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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
27/114

25 「村長、森で散策」

「ん、今日はこれで終わる」


稽古が終わると、レナ達3人は黒士の言葉に返事を返す余裕がないほど息も絶え絶えだった。

レオンに至っては、ヒューヒューとか細い吐息を漏らしながら地面に倒れ込んでいる。


俺が見学するなんていったせいなのかなーと、ちょっと居心地悪く感じてポリポリと頬を掻く。


「村長、回復かけて欲しい」


「ん、ああわかった【癒しの光(ライトヒール)】」


3人とも怪我という怪我はしてないが回復呪文(スペル)は疲労にもある程度効果があるので、地面に座り込んだ3人を包み込むように魔法の光が降り注ぐと、3人ともすぐに乱れていた呼吸が落ち着いた。


「お疲れさん、ほら喉が渇いただろ」


大量の汗をかいた3人に手ぬぐいと木のコップに入った果汁ジュースを差し入れる。

すかさずアッシュが俺からコップを奪い取って中身を煽るようにゴクゴクと一気に飲む。


「プハァ、おかわりっ! 」


口に入りきらずに顎を伝って滴り落ちるジュースを豪快に腕で拭いながらアッシュは空になったコップを俺に差し出した。俺は苦笑しながら差し出されたコップにアイテムボックスから出した果物をいくつか入れて呪文(スペル)を発動する。


「【飲み物作成(ドリンククリエイト):フルーツジュース】」


パッとコップの中が光って果物が一瞬のうちにピンク色の液体に変わった。アッシュは、結果を見るよりも早くコップを口元に運んで中身を煽った。その様子を見ながら恐る恐るコップを差し出してきたレナとレオンにもジュースのおかわりを作ってあげる。


レナは未だにこういう時オドオドと申し訳なさそうにしているが、逆にアッシュは最初からこういう時は遠慮が無かった。こういう時に関してはアッシュくらいに遠慮がない方が気が楽だと思えてしまう。


アッシュは、もう満足したのか俺に空のコップを渡して中庭にある井戸へと向かった。

(釣瓶)を落して井戸から水を汲み上げたアッシュは、徐に上半身裸になると水を頭から被った。


「気持ちぃー! 」


そう叫びながらブンブンと頭を振って周囲に水滴を飛ばすアッシュの姿は、水場ではしゃぐ犬のように見える。

髪からポタポタと水滴を垂らしながら家の中に入ろうとするアッシュに、レナが自分の手ぬぐいを持って慌てて駆け寄る。


「アッシュ、まだ全然拭けてないじゃない! もうっ、家に入る時はちゃんと拭いてっていつも言ってるでしょ! 」


「うわっやめろ。自分でするからっ! 」


アッシュは手足をジタバタさせて抵抗するけど、手慣れた様子でレナは濡れそぼったアッシュの頭をわしゃわしゃと強引に拭いていく。

一方レオンは、それを呆れた様子で見ながら汲んだ井戸水に手ぬぐいをつけて汗を拭ってる。


レオンの方がずっと大人だなとアッシュと比べて思う。


取りあえず、自分の分をアッシュに使ったレナには代わりの手ぬぐいを渡した。



黒士(コクシ)はこの後どうする予定? 」


「森に行く」


ジュースをちびちびと飲んでいた黒士がボソッと言葉少なめに答える。

黒士が森に行くとした狩猟が目的かな?


そう言えば俺って話には聞いてたけど森には一度も言ったことなかったな


「誰と行くんだ? 」


「1人」


「じゃあ俺も一緒に行っていいか? 」


黒士はコクンと小さく頷いた。



「俺も! 俺も森に行きたい! 」


俺と黒士の会話に聞き耳を立てていたアッシュがはいはーいと威勢よく手を上げて主張してきた。


「ダメ」


「うん、無理だな」


俺と黒士は揃って即答する。

考えるまでもなくアッシュがあの森に連れて行くのは無理だ。



「なんで! 俺だって――ふむぐぅ!? 」


「アハハ……カケルさん、どうぞアッシュの言うことは気にしないで2人で行ってください」


後ろからアッシュの口を塞ぎながらレナは空いた手を振って送り出してくれる。


その言葉に甘えてアッシュがこれ以上ごねる前に俺と黒士はさっさと森に行くことにした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


