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魔王の村長さん  作者: 神楽 弓楽
一章 村長と村民は異世界に
17/114

15 「筆頭村人たちのその頃」

15/02/21

増量しました

「さて、念の為私もここから移動しておきましょうか……そうですね。皆さんにも伝えた方がよろしいですね」


カケルが影朗に連れ去られた後、操紫は誰もいなくなった場所で一人呟いた。

操紫は、周囲を軽く見回すと腰を屈めて足元の落ちている木の葉を数枚拾い上げた。その木の葉を手の平に乗せて口に近づけるとフッと軽く息を吹きかけた。


すると数枚の木の葉は、手の平の上でパズルのように重なりあって一瞬の内に手乗りサイズの小鳥に姿を変えた。

それは操紫の固有スキルである【人形師】によって作りだされた(人形)だった。


「操紫です。村長が生き残った少女に会いに行きました。少女が訪れてくるかもしれないので今日は安置所の立ち入りは控えてください」


操紫は、留守番電話に吹き込むかのように木の葉の小鳥に語りかけた。


「これを2回伝えてください」


「ピピっ」


操紫が伝言を伝え終えると小鳥は甲高い鳴き声をあげて操紫の手の平から飛び立っていった。



◆◇◆◇◆◇◆



『操紫です。村長が生き残った少女に会いに行きました。少女が尋ねてくるかもしれないので今日は安置所に立ち入りは控えてください………………操紫です。村長が生き残った少女に会いに行きました。少女が尋ねてくるかもしれないので今日は安置所に立ち入りは控えてください』



右手の甲に乗った小鳥から伝えられた内容に天狐は、思わず布を織る手を止めた。


「カケル大丈夫かしら……」


小鳥は、伝言を終えるとすぐに開いた窓から飛び立っていった。天狐はそれを見ながら呟いた。

天狐は、それからすぐに思い出したかのように再び布を織りはじめたが、布を一つ織り終えると椅子から立ち上がった。


「ちょっとやることが出来たから行くわね」


天狐は、一緒に布を織っていた女性にそう言った。


「あらそう。村長のところにでも行くの? 」


操紫から伝言が来た時からこうなることは予想していた女性は、布を織る手を止めずに視線だけを天狐に向けて尋ねた。

白銀の髪で緑色の瞳を持つ女性の下半身は巨大な蜘蛛だった。半人半蜘蛛の女性は、カケルや仲間からは『アラクネ』と呼ばれている女郎蜘蛛(ジョロウグモ)という種族のユニーク個体だった。



「ううん、あそこにいくと子供達を怖がらせるかもしれないから私も行けないのよ」


「へーそうなの。あなたでもダメなんて、この世界の人間の子は存外臆病なのねー」


「無理もないわよ。親しい人を一度に失くしてるんですもの。そんな時に自分と違う姿見た目の人が現れたら不安にもなるわ。今はカケルに任せるしかないわ。それにカケルだって結構臆病なのよ? 」


「………知ってる。最初出会った時に村長、私を見て悲鳴をあげてたし……」


女性はカケルと初めて出会った頃の昔を思い出し、ちょっと傷ついた表情になった。


「あれはあなたの登場の仕方に問題があったでしょ……」


天狐もまた、その時のことを思い出して苦笑した。


「……でもだとしたら、どこに行くの? 」


気を取り直したアラクネが改めて聞き直すと天狐はそれに簡潔に答えた。


「ちょっと話してくるのよ。ゴブ筋達とね」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆


肉を! もっと肉を! と大騒ぎする者たちが集まる解体場改め宴会場。

もはや、混沌としたその場所だが、元からいたゴブ筋達は焼肉に目をくれず黙々と解体作業を続けていた。

生真面目とも言えるが、昼食を食べ終えたばかりのゴブ筋達からすれば目の前で行われている焼肉には欠片ほどの興味もなかった。


「コォーン」


「ん? 」


黙々と作業を続けていたゴブ筋は、自分のすぐ傍から聞こえてきた狐の鳴き声に反応して作業の手を止めて視線を下に落とした。視線の先には、ゴブ筋を見上げるように顔をあげた赤い毛並みの狐がいた。

