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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
23/114

21 「村の葬儀」

「他に聞きたいことはありますか? 」


「いや、もう十分だよ。これだけ聞けば大丈夫だと思う。ありがと」


家まで戻ってきた俺は、寝てしまったアッシュをベッドに寝かしつけた後すぐにレナからこの世界での葬儀のやり方を聞いた。

やっぱり世界が違えば葬儀のやり方や死生観も日本とは違っていた。

理にかなった理解できる部分もあれば、よく分からない部分もあった。


一度聞いただけじゃ完璧に覚えれるほど記憶力は良くないので忘れないようにレナの話はウィンドウ機能の1つのメモ帳を使ってメモを取った。

ゲームではあんまり活用してなかったけど、ここでも使えるとなれば今後活用していくことになりそうだ。


レナには他にもいくつか聞きたいことはあったけど、今から準備しないといけないものが多いので時間がない。聞くのはまた別の機会だな。



もう冷めてしまった薬茶を一気飲みして席を立つ。それに合わせて隣に座った天狐も席を立った。


「じゃあ、俺はこれから仲間達に話をつけてくるよ。レナはどうする。一緒にくるか? 」


「はい。一緒に連れてってください」


「俺の仲間は天狐だけじゃなくて、昨日レナが会ったゴブ筋のようなちょっと怖い見た目の奴もたくさんいるけど大丈夫? 」


「………大丈夫です」


少し間があったけど、レナははっきりと答えた。


「そっか、天狐はどうする? 」


「もちろんついて行くわ」


ですよね。


アッシュがいつ起きるか心配だけど、まぁ大丈夫か。

流石にまた暴れたりはしないだろう。



ただ念の為、影朗にはアッシュの傍にいてもらおうかな。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



葬儀の準備に皆は快く協力を申し出てくれた。

準備を円滑に進めるためにみんなにはいくつかの班に分かれてもらった。

と言っても、班分けはみんなに任せたので今まで自主的にまとまっていた班と大して変わらないけど。


レナは、人外の見た目のみんなを見て緊張した様子だったけど、気付いたら比較的人に近い姿をとれるミカエルや妖鈴たち女性陣とは随分と打ち解けていた。

ただゴブ筋とはがっつり距離をとって避けてるので、完全に打ち解けたわけではなさそうだ。

強面の頑冶もそうだし、黒骸やサタンも今日は人の姿をとっていたけど避けられていた。


今はそちらに時間を割けれないけど、その内仲良くなってくれたらいいなと思う。


みんなが迅速に動いてくれたお陰で、作業は順調に進んだ。

作業の途中でアッシュが目覚めて暴れることもなくて昼には全ての作業が完了した。



太陽は、まだ傾き始めた午後の始め。

みんなの協力の甲斐あって、葬儀は日のある内に始められそうだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



葬儀は、作業で汚れた体を清めて身支度を整えたらすぐに行われた。

この世界の葬儀には、喪服なんていうものはなく服は清潔な普段着であれば良かった。

天狐のように自前のまともな服があればいいのだが、妖鈴やゴブ筋と言った流石に葬儀に着ていくには相応しくない露出度の高すぎる服装(ボンテージや腰巻一丁)の参列者には、アラクネの織った布で作った真っ白の衣服を着てもらうことになった。


その頃には寝ていたアッシュも目を覚まして、レナの説得に応じて大人しく式に参加することになった。


レナに言われて素直に水浴びを済ませてきたアッシュには俺が作った着替えを一式渡した。お腹も減っていたようなので葬儀の前に野菜スープと野菜炒めを食べさせた。


殴られたこともあって、まだアッシュにはレナと違って苦手意識があったけど、俺の料理をうまそうに食べて小声で「ありがとう」と言われるとただの年下の子供に思えるようになった。少し可愛いなコイツと思った。



葬儀は、レナが執り行った。

本来ならば神官がする役目なんだけど、その人も今回のことで亡くなり代わりをやれる人も同様に亡くなっているので、レナぐらいしか出来る人がいなかった。レナの母親が神官を務めていたこともあって、レナは未経験ながら手順はきちんと学んでいたのが幸いだった。


安置所の前に母の遺した神官服に身を包んだレナが立ち、そこから二歩ほど下がった場所に参列者である俺たちが並ぶ。その最前列には当然アッシュがいて、俺や天狐もいた。


俺たちに背を向けたレナが膝を折り、木杯に注がれた魔法で生み出した水を大地に注ぎながら、大地に還った魂に鎮魂の祈りを捧げる。

それは、残された自分達より先に大地に還った魂を嘆き、悲しむものであり、大地に還った魂がいつの日か再び大地の上に立つことを願うものであり、大地に還った魂が残された自分達を災いから守り、恵みを与えてくれることを願うものだった。


鎮魂の祈りが一度終わるとレナは立ち上がる。

そして、鎮魂の祈りを繰り返しながらしずしずとゆっくりとした足取りで、一番近い位置にある棺桶に近づき、その棺桶の中に眠る村人の体に腰に吊るした皮袋から取り出した一握りの粉末を振り掛ける。