村から全力疾走で約20分で辿り着いた森は、思っていたよりも広大で、目につく木々はどれも巨木で上も下も緑で覆われた大森林だった。


こんな森なら確かに様々な霊草薬草が手に入るのも頷ける。

早速、薬の素材になる目の前の巨木の露出した根に貼りついた苔を見つけた。


今すぐにはいらないけど、少しだけ採取しておこうかな。

そう思って、根に貼りついた苔の一部をもいで、皮袋に入れた後アイテムボックスにしまう。


やはり森に来てよかった。

その後も周囲を警戒しながらズンズンと森の中に入っていく黒士と逸れないように後を追いながら目についた素材を採集する。

ほどほどにしないと遅れるので採集する素材は主に、保有しておきたいポーションや武器防具などの素材や代用素材だ。流石に木を伐採している暇はないけど、木に絡みついた蔦や藪くらいなら鉈を振るえば簡単に入手できる。また採りにくるかもしれないから、採取後のケアも忘れないようにしておく。



「ん? 」


採集に夢中になっていると何かが接近してくるのに気付いた。前を歩いていた黒士がすっと傍に移動してきて、敵性反応を示す存在から俺を庇うように立つ。


「モンスターか? 」


「恐らく、村長ジッとしてて」


モンスターの接近に伴い黒士が戦闘モードに切り替わった。

ブゥゥンと低いうなり声が響いて、ヘルムの隙間から見えていた白い光が赤く変わり、鎧に刻まれた紋様がより一層蒼く輝き始める。



巨木の影から現れたのは、大きな猪だった。

体高は、黒士よりも頭一つ分小さい二メートルくらいだが、全長四メートルはあるんじゃないかというくらい大きな猪だ。体格に見合った立派な象牙のような白い牙を二本伸ばして、毛は樹皮のようなこげ茶色で硬質そうだ。


このモンスターは、ゲームでも見たことがある。確か『リジウッドボア(剛樹猪)』という名前だった筈だ。森に出るウッドボア(樹猪)の上位種で、HPと防御力が高く、斬撃耐性もあった気がする。固有能力で【不屈の精神】を持ってて強者にも尻込みせずに得意の突進攻撃を仕掛けてくる。


仲間の時は敵のヘイトを稼ぎやすいそこそこ優秀な前衛になるけど、敵となるといくら威圧しても構わず攻撃してくるうざいモンスターだった。今回もまた強者の黒士の威圧に気圧された様子もなく鼻息荒く興奮した様子で今にも突進してきそうだ。


「黒士、牙と毛皮はいい素材になるからあんまり傷つけないようにしてくれ」


「わかった」


俺の頼みに黒士が剛樹猪に顔を向けたまま頷いた。


「ブモォォオオオオオオ!! 」


剛樹猪が吼えた。

そして、小規模の地揺れを引き起こしながら真正面から黒士に突進してきた。


「【貫く剛剣ストロングソードスピア】」


腰を落として構えた黒士の大剣に赤いオーラが纏わりつき、黒士はその剣を真正面から突っ込んでくる剛樹猪に突き出した。


「ブモッ!? 」


大剣を持つ黒士の左腕が一瞬霞む速度で繰り出された大剣による突きは、赤と青が入り混じった軌跡を空中に描いて剛樹猪の眉間を貫いた。剛樹猪の硬い毛皮も頭蓋骨もあっさりと貫いて刃渡り二メートルの大剣が根元まで入った。


即死だったが、突進してきた剛樹猪の勢いまでは殺せてない。

黒士は、勢いを利用して剛樹猪が貫いたままの大剣を片手で持ち上げ、剛樹猪を背後の地面に叩きつけた。

手加減して投げたのか俺の頼み通り、地面に叩きつけられたが牙には損傷がなく、毛皮の損傷も最小限だった。


ズルリと大剣が眉間から抜くと、大剣には血と脳漿がべっとりとついていた。


「【清浄水(クリンアクア)】」


むわっと辺りに漂った血生臭さに思わず鼻に手を当てながら、手早く剛樹猪の死体をアイテムボックスにしまって黒士の大剣の汚れを洗い流す。


その間も注意深く周囲を警戒していた黒士は、大剣を鞘に戻したのをきっかけに目の光が赤から白に戻り、鎧の紋様の光も穏やかになった。どうやら他のモンスターが乱入してくることなく無事に戦闘は終了したようだ。