その狐は、全身を覆うように炎に包まれていた。


火狐(ファイヤフォックス)……? 」


仲間に未だ低位のモンスターはいないことを知っているゴブ筋は、初め村の外から来た野生のモンスターかと思ったが、高位のモンスターが騒いでるような場所(宴会場)に近づく筈がないと考え直した。



「誰かの眷属か。俺に何かようか? 」


そう考えると答えは一つしか残っておらずゴブ筋は、解体する際に肉が動かないように固定していた手を離し、解体ナイフを腰の鞘に仕舞って火狐に尋ねた。


「コォーン」


火狐がゴブ筋の言葉を肯定するように鳴くと、火狐の体から炎が立ち昇った。

その炎は、一瞬にして治まったが空中に燃える文字(●●●●●)を残していた。


空中に書かれた文字は、日本語だった。


『天狐です。カケルのことで相談したいことがあるのでその子について来てください。もし、そこにポチがいるのなら一緒に連れてきてくれると助かるわ』


「……わかった。ちょっと待っててくれ」


ゴブ筋は、それを一読すると僅かな逡巡の後大きく頷くと、天狐の使いである火狐に一言言い残し他の解体班のメンバーに持ち場を離れる旨を伝えると、のっしのっしと早足で宴会場の中に入っていき、しばらくして口元を脂でテラテラしている白い巨狼のポチを連れて戻ってきた。そして、おもむろに頭に乗った木の枝で出来た冠の葉を引きちぎるとその場に無造作に放った。


「我が呼び声に応えよ!【召喚(サモン)グランド(小鬼の)ゴブリンナイト(近衛騎士)】」



ゴブ筋が放った葉がカッと光ると、葉を中心に光り輝く緑色の魔方陣が現れ、そこから白銀の全身鎧を身に包み、額から角を生やした緑色の肌をした鬼が剣を地面に突き立て片膝をつき頭を垂れた姿で現れた。


「我ガ王ヨ! 何ナリト! 」


「立て」


「ハッ! 」


ゴブ筋の指示に即座に立ち上がったグランドゴブリンナイト(以降はゴブリン)にゴブ筋は近づくと自分の腰から解体ナイフを引き抜いてそれを渡した。


「代わりを任せる」


「……ハ? 」


ゴブ筋の意図が掴めず、ゴブリンは解体ナイフを受け取ったまま硬直する。


「モンスターの解体を代わりに任せる。いいな」


「ハ……ハハァッ! 」


「頼んだ」


ゴブ筋に念を押されゴブリンは、慌てて騎士の礼を取って答えた。



「待たせた。天狐のところまで案内してくれ」


「コォーン」


そして、ゴブ筋は困惑するゴブリンを残しポチと共に火狐の案内のもと天狐がいる場所に向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



一方その頃、小鴉は眷属の鴉天狗を動員して村周辺の地図作製に精を出していた。


ゲームでは、マップに細かな地形からモンスターの数や種類、薬草などの植物の分布や鉱石や宝石などの採掘場所を反映させるためには【地図作成】というスキルを駆使して必要な情報をその足で集める必要があった。

そして、そのスキルはプレイヤーだけでなくモンスターたちも基本スキルの1つとして存在していた。

何故なら仲間のモンスターが集めた情報がプレイヤーのマップに共有される仕様だったからだ。


異世界に来てからカケルのマップは、正常に機能していない。そして、マップが機能しないために小鴉たちがいくら【地図作成】スキルを駆使して情報を集めてもその情報はマップに反映することはできなかった。


なら自分たちが得た情報はどうするべきか。


小鴉はそう考え、紙に直接書きとめていく方法に至った。幸い、地図を書くための紙は【製紙】スキルによって簡単に手に入れることが出来、地図を書くための知識も小鴉は知っていた(●●●●●)