皮袋の中に入った粉末は、魔を退ける魔除け石を砕いた粉末と瘴気を弾く塩を混ぜ合わせたもので、遺体に振り掛けることで肉体に瘴気が宿らぬ(アンデットにならない)ようにという願いが込められている。


レナは、何度も鎮魂の祈りを繰り返しながら村人1人1人にその粉末を振り掛けていく。

1人にかける時間が1分ほどでも数が数なので、それだけで2時間近くかかった。

その間レナは絶やさず鎮魂の祈りを繰り返し続けた。


本来であれば、これほど大人数になると2度の鎮魂の祈りを捧げる間に、一部の遺体にだけ粉末を振りかけてよしとするらしいのだけど、レナ本人の強い希望で113人全員に行われた。


それが終われば、今度は参列者である俺たちが一束の枯草を棺桶の隙間に供えて回った。


これまた参列者の人数と棺桶の数からして膨大な量の枯草が必要になったけど、幸い村周辺の平原には、有り余るほど生えている雑草の1つだったので、大量に集めて魔法で乾燥させていくことでなんとか用意できた。


俺たちが棺桶に枯草をお供えしていく間、やっと一息つけたレナには、【水の癒し(アクアヒール)】をかけて潰れかけた喉を治療して、水で喉を潤わせた。


参列者全員が、枯草を供え終えると最後にレナが遺体の顔のみがみえるように棺桶の中一杯になった枯草の山を整えて再び鎮魂の祈りを捧げた後、参列者である俺たちが数人がかりで棺桶を持ち上げて、安置所の隣に棺桶の数だけ113個準備した井形に積み上げた木の上にそれぞれ慎重に運び上げていった。


全ての棺桶を運び終えた頃にはもう日は沈みかかっていた。


棺桶を運び終えると俺たちはそれぞれ松明を手に持って、レナの元に集まる。

松明の数は113本。参列者はそれ以上いるので選ばれた代表者が松明を持った。俺も選ばれて松明を一本持っていた。


「―――【火よ(ファイヤ)】」


レナは指先に火を生み出し、その火で自分の持つ松明に火をつけた。

葬儀用に作られた松明は、木の棒に巻く布の材料として亡くなった村人たちの衣服の一部が使われている。


それからレナは自分の松明を使って参列者が持つ松明に火を灯していった。


113本すべてに火を点け終えると、松明を持った俺たちは所定の位置(遺体の目の前)に移動した。


棺桶を乗せた井形に組まれた木の下の地面には枯草が敷き詰められていた。

そこに俺は松明を投げ入れた。

枯草に燃え移った火は、地面を舐めるように勢いよく広がる。

枯草が燃え尽き火は、一時小さくなったが井形に組まれた木に燃え移った火がどんどん大きくなっていき、木製の棺桶にまで燃え移り、棺桶の中に敷き詰められた枯草が一気に燃え上がった。


炎で村人の顔が隠れる。


熱風が頬を撫でる。遠くにいるレナから鎮魂の祈りが微かに聞こえてきた。


周りを見れば、113の炎が生まれていた。

そこで生み出された明かりが、夜にも関わらずその場を明るく照らしていた。


これから火をつけた俺たちは、113の炎を日の出まで絶やさずに燃やし続けるように火の番することになる。火の番は1人でする必要はなかったけど、俺は自分で火をつけたここの火の番は1人でするつもりだった。


あの日、村が盗賊に襲われたあの日にこの村の村長だったこの人は一体どんなことを思いながら死んだんだろうか。


ああ、ダメだ。感傷的になってる。


目尻に浮かんだ涙を拭いながらそう思う。

微かに聞こえる鎮魂の祈りとパチパチと木が燃える音を聞きながら俺は目の前の燃え盛る炎を眺め続けた。




『魔除け石』

本能の強い魔物が毛嫌いする鉱石。『モントモ!!』のゲームでも存在した鉱石。

異世界にも広く分布してどこにでもあるごくありふれた鉱石の一種だが、天然物は純度の低いものが多く魔物避けの効果はないに等しい。魔物避けの効果を発揮する純度の高い天然物は珍しい。純度の高い魔除け石が密集している場所はは天然のセーフティエリアになっている。


異世界には、アンデット化を防ぐために純度の低い魔除け石の粉末を塩と混ぜ合わせたものを遺体の体に塗ったり振り掛ける慣習があるが、「おまじない」の域を出ない。



作中に出た葬儀のやり方は、創作でフィクションです。


113人もの遺体を弔い場合、本来はちゃちゃっと簡略化した葬儀を行なって、1か所に集めて火葬して、燃え残った遺骨を粉々に砕いてからその辺に撒いちゃうのですが、レナの強い希望で手間と時間がかかるやり方になってます。


簡略化しても随分と手間がかかるやり方なのは、そうしないとアンデット化する危険があるからです。詳しくは次話に説明すると思います。




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