「お疲れ黒士。流石だな」


「………ん」


黒士の背中をポンと叩いて労うと、黒士は満足そうに頷いた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



その後も散発的に遭遇するモンスターの相手を黒士に任せながら俺は、採集に精を出した。

俺としては、色々と植物系の素材が集まってホクホクだった。

流石にエーテルやエリクサーのような最上位アイテムの素材になるような貴重で希少な素材は見当たらなかったけど、ポーションの上位ポーションであるハイポーションの素材がまとまった数、手に入ったのは素直に嬉しかった。


全てのアイテムに言えることだがポーションには、ランク(等級)がある。

低位のポーション、中位のハイポーション、上位のエクスポーション、最上位のエーテルやエリクサーと、決まっていて番外(ランク外)にローポーションやスライムポーションというものもあったりするけど、基本的にその四つのランクに分かれて、更に低位から上位までのランク内では低級、中級、上級の三つに分けられてる。


ランク内での階級の差は、HPやMPが増えてくると大した違いにはならないけど、ランクが一つ上がるだけで回復量は格段に上がる。

エクスポーションはもちろん、エーテルやエリクサーなんかもアイテムボックスの肥やしになる程持っていたゲーム時代なら兎も角、全てを失ってしまった今ハイポーションが作れるようになっただけでも嬉しい。


というか、エクスポーションになると素材が手に入ってもまだ設備の関係で精々低級までしか作れないので、今のところあればいい程度で優先順位は低い。早く設備を整えないとなー



「村長、戻る? 」


黒士にそう言われて、空を仰いで時間を確認する。

空は、緑のカーテンで遮られていたけど、その隙間から太陽の位置は確認することが出来た。

大体、昼ってところかな?


「そうだな。もう十分素材が集まったしな。黒士はもういいのか? 」


「十分、満足」


結局黒士が何の目的で森に来たのか聞かずじまいだったが、満足できたなら良かった。


「そっか、なら帰るか」


意見があった俺たちは、来た道を引き返して村に戻った。


帰り際にもモンスターに襲われたが、黒士が難なく撃退してくれた。

モンスターの素材も集まって有意義な散策だった。また天狐たちと一緒に行ってみるのもありだな。



リジウッドボア(剛樹猪)

森に生息する猪型のモンスター(魔獣)

ウッドボア(樹猪)の上位種であり、高いHPと防御力、そして斬撃耐性を持つ。

【不屈の精神】という固有能力を持ち、相手が格上だろうが構わず突進攻撃を仕掛けるのが特徴。敵としてはうざいことこの上ないが、味方にすると前衛としてそこそこ優秀。


肉は煮込みが美味。牙は武器の素材にもなるが、他にも威圧耐性の効果を持つアクセサリーの素材としても使われる。毛皮も斬撃耐性が高めの革防具などに使われる。他にも色々と使い道がある。


カケルの仲間にも元剛樹猪のモンスターがいるが、いつ登場するのかは未定。



癒しの光(ライトヒール)

【光魔法】スキルの呪文(スペル)

【水魔法】の【水の癒し(アクアヒール)】に相当する光属性回復呪文の中で最下級の呪文。

回復量は、【水の癒し】と比べて若干劣るが単体ではなく一度に複数の対象を指定して回復できる。

冷却時間は少し長いがMP消費量は比べてそれほど差がない。


飲み物作成(ドリンククリエイト):フルーツジュース】

【調理】スキルで覚える呪文(スペル)

調理法(レシピ)に存在するものをMPを消費する代わりに工程を省略して素材を完成品に変える。

品質は均一だが、手間をかけて作ったものよりは数段劣る。


貫く剛剣ストロングソードスピア

【大剣】スキルで覚える武技(アーツ)

高速の突き技。高い貫通力を持ち、STR(筋力値)に応じて貫通力は増加する。

場合によっては、例え盾で受けてもそのまま貫通することもある。



総合評価ポイントが七千を突破しました。ありがとうございます。


感想欲しい。ちょう欲しい。


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