小鴉は、鴉天狗たちが集めてくる情報を紙に書き込み、少しずつではあるが地図を作り上げていっていた。



「では、お前たちには次にここに向かってもらう」


「「「ハッ!! 」」」


小鴉に対して頭を垂れると鴉天狗たちは、指示された場所に飛び去って行った。

誰もいなくなった上空で小鴉はしばし、鴉天狗たちが集めてきた情報を頭で整理し紙に書き止めていると、一匹の狐が小鴉の元に現れた。


「キューン」


白狐(びゃっこ)……天狐の使いか? 」


当たり前のように空中に浮かんでいる尻尾が三本ある白い毛並みの狐を見て、小鴉はすぐに当たりをつけた。すでに村周辺の野生モンスターの種類は粗方把握していた。


「何の用だ? 村長にまた何かあったのか? 」


天狐がわざわざ眷属を使ってまで自分を呼ぶ理由が他に思いつかなかった小鴉は、白狐にそう尋ねた。


「キューン」


白狐が一声鳴くと、白狐の三本の尻尾の先から青白い炎が燃え上がり空中に文字を書いた。その内容は、ゴブ筋に宛てたものとほとんど同じものだった。


「ふむ……」


どうしてこのタイミングでなのか、それが分からなかった小鴉は小首を傾げた。


「ピピッ」


『操紫です。村長が生き残った少女に会いに行きました。少女が尋ねてくるかもしれないので今日は安置所に立ち入りは控えてください………………操紫です。村長が生き残った少女に会いに行きました。少女が尋ねてくるかもしれないので今日は安置所に立ち入りは控えてください』


しかし、その疑問はタイミングを見計らったように小鴉の元に飛んできた一匹の小鳥によって解消された。


「なるほど……そういうことか」


小鴉は納得したように1人頷くと紙を丸めて懐に仕舞った。


「そういうことならば、某を天狐の元に案内してもらおう」


「キューン」


小鴉は、そのまま移動を始めた白狐について行こうとして、ふとあることを思い出して自分の翼から漆黒の羽根を1枚引き抜くと無造作にそれを放った。


「我が前に現れよ【召喚(サモン)鴉天狗(カラステング)】」


小鴉の放った羽根がカッと黒く光り、そこから一体の鴉天狗が現れた。


「我が王よ! 如何なされました!」


「用事が出来たので、某はしばしいなくなる。それをお前よりも先に呼ばれてる者たちに知らせておけ」


「ハッ! 我が命にかけましても」


指示に従い、すぐに他の鴉天狗の元へと飛んで行く後姿を見送った小鴉は、今度こそ天狐のもとに案内する白狐についていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ありがとう、よく来てくれたわ」


火狐と白狐が連れてきたゴブ筋たちを出迎えた天狐はそう言って軽く頭を下げた。

それに対して3人は、気にするなとばかりに首を振った。

天狐はそんな3人に微笑みを浮かべたが、その中の1人を見て天狐は少し困った様子を見せた。


「ポチ、あなたその姿が楽なのは分かるけど今だけ人の姿になってもらえるかしら」


「クゥーン? 」


「ポチ、諦めろ」


この姿じゃダメ? とばかりに首を傾けるポチに他の3人はダメだと首を左右に振った。


「クゥーン……」


ポチはしぶしぶと言った様子で首を前に項垂れるとその体が銀色に光りに包まれた。

数秒ほどして光が治まるとそこには、若干不満そうな顔をした白銀の銀髪で青い瞳の子供が立っていた。

その子供の頭からは犬耳が生え、お尻からはふさふさとした尻尾が生えていた。


「これでいいー? 」


「ええ、ごめんなさいね。ありがとう」


天狐に頭を撫でられポチはすぐに機嫌を直し、口元から鋭い犬歯を覗かせながら笑みを浮かべた。



「で、どこで話をするのだ? 」


「外で話すことではないし、ここの家の中で話しましょう。準備は既に済んでるわ。ポチのために少しだけど料理も用意してるわ」


「ホント!? お肉!? ねぇ、お肉!? 」


「ええ、お肉も入ってるわ」


「やったぁ!! 天狐大好き! 」


「はいはい。あ、小鴉は昼食食べていなかったわよね。ついでに用意するわ」


「いや、某は別に」


「そこは遠慮せずに食べなさい」


「……わかった」


「さっ、じゃあ中に入りましょう」


「おっ肉、おっ肉~♪」


「ポチお前、あれだけ食べてまだ食べるつもりか……」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆




天狐がゴブ筋たちを連れて入った家は、頑冶たち生産班が修理をした住む人のいなくなった木造の家だった。中には、天狐が準備した真新しいテーブルと椅子が人数分用意されていた。


