を手に取った。すべすべとした球体の表面に幾重もの波紋のような模様がある例の魔除け石だ。


「結論から言うと、村にはこれ以外にそれらしいモノは見当たらなかった」


ほぅ、ということは、俺の予想は見当違いってことになるな。


「レナやレオンにも聞いてみたが、2人ともこれ以外の人造魔除け石には心当たりがないらしい」


「えっ頑冶。レナ達と話せるようになったのか? 」


だとしたら嬉しい進歩だ。頑冶は厳つい見た目や鋭い眼光から黒骸たちのようにレナ達からは未だに距離があったからなぁ。


「………」


あのアッシュも頑冶の雰囲気に気圧されて畏れに近いものを抱いてるようだったし……ってん?

なんか俺に向ける頑冶の眼光の鋭さが増した気がする。


「頑冶どうし――「……まだだ。まだ話せておらん。アラクネに聞いて来てもらったのだ」」


あー……


「そうなのか……なんかごめん」


「……いや、村長の謝ることではない」


そう言ってため息をついて肩を落とす頑冶は、弱り切っているように見えた。

その様子から頑冶がレナ達と仲良くなりたい意思があるの感じ取った。


天狐やミカエル、アラクネやアルフ、黒士、それにオリーやシルフィ―の女性や子供の容姿を持つ子達とは少しずつ打ち解けてきているので、時間が解決してくれることを願う。

半人半蜘蛛のアラクネが受け入れられたということは、強面の男連中も少しずつ受け入れてくれるだろうし、何よりみんな根はいい子だからな。レナ達ならきっとそこに気付いてくれると信じてる。



「まぁいい。そんなことより話を戻すぞ」


立ち直った頑冶がそう言って話を戻した。

それから俺は、人造魔除け石について現状調べた限りでわかったことを教えてもらった。


まず、人造魔除け石は天然の魔除け石と同じ効果を問題なく発揮したらしい。これは【鑑定】で既に読み取れてたことだったが、実証実験でちゃんと確認した結果だ。同純度の天然魔除け石を確保できなかったので比較は無理だったようだけど、この辺りのモンスターに一定の効果があることは確認された。そこから考えれば、純度に準じた効果があるようだ。


モンスターである俺の仲間に効果が現れないのは、魔除け石の効果が本能の強い野生のモンスターに対して有効な物なので、俺と契約して確固たる自我を獲得した仲間や服従している眷属のモンスターには、本能に逆らう力があるので効果が十分に発揮されないのだ。……というのを頑冶から教えてもらった。


ゲームの時から仲間まで効果があったら使えないし当然と思ってた俺は、そんな風に考えたことがなかったからなー。改めて頑冶に言われてあーそうなんだと思った。因みにレナ達の話によると眷属でなくとも家畜だったり調教された動物とかも効果が薄くなるらしい。


少し話が逸れたが、頑冶はこの人造魔除け石を自分の理論で製作してみようとしたらしい。最初は鉄鉱石のように純度の低いその辺に落ちてる天然魔除け石をまとめて竈にくべて熱して精錬をしてみたそうだ。


そしてその結果は、失敗。

魔除け石はかなりの高温で熱さないと融解せず、また融解してしまうと脆く黒ずんだものに変わってしまった。そして、肝心の魔除け石としての効果であるモンスター避けの効果も失ってしまった。

それから、頑冶は他にも炭を作る様に無酸素で熱してみたりしたが、結果は変わらずモンスター避けの効果は失ってしまったそうだ。どうやら、魔除け石を高温で熱すると肝心の効果が失活してしまうらしい。

錬金合成という方法も試してみたらしいが、これはゲームと同様に純度を上げることには成功したらしい。

しかし、それで作った錬金魔除け石と人造魔除け石では【鑑定】した時の文章が異なるらしい。


頑冶が釈然としないと言ったのはこのことだ。

人造魔除け石の説明文には、人の手によって質の向上した~という文章がある。

錬金魔除け石には、錬金によって質の向上した~と書かれている。

結果的にはどちらも純度を向上させているが、似ているようで微妙に違う。


その微妙な違いが、今俺が手の上で転がしている人造魔除け石が異世界の未知の技術で作られたものだと頑冶の確信を強めているようだ。


何て言うか、そう言って話す頑冶は苦々しそうな顔をしていながら目を爛々と輝かせて活き活きしているように見えた。生産馬鹿、そんな言葉が今の頑冶に似合っているように感じた。



その後は、装備製作のことや不足している素材、あと俺が持ってる今持ってる素材の中の希望を話したりした。


あ、村の広さに対して魔除け石の効果範囲が狭すぎることに関しては、情報が足らなすぎるので保留となった。その辺も俺たちの知り得ない未知の理論でカバーしてたんじゃないかって頑冶は嬉しそうに言ってた。


暫定的な仲間の装備や道具の製作は、入手した鉱石やモンスター素材を使って順調に熟しているようだ。

仲間の初期装備は、今用意できるものと比べれば天狐達の格にギリギリあったかなり質のいい装備だけど、育った方向によって初期装備が得意とするスタイルに合わないこともあるのだ。

その最たる例としては、ゴブ筋やアルフが当てはまる。

ゴブ筋の初期装備は、腰巻きに枝葉の冠で、ゴブリン(蛮族)の王の雰囲気に合うもので、その性能も後衛の指揮官よりだが、ゴブ筋の重戦士という戦闘スタイルには不適切だ。さらに言えば、腰巻き一丁と言うのはゴブ筋の好みには合わないらしい。ゴブ筋は早い段階でアラクネの作った白い服やズボンを着て、その上に腰巻きをするようになってた。


そして、アルフの種族は基礎ステータスや固有能力上魔法特化型で、初期装備もそれに準じた杖やローブといった魔法使い風の格好なのだが、育てたスキルのみを見ればバリバリの前衛の軽戦士に偏っている。

そうなったのは、アルフを進化させる過程で色々あったからなのだが、得意とする剣は当然初期装備に含まれてないので自分にあった質のいいものでなくとも間に合わせな剣で我慢しなければならないこともあるのだ。


他にも操紫や清明のように用途に合わせたアイテム(人形・呪符)を用意しなければいけない場合もあるので、頑冶たちの仕事はいくらでもあるのだ。頑冶たち生産班が徹夜で作業場に籠るのもそうした事情からだった。……まぁ、頑冶の場合それだけじゃないんだろうけど。



「じゃあ、またな頑冶。いい加減徹夜もほどほどにして体を労われよ。俺は、お前が倒れたりでもしないか心配なんだからな」


「そっくりそのまま同じ言葉を返すぞ、村長。気張り過ぎた。村長こそもう少し肩の力を抜かないと前のように倒れちまうぞ。慌てふためく天狐たちの面倒なんて儂は嫌だぞ」


「あはは……うん、気を付けるさ。じゃ」


「ああ」


そうして頑冶と何時間も話した後、俺は工房を後にした。


お久しぶりです。未来の皆さまお待たせしました。受験中に書き溜めてしまった第一弾です。


この後に続くか謎ですが、スットクしてしまったなら一日後に新たに第二弾が投稿されます。連続投稿が続けば続く程、現実逃避した結果になるので情けない話ですが、作品に罪はないので楽しんでださい。


あ、感想待ってます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