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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
二章 村長たちの村おこし
26/114

24 「村長と朝稽古」

「村長、いつでもいいぞ」


二メートルを越える巨体に見合った巨大な盾を構えたゴブ筋と対峙する。盾を構えたゴブ筋からは肌をピリピリさせるほどの威圧感を感じる。この威圧感には未だに慣れない。


「いくぞ! 」


しかし、尻込みしていては稽古にならない。俺は意を決して前に出た。

ゴブ筋との間にあった距離を瞬く間につめて、鉄剣をゴブ筋の太もも狙って振り下ろす。

間に盾が挟まれて攻撃を防がれた。パッと火花が散って甲高い金属音が響く。


防がれたことは気にせず、即座にゴブ筋の後ろに回り込んで今度は脇腹狙って全力で突きを放つ。

剣先がゴブ筋の体を貫くよりも早くまたもや間に盾が挟み込まれて、盾の表面を滑るように剣を受け流された。全力で放った突きが受け流されて体が泳いだ。


「あ」


やっば、と思った時には、金属製の盾が正面から迫ってきてぶち当たった。

当たった衝撃で五メートルくらい吹き飛ばされた。上手く着地できるわけもなくゴロゴロと惨めに地面を転がる。


超痛い。ふとももから顔にかけて盾が当たった箇所がジンジンと痛む。

これでも加減しているんだから泣けるよ。


痛みを我慢してすぐに立ち上がって剣を構える。ゴブ筋は、油断なく盾を構えてる。

やっぱ魔法(スペル)武技(アーツ)を縛ったのは無謀だったかなーと今更ながら思うけどこうでもしないと稽古にならない。


そう思うことにして俺は再び愚直に前に出た。


今日は何回吹き飛ばされるかな……と思いながら



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うぶぶぅ………」


「……村長、大丈夫か? 」


地面にうつ伏せで倒れる俺に心配して声をかけるゴブ筋に右手をプラプラと振ることで無事をアピールする。


稽古は盾持ちゴブ筋に剣での打ち込みに始まり、盾を剣に持ち替えたゴブ筋との打ち込みやお互い無手での素手喧嘩などを行なった。


稽古は、俺のHPが半分を切ったら終了だ。

稽古が進むにつれてゴブ筋が積極的に手を出してくるようになるともうどこが痛いのかわからなくなってくる。なのに骨が折れた様子はないのはゴブ筋が絶妙に手加減してくれてるのか、それとも俺が丈夫なのか……この時ばかりは自分の高性能な身体能力が恨めしい。



「【火精の活力】」


もう稽古は終わったので、回復呪文(スペル)を使って減少したHPと痛む体を癒す。


「ふはぁ……」


一瞬で体から痛みと疲労が消えた感覚に思わず吐息が漏れた。心地いいとも言えるこの感覚は、何度やってもなれないな。HPからすれば、完治したわけではないけど、減ったHPの三分の一まで回復すれば痛みや疲労はもう気にならなくなった。残りのHPも二分ほど大人しくしてれば全快する。

体を起こして、地面にあぐらを組んで座って自分の状態を確かめる。やっぱり何度も地面を転がされて全身泥だらけだった。


「【清浄水(クリンアクア)】と【完全修理(パーフェクトリペア)】」


呪文(スペル)を唱えて、服や体についた汚れを洗い落とした。ついでにボロボロになった稽古用の鉄剣を修理した。剣の手入れも呪文一つで、新品同様にできるんだからやはり魔法は便利だ。


「すまない村長、この盾にも頼む」


「ん、【完全修理(パーフェクトリペア)】」


盾が薄らと緑色に輝くと表面にできた拳状のへこみが消えていくように治った。本気で殴ると鋼鉄製の盾をへこませれるんだから俺も大概やばいな。


「ゴブ筋、今日はどうだった?」


「昨日よりはマシになってる」


昨日よりは、ね。

昨日も一昨日も同じこと言ってたな。まっ、嘘でもないんだろう。


朝食をとった後に剣の稽古をするのが最近の日課だ。

自分でも初日と比べたらマシになってると思う。というか思いたい。


日本と比べて村が盗賊に襲われるような治安の悪さで、村を出ればモンスターが跋扈するこの世界は酷く物騒で危険に満ち溢れている。ゲームと違って死んでしまったらどうしようもない。いくら仲間達が優れてるからといって戦闘で俺が何もできないのはいざという時に命が危ない。自分の身を守れるくらいの力は持っておきたい。