「僕この席! 」


中に入るなり、ポチはいち早く気に入った椅子の上に飛び乗った。

遅れて小鴉とゴブ筋がポチを挟むように隣に座った。



「飲み物を用意してくるわね。水と薬茶どっちがいい? 」


「水! あとお肉! 」


「薬茶で頼む」


「薬茶で」


「わかったわ」


天狐は一度調理場に姿を消し、しばらくして四人分のコップとポチと小鴉の分の料理を持って戻ってきた。

ポチは、天狐の尻尾に乗る料理に釘付けで、自分の前に料理が置かれるや否やすぐに食べ始めた。

小鴉はそれを横目で見つつ、天狐から手渡された薬茶を受け取り一口啜った。


「それで……某たちに相談したいこと、とは一体何なのだ」


「……そうね」


天狐は、すぐには答えず小鴉たちとは対面の席に座った。


「今のカケルを見て、あなたたちはどう思う? 」


天狐の言葉に、3人は押し黙った。喜色満面で料理に食らいついていたポチですら、その言葉で浮かない表情に変わり口の中の肉を粗食しながら天狐に視線を向けた。


「………村長は、異なる世界に迷い込んでからも何も変わっていない。某たちのことを何かと気にかけてくださり、不安を覚える者に対しては頻繁に声をかけ、励ましの言葉をかけてくださる。お陰でその者たちは村長を支えに精力的に動いている。故に村長は村長として、立派にまとめあげ行動なされている――などという当たり前の誰もがわかることをわざわざ某の口から聞きたいわけではないないのだろうな」


小鴉がそう言って一度口を噤み視線を天狐に向けると、天狐は肯定するように穏やかな笑みを張り付けて一度だけゆっくりと頷いた。

自分が推測が間違っていないことを確認した小鴉は、気持ちを落ち着かせるように瞑目すると、再び話を始めた。


「――村長は、随分と無理をなさっている。某たちを気にかけるあまりに村長は必要以上に色々なものを背負っている。それがこの村での出来事が重なり悪化の一歩を辿っている。村の少女が目を覚ましてからは特にそれが顕著だ。笑顔もあまり見せなくなっておられる。………無理をしてまた倒れるのではないかと心配だ」


「村長、俺たちと同じように生き残りの子供のことも気にかけている。だから余計に無理をしてるのかもしれない。小鴉の言うように村長、笑顔を見せなくなってる」


「村長、僕の知らないところで泣いてた……すごく泣いてた」


小鴉に続くようにゴブ筋とポチもポツリポツリと零した。

カケルが無理をしていることはこの場にいる全員が気づいていた。そして、それを自分たちに隠したがっていることも皆わかっていた。

カケルのことを誰もがそれとなく注意を払い、気遣いつつも無理をするカケルを止めるための一歩は踏み込めないでいた。


カケルが天狐たちを心配するように、天狐たちもカケルのことが心配だった。



「そんなカケルを励ますためにはどうしたらいいかしら? 」


それだけに天狐が口にした提案に3人は大いに乗り気になった。


『|グラントゴブリンナイト《小鬼の近衛騎士》』

ゴブ筋の固有スキル【鬼王の呼び声】によって召喚されたゴブ筋の眷属の1体。


本来は、ゴブ筋にあだなす者から守る。ゴブリンの精鋭(エリート)中の精鋭(エリート)


決して、モンスターを解体するのが使命ではない。



『火狐』&『白狐』

天狐によって召喚された天狐の眷属。


天狐の伝言を届けるメッセンジャーと、天狐のもとまでつれていく案内役を務めた。本来の役割としてはそれほど外れていない。



『鴉天狗』

小鴉の固有スキル【鳥王の威光】によって召喚された小鴉の眷属の1体。


情報収集としての役目を努める。




※操紫が木の葉から作りだした小鳥は、眷属ではなく操紫の固有スキル【人形師】によって作りだされた一種のゴーレムです。



15/02/21

えっと一話にするには、短くて。次話と一緒にするには治まりが悪かったのでこの話に割り込ませました。すみません

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