そう思って始めたんだから少しは上達してないと悲しい。



「村長、これからどうする? 」


「んー? 取りあえずレナ達の様子を見に行こうかな。あっちもまだやってるだろうし」


俺の剣の稽古のようにレナ、アッシュ、レオンの3人の子供たちも鍛錬をするようになった。

まぁ、俺のように真剣を持って戦う実戦ではなく村をぐるぐると走ったり、素振りをするだけの基礎練習から始めている。

元々自主鍛錬をしていたアッシュと違ってレナやレオンは剣どころかまともに体を鍛えてなかったし、黒士たちからすればアッシュも体力にはまだ難があるらしいので、まずは地力を高めていくことにしたそうだ。



多分、今は中庭で素振りをしてる頃だと思う。

様子を見に行こうと思い、俺は子供の家の中庭に向かった。



◆◇◆◇◆◇◆


生け垣を飛び越えて中庭に入ると、予想通り3人が素振りをしていた。


「やぁ! やぁ! やぁ! やぁ! 」


「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ! 」


「ゼェ…ゼェ……ハァ…ハァ……」



レナは随分と気合を入れて短剣を振っていて、長剣を持ったアッシュの素振りは3人の中でずば抜けて速く鋭そうだった。しかし、レオンは随分と疲労してるようでフラフラになりながら木剣を振っていた。


レオンは、アッシュと同じ12歳で緑髪碧眼の線の細い少年だ。元々剣よりも魔法に憧れて日頃外で遊ぶよりも部屋で魔法書を読んでいることの方が多かったレオンは、3人の中で一番体力がない。

まぁ、レオンは2人と違い魔法使いになることを明言していて、これとは別に魔法の指導を受けてる。

レオンがこの基礎練習に参加しているのは、偏に体力作りが目的だった。

村が盗賊に襲われたことで何か思うことがあったんだんだろう、それはレオン本人が自主的に参加してのことだった。レオンは息も絶え絶えにフラフラになっていたがそれでも前を見据えて精一杯木剣を振っている。



また、レナとアッシュの2人がいつも以上に気合が入ってるのは、多分今朝2人に渡した剣が原因だ。

遺魂珠を嵌めこめる護身用の武器として2人にそれぞれ短剣と長剣を渡した時は目に見えて喜んでいた。


遺魂珠のことは、すでにレナ達には話している。

死者が夢の中に現れ生者に託していくものが遺魂珠だ。それは言い伝えでもなんでもなく揺るぎない事実で、この異世界では葬儀の最中によくあることらしい。そして、遺魂珠は遺族(遺された者)にとってとても大切なものであるが、遺族以外の遺魂珠を死者から託された俺のような存在(託された者)にも遺族たちの後見人として死者から頼られたという意味を持っている。

そのおかげで、俺たちがこのまま村に留まって一緒に暮らすことを受け入れられたくらい特別な意味を持っている。


また、遺魂珠には特殊な力が宿っていて、それ単体でも所有者から災厄を退け、幸を呼び込むとされていて、魔導具の一種である遺魂珠を使った遺具(レリック)がある。


アクセサリーや道具などに遺魂珠を装飾の一部として使用するだけで魔導具としての効果を発揮する遺具(レリック)は、この世界の魔導具に疎い俺にも簡単に作れてしまうくらいとてもシンプルな作りをしていた。


俺は遺具(レリック)として剣を希望したレナとアッシュのために剣を打って、今日それを渡した。だから、2人とも貰ったばかりの剣を使ってする素振りには随分と気合が入っていた。


あ、もちろん他の子達にもそれぞれ希望した形の遺具(レリック)を渡している。

一番幼い2歳のケティは、口に入れても大丈夫なように作ったペンダント、まだ5歳だけど女の子のローナには髪飾り、11歳のリンダには小さな色つき水晶をあしらったちょっと豪華なペンダント、そして魔法使い希望のレオンには杖を渡した。


それがきっかけで、子供達との距離も少しは縮まった気がする。それだけで頑張った甲斐はあった。



「……村長、なに? 」


何となくレナ達が頑張ってる様子を眺めてると、レナ達の面倒を見てくれている黒士(コクシ)が声をかけてきた。レナ達を怖がらせないために人の姿をとっている今の黒士の姿は、随分と小さくなって今の身長は俺よりも頭一つ小さくなっている。禍々しかった鎧は随分とデフォルメされて、可愛くなった。そして、ヘルムがなくなり黒士の素顔が顕わになっていた。いや、リビングアーマー(生ける鎧)である黒士には本来、鎧の中身というのはある筈がないのだけど人の姿を取った時の素顔は、銀髪黒目でキリッとした剣を連想させるような凛々しさを持っているけど、童顔で可愛くもある。

俺は、黒士の本来の姿であるあの禍々しい感じの騎士姿が気に入ってたので、ゲームの時ではずっとそのままだったけど、こうして見ると人の姿も悪くないと思う。


「おー黒士お疲れー。先生役は楽しいか? 」


「うん、教えるのはやはりいい」


「そうかそうか」


黒士は、感情を表に出すタイプではないけど、言動からしてレナ達のことを好ましく思っているのは伝わる。何かそのことが自分のことのように嬉しく思えて、つい顔が綻んでしまう。黒士の頭をポンポンと叩く。それが嬉しかったのか少し口角が上がった。


「村長、最後まで見る? 」


「んー……そうしようかな。話は聞いてるけど、実際どんな感じなのか気になるしな」


急ぎだった遺具(レリック)の製作も終わって、他に優先してやることも特にない。

昨日までは、稽古が終わってすぐに鍛冶場などで遺具(レリック)の製作をしたりと忙しくてレナ達の稽古を見る暇がなかったので、この機会に見るのも悪くないな。



わかった、と言ってレナ達の元に戻っていった黒士は随分とやる気が入ってる気がした。

……黒士の鎧から何か禍々しいオーラのようなものが出ているのは俺の見間違いだよな?




遺魂珠(いこんじゅ)

遺した者を想う死者の気持ちが結晶化したもの。

葬儀の最中に死者の恋人や弟子、親友、師匠、親子など遺された者の夢の中にその死者が現れると手に入る。

原則、1人に一つだが、遺された者がまだ幼児である場合やその葬儀の場にいない時は、1人に複数個手に入ることもある。死者から託された者は、時には子供の親代わりになることもあり、珍しいことではない。

今回のカケルの場合もそれに該当し、ついでにその村の故村長から任された関係で村長代理にもなった。それで子供が納得するくらいに託された者は遺された者たちには信頼するに値すると評価されてる。



遺具(レリック)

遺魂珠を使った魔導具の総称。

作りは、他の魔導具と比べてとてもシンプルで遺魂珠さえあれば安価に済ますことができるが、遺魂珠に認められた者でないと効果を発揮しないどころか、最悪呪うこともある。

そのため、他者の遺具(レリック)を盗むことは強い禁忌とされ、盗賊でさえ遺具(レリック)は忌避するほど。

身に着けていないと効果を発揮しないので、アクセサリーや衣類、武器防具などであることが多い。

また、遺具(レリック)の剣は、遺剣(いけん)と呼ばれている。




黒士は、人の姿をとると♀になります。

騎士風無表情無口娘可愛い。


鎧が本体であるリビングアーマーが人の姿になると、素っ裸になるのが自然だと思った貴方!


そんなことはありませんからね。あくまで人に似せてるだけであって、本当に人になってるわけではありません。


あと、察してる方もいるかもしれませんが、カケルは男女関係なく人の頭を撫でる癖があります。

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